第二部 三章 前期試験(Ⅶ)
翌週、前期試験当日。
教室に行くと誰もが教科書に目を通していつもと違い教室の雰囲気はヒリついている。
「おはよう、リアナ」
「おはよ、リアナ」
「おはよう二人とも。勉強はしっかりできたかしら?」
「依頼の後はそんな気になれなくてのんびりしてたが、昨日はみっちりやってきたよ」
「あたしもあの依頼の後に勉強する気力はでなかったわ……」
「リアナもか……」
流石にあんな依頼をこなした後にあんな話を聞かされるとそうなるか。
「だが泣いても笑っても時間は戻らない、今日で全てが決まるからな」
「いやハヤト、前期試験だけでそんな大袈裟な事言うんじゃないわよ。それに二人は実技試験免除されてるでしょ? その分他の学院生より試験は楽じゃない」
「俺は楽じゃない。座学が大変だから」
「私は楽かな、座学もそれなりについていけてるし」
そんな話をしていると、セリア先生が教室に入ってくる。
「お前たち、試験を始めるぞ。机の上の教科書を片付けろ、カンニングは前期の単位を全て失う事になるからオススメしない、というかやるなよ?」
セリア先生がそう言って、試験の問題用紙と答案用紙が配布され、今、俺にとって初めての試験が始まろうとしている。
「それでは、試験開始!」
セリア先生の号令とともに、俺たち学院生は問題用紙をめくるのだった。
それから二日後。
「これで座学は全て終わりか」
俺はミルティアーナとツィエラの三人で紅茶を飲みながらくつろいでいた。
「ハヤト、試験の手応えはどうだったの?」
ツィエラの質問に対し、
「悪くはないと思う。思っていたより解けたって感じがしてるんだ」
「じゃあ単位はなんとかなりそうだね」
「ああ、リアナのおかげだ」
俺は心の中でリアナに感謝する。
「そういえば明日は実技の試験じゃない? リアナの実技試験見に行こうよ、二か月の鍛錬の成果を見てみたいでしょ?」
「それはいいな、ちょっと冷やかしに行くか」
そんな計画を立てて俺たちは明日に備えて就寝したのだった。
翌日、実技試験。
「校庭からでも十分にリアナが見えるね」
「ああ、しかし実技って言っても科目が色々あるだろ? 俺はその科目について精霊魔術と霊威の制御しか知らないんだが他にもあるのか?」
「あるよ? 霊威の総量、霊装顕現、後は選択科目の剣術とかかな。というかハヤト君、それらを知らずに試験免除になったの?」
「ああ、編入初日あたりで実技の単位を確約するから教室で座学の勉強してろって言われた」
「なるほど、それで実技科目を知らなかったんだね、だとしたらリアナにはちょっと悪い事をしたかもね」
「ああ、霊威の制御と精霊魔術しか教えてないから剣術とかの単位が怪しいな」
俺たちは少し不安になりながらリアナを見ている。そして俺たちが見ている事に気付いたらしいリアナがこちらを向く。
リアナは口パクで、
(何でそこにいるのよ!)
と言っているので俺は、
(リアナを見に来た)
と返す。
するとリアナは面映ゆいといった表情で試験に臨んでいった。
「あいつ、どういう感情であんな顔をなったんだ?」
「さあ? 何でだろうねえ?」
ミルティアーナは教えてくれない。そして最初に霊威の総量を測る試験から始まった。
「リアナって霊威の質も量も高いから単位は大丈夫だろうね」
「ああ、俺もそこは心配していない。間違いなく上位に入るはずだ」
そして全員の霊威の総量の測定が終わる。次に霊威制御の試験だ。身体強化にどれだけの霊威を使えるかで霊威の制御能力を問う内容となっていて、これもここ二ヶ月徹底的に鍛えてきたから問題ないと判断する。
次に精霊魔術の試験になる。これもリアナは大嵐炎舞という上位の精霊魔術を駆使して高得点を出すだろう。炎の扱いが以前より上手くなっていた。どこかで練習していたのだろうか?
