第一部 四章 特別依頼(Ⅱ)

 そして乗合馬車を降り、道を進んでエルネア鉱山の入り口に着く。


「リアナ、今回は俺は上の通路は使わずに正面から魔獣を討伐しながらインサニアを討伐するつもりだ。リアナは前回の通路に登って上から少しでもいいから魔獣の数を減らしてくれ」

「分かったわ。少しでも力になれるように頑張るから」

「無理はしなくてもいいんだからな? 休み休みやるんだぞ?」

「なによ、随分と心配性になったわね」

「そりゃ心配にもなるさ、俺はともかくリアナは本当に死ぬ可能性があるんだから」

「なんでアンタは死なない前提なのよ?」

「過去にインサニアを討伐しているからだよ」

「はぁ? アンタこの前そんな事一言も言ってなかったじゃない!」

「まあ聞かれなかったしな、別に話すようなことでもないだろ?」

「話すべきでしょ⁉ あたしが今回どれだけ心配したと思ってんのよっ!」

「そんなに心配してくれてたのか? いやー嬉しいなー、あのリアナがそんなことを言ってくれるなんて」

「めちゃくちゃ棒読みじゃないの! 何よっ、心配することの何が悪いわけ⁉」

「いや、本当に嬉しくてさ」

 真面目な顔で言う。

「今まで俺のことを心配してくれたのってツィエラを含め三人しかいなかったから、こうやって誰かに心配されるのってなんかいいよなって思ったんだよ」

「そう、じゃあこれでアンタを心配する人は四人になったわけね」

「そうだな、人間と、妖精と、元水死体、中々珍しい人種が混ざってるけどまあいいだろ」

「もう水死体じゃないわよ!」

「そうだった、今はがっつリアナだったな」

「それもやめなさいっ!」

「それじゃあそろそろ行くか、自称美人のリアナ」

「こ、こいつ……じゃあとりあえず前の上の通路に登れる場所まで行きましょうか」

 そう言って俺たちは坑道の中へ踏み込んでいく。



 今回は前回以上に慎重に進んでいく。

 何せ魔獣とインサニアの討伐だ、リアナの霊威の残量も気にしなくてはならない。

 俺は最初からツィエラを片手で持ちながら歩く。

 万が一魔獣に見つかったら声を上げられる前に討伐してできるだけ存在がばれないようにしたいからだ。


 リアナは後衛に徹してもらい、霊威の量が少なくなったらすぐに安全圏まで逃げるように言っておいた、もちろん拒否されたが。

 そうして進んでいると、前より坑道の入り口側に近い道で魔獣を見つけたので即座に首を刎ねて討伐する。


 今回に限っては加減は無しだ。

 そしてすぐに周囲の確認をして他に魔獣がいないのを確認してまた進み始める。


 そんなことを続けて三時間ほどで前回登ったはしごの残骸のある場所に到着した。

「ようやくついたか、なんか魔獣の数増えてないか?」

「でもそれってまだこの坑道の中にインサニアがいるってことでしょ?」

「他に外に繋がってる坑道がなければな。とりあえずまた先に俺が登って周囲の確認をする。リアナはそれまで坑道を見ててくれ」

「分かったわ」

 返事を聞いて俺は岩壁を走って登り、通路に飛び出す……が、相変わらず魔獣はいなかった。

「リアナ、ロープを降ろすからまた前回のように登ってきてくれ」

 そう言ってロープを降ろしてリアナがロープを手に巻き付けて握るのを確認する。

「引っ張っていいわよ!」

 その言葉を合図に、少しずつロープを引っ張り、リアナを通路まで引き上げていく。

「この作業、だんだん慣れてきたな」

「そうね、でも何度もやりたいとは思わないわ」

「そっか。ここからは別行動になる。俺は坑道の大通りを、リアナは通路からできるだけ姿を隠しながら移動すること。もしかしたら空を飛ぶ魔獣が新たに加わっている可能性もあるから気を付けてくれ」

