第5話
わたしは小説を読むのが好きだ。
最近は小説投稿サイトのカクヨムで、色々な人の書いた作品を読むことにハマっている。
俗にいうところの
読み専門だから、読専というらしい。多くの書き手たちは、読専のことをなぜか「読専さん」とさん付けで呼ぶ。自分たちの作品を読んでくれる人を
きょうも何処かに面白い作品はないかと、作品の海の中へと潜り込む。
埋もれた作品を掘り出す。
そういったことをする読専のことをスコッパーと呼ぶらしい。
わたしは別にスコップを目的としているわけじゃない。ただ、好きな作品に出会いたいだけなのだ。
小説は本で読むこともある。それはプロの作品だ。でも、わたしが読みたいのは、同年代の人が書いた作品。大人と子どものちょうど境目。このどっちつかずな微妙な立場。そういった状態を共感できる作品に出会いたい。そう思いながら、日々スマホで作品を探している。
きょう、同じクラスの男子生徒に告白をされた。
あ、「あなたが好きです。付き合ってください」的な奴じゃなくて「実は……」的な方ね。
どうやら、彼は書き手さんらしい。
カクヨムを見ているのは知っていた。なぜなら、わたしは彼の後ろの席にいつも座っているので彼のスマホの画面は結構見えるのだ。
でも、まさか彼が書き手さんだとは思いもよらぬことだった。
その告白を受けた時、わたしは身体の奥底から震えたよ。
こんな近くに書き手さんがいたなんて。
あまりの衝撃に感情というものをうまく表現が出来なくなってしまっていた。
本当ならばハイテンションで色々と話しかけたいところだったのに、感情がバグってしまったせいで、思わず無感情モードとなってしまった。
あれじゃあ、塩対応って思われてもおかしくはないよね。
どうにかして、明日学校であったら誤解を解かねば。
昨日、椎名くんから衝撃の告白を受けて、ずっとカクヨムで椎名くんが付けそうなペンネームや作品名を探しては見ているものの、その作品を見つけることは出来ずにいた。
彼はどんな作品を書いているのだろうか。そればかりが気になってしまい、普段フォローしている書き手さんの作品を全然読めていなかった。
突然車内に甲高い金属音が響いた。
遅れるようにして『急停車します』とのアナウンスが流れる。
身体にかかるG。吊革につかまっていた萌歌の体は後方へと引っ張られて行く。
電車が停まった。
『前方の踏切で車が立ち往生しているため――――』
車内アナウンスが流れる。
あー、びっくりした。何事かと思ったよ。
萌はそう思いながら、スマホの画面に視線を戻す。
揺れに耐える際に、間違って画面を触ってしまったようでカクヨムのトップ画面から、作品ページへと画面が遷移していた。
「なにこれ?」
開かれていたのは、誰かの小説のページだった。どこかのリンクを触ってしまったようだ。
『寝取られゴブリンの一生』
そのタイトルを見て、ゾッとした。それは萌歌が絶対に読むことは無いであろうタイトルの小説だった。異世界ファンタジーは好きだ。でも、寝取られとか、そういったジャンルは無理だった。それにどうして、ゴブリンが寝取られなきゃならないの。そんなの誰に需要があるっていうわけ。だめだ、生理的に受け付けられない。
思わず無意識下で一ページ目を開いてしまったが、見なかったことにしよう。
そう考え、萌歌はそっと、そのページを閉じた。
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