「次の試験、霊装顕現だね」
「ああ、これはある程度形にはなっていたから単位自体は大丈夫だとは思うが感覚を忘れてないといいが……」
俺は一か月前の感覚を忘れていない事を祈りながらリアナを見る。
リアナは落ち着いて詠唱し、右手に霊威を集めていく。すると依然と同じように炎の剣のようなものが生み出された。
「やっぱりまだ不完全か」
「でも形にはなってるんだね、ハヤト君と同じ剣かな?」
「いや、前見た時はあの形状から伸びてたんだ。だからただの剣というわけじゃないだろうな」
「へえ、じゃあ近・中距離型の戦法に向きそうだね」
「ああ、後期の間に霊装顕現は完成させるから答えを知るのが楽しみだ」
炎の剣を持ったリアナは、設置されている的に向けて炎の剣を振るう。すると炎の剣が伸びて的を真っ二つに断ち斬った。しかしそこで炎の剣が消滅してしまい、霊装顕現は失敗に終わる。
試験官と幾つか言葉を交わし、リアナの霊装顕現の試験は終了したらしい。
その時、リアナがこっちを向いて、
(ありがとう)
確かにそう言った。
恐らく単位は取れると判断したのだろう。
他の学院生の霊装顕現の試験の終了を待ち、最後に選択科目の試験が行われる。それぞれの科目ごとに場所が分かれており、リアナの剣術は一番人数が多いため、このまま校庭で行われるようだ。
三人の教官がいて、そのうち一人と模擬戦をして剣術の採点をしてもらうらしい。
「そういえば私はリアナの剣術を見たことないけど、ハヤト君は見たことある?」
「ああ、特別依頼を受けた時に剣を持ってきていたからな。インサニアと戦ってる時は霊威も少なくなってたし剣術メインで戦ってたよ」
「へえ、剣もそれなりに扱えるんだ?」
「俺たちと同じ基準で考えるなよ? そんなことしたら評価できなくなる」
そんな話をしていると、リアナの順番が回ってくる。
「リアナの剣術、楽しみだなあ」
そんな事を言うミルティアーナを横目に、俺はリアナの剣術の試験を真剣に見る。今回の剣術次第では剣術も教えておく必要があるからだ。
しかし、リアナの剣は基本に忠実ではあるがそれ故に基本に徹した攻防を見せ、俺が思っていた以上に剣術も出来ていた。
「あいつ、どこかで剣を振っているのか?」
「私達の前じゃそんな素振り見せなかったのにね。毎日振ってるって言われてもおかしくないくらい帝国剣術の基礎が身についてる」
「ああ、あれなら変に俺たちの剣術を教えるのはやめた方が良いな」
「そうだね、あのまま綺麗な剣にしておこっか。たまに変則的な剣の扱いを見せてあげるくらいで十分だよ」
そんな話をしている間にリアナの剣術の試験が終わる。これまで試験を受けた生徒は試験官に剣を叩き落とされるか首に突き付けられるかだったが、リアナはそんな事なくもう十分に技量を理解したから試験を終了したという感じだった。
「リアナ、実技も全然できるじゃん」
「それは最初のリアナを知らないから言えるんだよ、初めて会った時のあいつは霊威制御の単位を取れるのか怪しいくらいだったしな。本人は取れるとか言ってたけど」
「その頃のリアナも見てみたかったなあ」
なんて言って色々とリアナの話に花を咲かせていると、実技試験が終わったらしく、全員解散していく。そしてリアナがこちらに歩み寄ってくる。
「二人とも、こんなところで高みの見物?」
「ああ、実技試験に興味があったから見に来た」
「リアナがちゃんと試験できてるか見に来たんだよ!」
「そ。それで、どうだった?」
「正直剣術の試験が完全に頭から抜けていたから悪い事をしたと思ってる。だが思っていたより良い剣だったな。霊装顕現もやっぱり形にはなってる。実技は問題ないだろ」
「私もハヤト君と同意見かな。霊威の総量も多いし霊威制御はハヤト君が直接鍛えてるから単位の落としようがないし、精霊魔術も前から見てたから不安はなかったよ。剣術と霊装顕現は初めて見たけど他の学院生より全然上手かったよ」
「二人がそういうなら問題なさそうね。というかハヤトってば剣術の事完全に忘れてたのね、だから剣だけ教えてくれなかったの?」
「ああ、完全に忘れていたからな、教えようが無い。それに俺の剣術はリアナには似合わないから寧ろ良かったと思ってる」
「剣術に似合うとかあるの?」
「綺麗な剣術と綺麗でない剣術があるんだよ。前者がリアナの剣で後者が俺の剣だ」
「剣術にそんな違いがあるとは思えないけど。今度模擬戦しなさいよ」
「負けたら罰ゲームな?」
「ちょっと! どっからどう考えてもあたしが負けるでしょうが!」
「だから罰ゲームって言ってるんだよ」
「アンタ最低ね! ミルティアーナもそう思わない?」
「ハヤト君、罰ゲームの内容何にする?」
「どうして? どうしてあたしが罰ゲームを受ける前提で模擬戦しようとするの?」
「そりゃリアナをからかうのが楽しいからだろ?」
「うんうん、リアナはからかわれてる時が一番輝いてるよ!」
「輝いてないわよ! アンタたちってほんと酷いわよね!」
「冗談だよ、そんなに怒らないでくれ」
「はぁ、まあ良いわ。とりあえず二人から見てもあたしの単位は確実なのね?」
「ああ、間違いなく」
「うん、絶対取れてるよ」
俺たちは自信を持って答える。
「そう、それを聞いて安心したわ。それじゃああたしはそろそろ部屋に戻るわね。ハヤト、試験の結果が出たらあたしに見せなさい、座学の単位がどうなっているか見ておきたいし」
「ああ、分かったよ。それじゃあまた」
「またね、リアナ!」
そう言って俺たちは分かれてそれぞれの自室に戻る。
単位、取れてると良いんだが……
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