第2話
昼休み。弁当を食べ終えたソウタはスマホの画面を見つめていた。
小説投稿サイト「カクヨム」のマイページ。
ベルのマークに謎の赤丸がついているのだ。
「なんだ、これ」
思わず独り言が、こぼれ出た。
その独り言をクラスメイトたちは聞こえないふりを決め込む。
いや、本当に聞こえていないのかもしれない。
そう思っていたが、ソウタのすぐ後ろにいた、ひとりの女子生徒が反応してみせた。
「なにそれ?」
突然背後から声をかけられたため、ビクッとソウタは体を震わせた。
振り返ると、そこにはクラスメイトのミトちゃんこと、
「え?」
「え?」
お互いに「え?」と顔を見合わせる。
「椎名くんって、カクヨムみてんの?」
「え?」
「いや、それカクヨムの画面じゃん」
「え?」
もはやソウタはパニックを起こしていた。
なぜ、三戸さんがカクヨムを知っているのだ。
そして、椎名さんが「椎名くん」と自分を呼んだ。
三戸さんといえば、クラスではカースト上位に君臨する人気女子だぞ。
カースト最下位層にいる自分に話しかけてくることなんてありえるのか。
「え?」
もう一度、ソウタは「え?」と声を発した。
「なにそれ、流行ってんの?」
「え?」
「いや、さっきから「え?」しか言ってないじゃん」
ケラケラと三戸さんが笑う。
まぶしい。まぶしすぎる。彼女の背後から差す後光のまぶしさにソウタは目を細めた。
「カクヨムで何読んでるの? ホラー?」
「あ、いや……」
ソウタは口ごもった。まさか、自分は読み手ではなく、書き手であるとも言えずに。
というか、なぜホラーを限定したのだろうか。そんなに自分はホラーを読んでそうにみえるのだろうか。そっちの方がソウタには気になってしまった。
「面白いやつあったら、教えてよ」
三戸さんの言葉にソウタは頷く。
だったら、この小説なんかどうかな。ファンタジー小説なんだけれども、主人公がゴブリンでさ。なんかよくわからないんだけれども、ゴブリンが勇者に自分の許嫁のだったゴブリンを寝取られちゃうんだよ。え? タイトル? えーと、なんだっけな。ちょっと待って。あ、これだ。これこれ。『寝取られゴブリンの一生』。まだあまり読まれていない感じだけれど、完結もしているし、何よりも面白いんだ。一回読んでみなよ。絶対に面白いから。これ、おれのオススメ。
などということはできず、ソウタは口をパクパクとさせるだけだった。
『寝取られゴブリン一生』。それはソウタが書いている小説である。
一年前に大団円で完結を迎えたのだが、PV数は10程度。全部で10万文字以上の長編で、話数も50話以上あるにもかかわらず、総PV数が10程度なのだ。
ハートは第一話に2つだけついている。
星は……。
もういいだろ。
これ以上、言わせるな。
「わたし、結構カクヨムみてんだよねー」
三戸さんはそう言いながら、自分のスマホを操作していた。
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