第二部 二章 渦巻く不安(Ⅸ)
自室に戻った俺の目に入った光景は、非常に穏やかな風景で、ミルティアーナとイリスが紅茶を飲んでいた。
「あ、ハヤト君お帰り、今紅茶淹れるね」
「兄さん、お帰りなさい。リアナという方はどうでしたか?」
二人が出迎えてくれて紅茶の用意をしてくれる。
俺はテーブル席に座り、
「リアナは最初は足手まといになるからチームを抜けるって言いだしたけど説得してチームには残ってもらったよ」
そう言って淹れたての紅茶を一口飲む。
「やっぱり落ち込んでたんだ」
「ティアーナの予想通りだったよ」
「どうやってチームに留めておけたの?」
「それは男の機密事項だ」
俺は以前ミルティアーナに言われたことをそっくりそのまま返してやる。
「それ前にお姉ちゃんが言ったやつじゃん」
「機密事項って便利な言葉だよな」
「どうしようイリス、弟が反抗期を迎えちゃったみたい」
なんてミルティアーナがイリスに話を振る。
「別に反抗期くらいいいでしょう。年齢を考えたらそういう時期ですよ」
「ティアーナよりイリスの方が年上っぽく感じるのは不思議だな」
俺がそう言うと、
「これからは姉と妹の立場を入れ替えましょうか、姉さん?」
とイリスがミルティアーナに追い打ちをかける。
「そんなことはさせませーん。お姉ちゃんは私だけだもん」
とミルティアーナはそっぽを向く。
それを見て俺とイリスは笑うのだった。
「それで、イリス、俺の部屋からめぼしいものは見つかったか?」
「はい、教団の貴重品である精霊鉱石が少しと良く分からない魔道具が見つかりました。後は兄さんの手荷物の中に入っている精霊鉱石を回収すればそれで終わりです」
イリスはそう言って立ち上がり、俺の元へ歩み寄ってくる。だから俺も立ち上がって手荷物を手のひらに乗せてめい一杯上に持ち上げる。
「取れるものなら取ってみな」
そう言ってかつてよくイリスにやっていたからかいをこの年で再現して見せる。イリスもそれに気付いたらしく、
「兄さん、私はもう昔程小さくありませんよ!」
そう言って俺の手荷物に手を伸ばすが、一向に手が届く気配がない。
「……」
「……」
そしてそれを見ていたミルティアーナが、
「ハヤト君も昔と比べて背が伸びたからね、イリスじゃ厳しいんじゃないかな?」
と目の前の光景を楽しそうに眺めている。
そしてイリスは飛び跳ねて俺の手荷物を取ろうとするが、イリスに合わせて俺も飛ぶため、やはり手荷物に触れる事ができない。
「……兄さん」
「どうした、イリス?」
「今、大人しく手荷物を渡すのと、帝国法で捕まるの、どっちがいいですか?」
「どっちでもいいけど、帝国法に抵触したところで俺を掴まえるのは無理だろ、実際四年間俺を見つける事が出来なかったんだし」
「そんなことはどうでもいいです。今、手荷物を渡すのと、今捕まるの、どちらがいいですか?」
イリスはからかわれて御機嫌斜めのようだ。仕方ないから手荷物をイリスに渡す。
「からかって悪かったよ、また昔みたいに馬鹿な事したかったんだ」
「本当に兄さんは酷いです。ギリギリ取れそうなところで取れない場所に手荷物を掲げるんですから」
「可愛い妹と遊びたかったんだよ」
「その手には乗りませんよ、私は姉さん程チョロくないです」
ここでミルティアーナに流れ弾が飛ぶ。
「お姉ちゃんも別にチョロくは無いと思うなあ?」
「いいえ、姉さんは兄さんに対してチョロすぎます」
「そうか?」
「そうです。他の諜報部隊員の男は基本無視しているのに、兄さんに対してはもう甘々じゃないですか」
「だって他の諜報部隊員って下心が透けて見えるから気持ち悪いし、私にはハヤト君がいるから」
なんてミルティアーナが言うが、俺は少し疑問を持った。
「諜報部隊ってそんなに緩いのか?」
「ジカリウス教団出身でない諜報部隊員は緩いですね。前も言いましたがいない方がマシです」
「俺の就職先、なんか不安になってきたよ」
そんな事を言いながら、三人で夜まで話をし、途中で実体化したツィエラが作った夕食を四人で食べてからイリスを学院の正門まで見送る。
「それじゃあ気を付けて帰れよ? 変な男にはついていくなよ?」
「兄さん、私は子供じゃないんですから、そんな事しませんよ」
「そうだよハヤト君、イリスがついていく男の子はハヤト君だけだから心配しなくて大丈夫だよ」
「そういう話でもないのですが……まあいいです。でも久しぶりに顔を見れて良かったです。次会う時は兄さんが諜報部隊入りした時でしょうが、それまでお元気で」
「ああ、イリスも元気でな」
「はい。姉さんも学院生活にかまけてないでちゃんと身体が訛らないようにするんですよ?」
「ハヤト君と模擬戦して身体を動かすから大丈夫! 気を付けて帰るんだよ?」
「ならいいです。それでは、また」
そう言ってイリスは夜の街の人込みに紛れて行った。
「……中々大変な二週間だったな」
「そうだね、でもイリスに会えて嬉しかったでしょ?」
「ああ、当たり前だ」
自室への帰り道にそんな話をする。
「四年で随分と大人びてたな」
「その言葉、直接言ってあげたら良かったのに」
「諜報部隊入りした時にでも言う事にするよ」
俺はそう言うが、
「もっと早く言う機会が訪れると思うよ?」
と意味深な事を言うミルティアーナ。
「どうしてだ?」
「乙女の勘だよ」
と、はぐらかされるのであった。
そして自室に戻った後は風呂に入りそのまま三人で眠りについたのだった。
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