「その時は最優先で飛んでる魔獣を片付けるわ」

「ああ、それでいい。ただし勝てないと判断したらすぐに逃げろ。狂化を掛けられた魔獣は自身の怪我とかに無頓着だからな、命が尽きるまで襲い掛かってくる」

「分かってるわよ、そんなにあたしが心配なの?」

「心配じゃないと思うか?」

「えっ?」

「学院長相手にあれだけの啖呵を言えたのは凄いが実力不足なのも事実だ。そしてリアナは俺が学院に通う切っ掛けになった人物だぞ? 俺はリアナ以外に学院内で話す相手いないんだよ、そのリアナに何かあったらどうするんだ?」

「あ、アンタ、急にこんなところでそんな事言うんじゃないわよっ」

「まあ、そういうわけだから、死なないようにしてくれよ?」

「言われなくても死なないわ、お互い生きて帰りましょう」

 返事を聞いて俺は通路から坑道に飛び降りる。


 そしてリアナと同じペースで歩き始めること数分後、リアナの動きが止まった。

 そして俺を見て俺の正面の岩陰に向けて指を差している。

 俺は頷いて即座に魔獣のいる場所へ突撃し魔獣を両断する。

 続いて周囲を見ると共食いをしている魔獣たちが視界に入った。


 できれば坑道の奥まで通路が見える位置に着きたい。

(ツィエラ、放出、いけるか?)

(ええ、日頃から霊威を吸収してるだけあって余裕たっぷりよ、好きなだけ放出しなさいな)

 ツィエラと会話して霊威の量を確認し、邪魔な魔獣を一掃し、目標の位置に着き、ツィエラの能力をリアナの前で解放する。


 坑道の通路の中央に立ち、ツィエラを正面に突き出すように構え、剣先に霊威を収束させていく。

 そして一定量溜まったらそのまま前方に解き放つ。


 霊威解放・発


 剣先から収束された霊威が解き放たれ、眩い程の輝きを放ちながら前方にいた魔獣を霊威の光線で飲み込んでいく。

「なに…あれ……?」

 リアナはその光景を見て茫然としていた。


 そもそもリアナがツィエラの能力を知らなかったというものあるが、一精霊で坑道を端から端まで飲み込むような純粋な霊威の光線を放出できるのもなのか? そもそも精霊がこれほどの霊威を使ってしまって契約者の霊威は足りるのか? さらにはこれほどの霊威は一体どこから出てきているのか、疑問で頭がいっぱいになった。


 そして霊威の光線が収まった時、

 ジュワアアアアアアア。

 と光線が通った道が灼けていた。


 光線に飲み込まれた魔獣は跡形もなく消滅してしまった。

 たった一撃で、たったの一回で。

 リアナが苦戦すると思っていた魔獣の大半が葬り去られたのだ。


 残りの魔獣は霊威の光線の射程から逸れていた魔獣のみ。

 リアナは通路から、ハヤトは坑道から、近くにいる魔獣から順に討伐していく。

 ツィエラの属性は剣、しかし能力は「吸収」と「放出」の二つ。

 さっきの純粋な霊威の光線で消費した分の霊威を取り戻すかのように魔獣を討伐して魔獣から霊威を吸収して回るハヤトだった。


 そして周辺の魔物の討伐が完了した時、リアナから声がかかる。

「ちょっとハヤト! さっきの光線は一体なんなの⁉」

「秘密」

「なんでよっ! もう見せたんだから教えてくれてもいいでしょ⁉」

「リアナはわがままだなぁ、もうちょっと慎ましくなれないのか? 胸みたいに」

「今胸は関係ないでしょうがっ! 灰にするわよ⁉」

「それで、さっきの光線についてだったか?」

「ええ、そうよ。アンタあんなに霊威使って大丈夫なの? ツィエラも消費が激しくないの?」

「これくらいなら大丈夫だよ、元々ツィエラを常に実体、もしくは霊装顕現アルメイヤしているのは俺の霊威を吸収させるためだから」

「それってハヤトの霊威が多すぎて制御できなくなったってこと?」

「昔はそうだったって前に言ったろ? 六歳の頃の俺は増えていく霊威を制御できなくてツィエラと契約したって。その頃からツィエラは俺の霊威を吸収するために人間界にいるんだよ。今はそれなりに霊威を制御できるけど、まだ自分の全霊威を制御できるわけじゃないんだ。だから制御できない分の霊威をツィエラに吸収してもらってたわけだから、あの程度の光線一発じゃ大した消費にはならないんだよ」

