第3話
公園の半分は立ち入り禁止になっていた。遊具は撤去されていて、公園に訪れる人間はダンジョンを目当てにしているのがほとんどだった。
冒険者と呼ばれるダンジョンの利用者は輩が多く、いわゆる普通の人はダンジョンとは無関係な生活を送っている。もしくは借金を背負って保険金を掛けられた債務者だったりする。
草は高く生い茂り、公園内に入るとズボンが湿って気持ち悪く思う。ところどころに樹木の棘があり、ちくちくと肌が痛んだ。岩が山のように高くなったところがあり、洞窟の入口がポッカリと空いていた。
入口から足を踏み入れると、電灯の明かりで道が照らされていた。電気が流れているゲートと呼ばれる門があり、その側にオブジェクトがあった。
それは腰の辺りの高さのもので、数字のパネルに認証パスをかざす。そしてパスコードを入力するとゲートの向こう側に飛ばされる。つまりダンジョンとなる。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
ダンジョンに入ると、目の前に頭を下げている少年が座り込んでいた。その前には緑色の肌をした人型のモンスターがいる。ゴブリンと呼ばれるやつで、少年はゴブリンに向かって土下座をしていた。
「大丈夫ですか?」
俺はそう言ってゴブリンに触れる。少年の目の前にいたモンスターが消滅すると、少年は顔を上げる。目が合うと、少年は涙を浮かべた顔を横に振った。
「あー、僕が死なないと、父ちゃんが。父ちゃんが」
「ちょっと落ち着いてください」
俺は少年の肩に触れ、彼をなだめた。少年は十歳くらいで、体は小さなものだった。痩せていて、服は湿っていて汗で臭っている。
「僕が死なないとお金が返せなくて、父ちゃんが怖い人達に殺されちゃうんだ。もう、どうしてくれるんだよ」
「命は大事にしたほうが」
俺はそこまで言うが、少年は背を向けてダンジョンの奥へと走り去ってしまった。俺が追いかけようとすると、勢いよく少年が走って引き返してきた。
少年の背後には世にも珍しい、ボスがいたのだ。その名も、グリフォン。
鳥型のボスで、体長は三メートルとそこまで大きくはないが、鉤爪で引っ掻かれると大抵の冒険者は絶命してしまうだろう。グリフォンは少年の背中に襲いかかり、あと少しのところで、俺の手に触れた。目の前でグリフォンが消滅し、鉤爪と、白い紙がひらひらと落下してきたのだ。俺はすぐにその紙を拾い上げ、ポケットにしまった。
「お金に困っているのなら、そこに落ちているアイテムを売却すれば高くつきますよ」
俺は鉤爪を指差し、少年に拾うように教えた。
「こんな物で、父ちゃんの借金が返せるわけがないよ。一千万円はしているんだ」
「そのグリフォンの鉤爪は一千万円以上の値打ちはありますけど」
「え、そうなんですか」
少年は急に敬語で話した。
「あと自分は」
俺はそう言って少年の目を見る。強欲そうな目をしていた。たった今、新しいスキルを覚えられるレアアイテムを拾ったなんて言ったら、この少年は分前を要求するに違いない。俺は口を塞いだ。
「何かあるんですか?」
少年は目敏かった。
「なにもない、ですよ」
「何か他のものも手に入れたんですか」
「そんなわけないじゃん」
「急に口調が変わりましたね」
「それは君もだろう」
ダンジョン内で沈黙が流れた。
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