第6話
きょうのPV数1。
何度も確認をしたが、その表示に間違いはなかった。
なぜ、完結して一年も経ったいま『寝取られゴブリンの一生』にPVがついたのか。
そして、なぜ1だけなのか。なぞは深まるばかりだった。
スマートフォンの画面を見つめながら、ため息をついたソウタは、もう一度だけきょうのPVを確認してから画面を閉じた。
PV数1。別にフォローされたわけでもない。
ここ数か月PVがつくことすらも無かったというのに、突然なにが起きたというのだろう。
もしかして、伝説のスコッパーがおれの作品をスコップしに来たのか?
これは何かの前兆なのかもしれない。
そんなことを想像したソウタはひとり震えていた。
放課後の教室で前の席に座る椎名ソウタがブツブツと独り言をつぶやきながら、スマホの画面を見つめている姿を見ながら三戸萌歌はソウタに話しかけるタイミングをはかっていた。
普段であれば気軽に話しかけることができるはずなのに、なぜかきょうは緊張している。
だって彼は、書き手さんなんだよ。本当はそんな気軽に話しかけることのできない存在かもしれないのだ。
どうしよう。もしかして、椎名くんが書籍化作家だったら。
萌歌は、そんなことを想像しながらも、ソウタに声をかけた。
「あのさ……」
背後から声をかけられたことでソウタはビクッと身体を震わせた。
おかげで声をかけた萌歌の方もビクッとなってしまい、教室内で二人がビクッとなった状態となっていた。
「昨日、椎名くんカクヨムで小説書いているって言ってたよね」
「……言った」
「どんな小説書いているのかなーって」
「あ、ああ。おれの書いているやつ?」
「そう。もし、良かったら教えてほしいなって思って」
ジリジリと距離を詰めるような感じで萌歌はソウタに聞いた。
ソウタも戸惑いながらも、これは自分の小説を読んでもらえるチャンスと言わんばかりに口を開いた。
「前に書いていて完結したやつはさ『寝取――――」
「あれ? ミトちゃん、きょう部活は?」
ソウタがそこまで口を開いた時、邪魔が入った。
同じクラスの女子だ。
たしか、彼女は三戸さんと同じバレーボール部に所属していたはずだ。
「あ、うん。これから行くよ」
「じゃあ、一緒に行こうよ」
「うん、そうだね」
萌歌は自分の机からカバンを取ると席を立ち上がる。
「ごめん、小説の話、また今度ね」
両手を顔の前に合わせて萌歌はソウタに謝ると、走って教室から出ていった。
急に嵐がやってきて、去っていったような感じだった。
ソウタは全身にびっしょりと汗をかいていることに気づき、身震いをした。
なんでクラスの女子と話すだけなのに、こんなに汗かいているんだ、おれ。
そうだ、こんな時は、家に帰って小説を書こう。
三戸さんに教えるのは、過去の作品ではなく、いま書いている作品を教えるべきだ。
過去は捨てよう。おれは今を生きるのだ。
心の中でそんな叫び声を上げながら、ソウタは立ち漕ぎをして自宅へと自転車を急がせた。
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