「は? じゃあ何? ツィエラの属性って剣じゃなかったってこと? ツィエラの本質ってもしかして霊威の『吸収』と『放出』ってこと?」

「ま、そういうことだな。精霊、妖精、魔獣、人間を問わず触れた相手の霊威を吸収してため込み、必要な時は吸収した霊威を斬撃として飛ばしたり、さっきみたいに純粋な霊威の光線として打ち出したりっていう単純だけど使い勝手の良い能力だ」

「そんな精霊聞いたことないわ……」

「リアナの知ってる精霊が全てではないってことだろ」

「そうね、そして霊装顕現が使えるようになったらそんなに強くなれるのね……」

「すべての霊装顕現が強力だとは限らないぞ? この間の良く分からん斧が霊装顕現の精霊使いもいるし」

「そうね、でも直接霊装顕現の能力を見れたのは良かったわ、霊威制御のやる気が上がるわ!」

「そっか、じゃあ生きて帰れたらまた難易度上げるか」

「そうね、ガンガン難易度を上げて早く霊装顕現を成功させるわよ!」


なんて小休止を挟んでこのまま奥に進むことにする。

 先程の光線で魔獣がまとめて消滅したため、しばらくは射程外にいて散発的に出てくる魔獣を討伐するだけで良いから随分と楽だ。

 灼けた大地を霊威で足を強化しながら進んでいく。


 そしてまた魔獣の溜まり場に到着する。

 近くの岩陰に姿を隠しながら地形を確認する。

 地形が扇形に奥に行くほど広がっている。

 このまま正面から先程と同じ光線を放ってもあまり意味はなさそうだ。

 なのでリアナに目をやってから剣に霊威を込め、魔獣たちの正面に立ち、ツィエラを横薙ぎに振るって霊威の斬撃を飛ばす。


 霊威解放・斬


 ハヤトが放った霊威の斬撃は対面の岩壁に大きな痕を残すほどの威力があり、巻き込まれた魔獣はやはりあっけなく消滅していく。

そして、その場は射程圏外にいた魔獣を残すのみとなった。

 そして淡々とツィエラで魔獣を討伐しながら霊威を補充していく。

 あらかた討伐し終えたと思って一息ついたその時、

「ハヤト、後ろ!」

 リアナの叫び声が聞こえて後ろを振り向く。

 そこには別の岩陰に潜んでいたらしい魔獣が俺に向かってとびかかってくる途中だった。

 流石に避けきれない、と思い防御の姿勢をとったその時、魔獣の横っ腹に火焔球が打ち出された。

 それがリアナからの援護だと気付くとすぐさま魔獣にとどめを刺して周囲の確認をする。


今度こそ魔獣は片付いたようだ。

「油断大敵よ、ハヤト。あたしがついてきてて良かったわね?」

 なんてドヤ顔で言ってくる。

 しかし、本当に助かったのは事実なので素直に礼を言っておく。

「ああ、今のはちょっと危なかった。助かったよ、リアナ」

「ほんと、アンタってちょっと抜けてるところあるわよね」

 なんて言ってゴキゲンになっている。

 無理やりついてきたから役に立てたのが余程嬉しかったのだろう。

 だから欲しそうな言葉を素直に伝えることにする。

「そうだな、今回はリアナを連れてきて正解だったよ」

 するとリアナは更にドヤ顔でうんうんと頷きながら確かな満足感を得るのだった。

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