第4話

 星降る夜が来なくてもいいから、せめてハートフルな夜が来てほしい。

 あ、ハートフルというのは、ハートが降るという意味で……。


 おれの名は椎名ソウタ。カクヨムでのペンネームは秘密だ。

 執筆活動歴は、今年で二年。主に異世界ファンタジー小説を書いている。


 おれの紹介なんていうのは、どうでもいいんだ。

 ちょっとさ、あんたに聞きたいことがあるんだよ。


 そう、あんただ。


 あんたは伝説のスコッパーの噂をしっているかい?

 そうだよ。SNSでいま話題になっている、あの伝説のスコッパーさ。

 知らないわけがないよな。もし、あんたが知らないっていうなら、あんたは嘘つきか、ただの情弱なんだな。SNSやっていないのかい?

 カクヨムを出入りしている人間であれば、誰でも知っているはずさ。あんたが、書き手でも、読専であったとしても。

 もし、本当に知らないっていうのであれば、まずはそれを調べてから、おれの話を聞きに来るべきだったな。


 そうそう、いまからググっても無駄さ。

 伝説のスコッパーの話は表の世界には出てくることはない。当たり前だろ。伝説なんだ。

 まあ、いい。とりあえずは、おれの話を聞きなよ。


「――――くん」

「しいなくん――」

「椎名くん――」


 どこか遠くから声が聞こえてくる。

 違和感を覚え、顔をあげるとそこは教室の中だった。


「あ、起きた」

「え?」


 顔をあげたソウタの前にいたのは、三戸さんだった。


「あ、あれ?」

「もう、放課後だよ」

「え……」


 ソウタはキョロキョロと辺りを見回した。

 教室の中に、ほとんど生徒たちは残っていない。


「あれ?」


 たしか、さっきは数学の時間だったはずだ。

 時間が飛んだ……。

 ソウタはそう考えていたが、ただの居眠りだった。


「あのさー」

「え?」

「椎名くんってさ、カクヨムで何を読んでんの」


 スマホをポチポチといじりながら三戸さんが聞いてくる。

 え、そこブッコんでくる?

 ソウタはドキドキしながら、自分のスマホを眺める。


「え……と」


 答えるべきか。自分は読み手ではなく、書き手であるということをカミングアウトするべきか。ソウタは悩みに悩んだ。

 その間、0.2秒。


「実はさ……」


 きっと声は震えていた。

 そして、スマホを持つ手も。


「おれ、小説書いているんだよ」

「へー。すごいじゃん」


 三戸さんはサラリと言った。

 あれ?

 思っていた以上に反応が軽かったため、ソウタは肩透かしを食らった気分だった。


「え、あの、おれ、小説書いているんだ」

「うん。そうなんだ」


 別に聞こえていなかったわけではないらしい。

 もっと食いつかれると思ったのに。


「すごいじゃん!」って言われると思っていたのに。

「なになに、どれ。見せてよ」って言われると思っていたのに。

 ソウタはあまりに塩対応な三戸さんの姿を見ながら、しょんぼりとしていた。

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