第5話

 部屋の中を探してもどこにもスキルカードは見当たらなかった。学校に行く時間になり、俺は仕方なく支度をして家を出た。自転車で向かう途中で、後ろからクラクションを鳴らされた。バイクのヘルメットを被った神無月が後ろにいたのだ。彼は降りろと手で合図を送ってきた。俺は自転車から降りると、神無月は路肩からバイクを歩道に乗り上げてきた。その横に自転車を押して並んだ。


「少し話さん?」

「自分はいいですが、学校に遅刻しませんか?」

「良平君は遅刻したら困るか」


 俺は神無月の顔を見るが、彼はどことなく機嫌が良さそうではあった。


「何かありましたか?」

「良平君は聞き上手なんよな。俺の思いを受け止めてくれるか?」

「え、何かあるのですか?」


 神無月は苦笑いを浮かべる。


「悪いな。変なことを口走りそうな間に見えちゃうわな」

「たしかに」


 神無月は俺の肩をドンと押した。


「なんやか、恥ずかしいやろがい。まあええわ。昨日の話を聞いてくるか?」

「西荻さんと何かあったんですか?」

「おまえ、よく西荻にさん付けできるな。悪いようにしか扱われてないのにな。まあええか。西荻と学校の先輩と一緒にダンジョンに行ったんだけどさ」

「なるほど」


 俺が言うと、神無月は目を細め、つまらなそうな顔をした。


「とりあえず学校に向かうか。遅刻するやろ」

「ダンジョンの話は?」

「学校に着いたら話そうか」


 神無月が先に行き、俺は神無月の背中を見送った。学校に着いた頃には、神無月のバイクが駐輪場にあり、彼はいなかった。俺は探してみたが、神無月の気配はないので、仕方なく教室へと向かった。扉を開けると、神無月が西荻と話をしている姿が見えた。


 俺は自分の席に座るが、やってきたのは俺の席の前の神無月ではなく、西荻だったのだ。


「おい、立て」


 西荻は俺の襟首を掴むと強引に、教室の外へと連れ出したのだ。


「どこに行くのですか?」


 俺が聞くが、西荻は俺を引っ張って何処かへ連れていくつもりのようだった。脳裏に体育館裏が過る。学校の先輩達と一緒に俺をリンチするのかもしれない。そんな恐怖心を抱いていると、気付いたら情報室の前にやってきていた。西荻は鍵を取り出すと、情報室の扉を開けたのだ。

 暗闇が明るくなり、パソコンがあらわになる。俺は席に座らされ、パソコンが稼働音を立てた。


「この前のダンジョンの情報サイトを開いてもらおうじゃねえか」

「どうしてですか?」

「そりゃあ、ダンジョンの攻略のために決まってんだろ」


 俺はパソコンの前で停止していた。マウスをクリックし、ダンジョンの情報サイトと検索をかける。もちろん、これではヒットしないのだが、俺は検索候補を上から順にスクロールしていった。


「おまえ、この前は辿り着けたんだろ」

「あれは」


 俺が口吃っていると、西荻はポケットから紙を取り出したのだ。


「これなんだけどよ」


 それは俺が失くしたスキルカードの紙だった。


「どうして」


 俺はそこまでいって口を閉じた。


「どれくらい値打ちのあるものか知らねえが、これはダンジョンに行ったことのある人間にしかわからないものだ。昨日、ダンジョンの前に落ちてるのを見つけた。なあ、こいつがどれくらいの値打ちなのか、調べる必要があんだよ」

「そうなんですか」


 西荻は昨日俺と同じダンジョンに居たのか。後から出てきたに違いない。正直に言って、一億円のスキルカードを返してもらうべきか。西荻の顔を見るが、興奮した表情からは、返してもらえそうになかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る