第6話

「こんなところで何をやっとる」


 情報室の扉の前に、教師と思われる男がいた。昼間の教師だろうか。体つきは大きく、さすがの西荻も教師のほうを見ると舌打ちをして残念そうな顔をした。

 情報室から出ると、教師の男に頭を下げた。男は西荻の前に立つ。


「おまえがそそのかしたのか?」

「こいつが言い出したんですよ」


 と言って西荻は俺を指差す。教師の男はニヤリと笑みを浮かべる。


「顔に描いてあるんだ。私は騙されないからな」


 教師の男は西荻の腕を掴む。


「さあ、職員室に来なさい」

「おまえは悪運が強えな」


 そういい捨てて、西荻は反対側の職員室のほうへと連れて行かれた。俺は急いで自分の教室に向かった。扉を開けると、すでに授業が始まっていたのだ。


「西荻君と一緒じゃないのかね?」


 現代文の初老の男教師が聞いてきた。俺は首を振って応えた。席に着くと、現代文の話を聞くことになった。しばらくして西荻が教室に入ってきて、俺の前を通り過ぎていった。そのときに鋭い視線を送ってきたのだが、俺は頭をコクりと下げて謝った。授業が終わると、休み時間になった。


「なあ、おまえ」


 すぐに西荻が近寄ってきて、隣の空いている席に腰掛けた。


「ったく、おまえのせいで、散々な目にあったんだけどよ」

「西荻」


 神無月が割って入る。彼は俺の前の席にいるので、すぐに後ろを振り向いてくれた。


「情報室でダンジョンのこと調べていたのか?」

「よくわかったな。こいつに擦り付けられてよ。それに頭に来るのが鍵を持っていて、説教ダブルって感じでさ。反省文まで書いてこいってよ。ったくおまえが代わりにかけよな」

「僕がですか?」

「当たり前だろ」

「それは自分で書いたほうがいいんじゃね? 筆跡とかバレるって言うじゃんよ」


 神無月が言うと、西荻は黙り込んでしまった。


「まあ、ダンジョンのこと、調べられたんだろ?」

「まあな」


 西荻や歯切れを悪くする。スキルカードのことを調べようとしたが、結局何も調べられなかった。西荻はこのままでいいのだろうか。


「そういえば良平君とダンジョンの話をするんだったわ」


 神無月はそう言って笑みを浮かべた。


「昨日、ダンジョンの奥まで行ったんだけどさ、そこでどんなモンスターにあったか話したるわ」


 神無月の話を聞き、すぐに休憩時間が過ぎていった。別の教師が教室の扉を開くと、神無月の話は少しも進まずに彼は前に向き直った。

 授業中にふと思うことがあった。神無月はスキルカードのことを気にしていない様子なのだ。もしかすると、西荻は他の奴らに黙っているのかもしれない。そうなると、西荻はスキルカードの値段次第では俺に譲ってくれるかもしれなかった。


 俺は後ろの席から教師の目を盗んで、教室の扉を開けた。情報室の鍵は西荻でも手に入れられたのだ。俺にも取れるはずだ。一億円かかっているのだ。リスクを負ってでも、西荻からスキルカードを取り戻す必要があった。

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