第一部 二章 学院の編入生(Ⅲ)
リアナの合図で俺が飛び出す。
一番近くにいた魔獣をツィエラで首を刎ねて討伐する。
まず一体。
そのまま身体強化を使い、近くにいる二体の首も刎ねる。
残り四体。
「焔の守護者、紅蓮の獅子よ、今ここに姿を現し敵を滅せよ! きなさい、イグニレオ!」
リアナがイグニレオを召喚して一体はイグニレオが対峙する。
それと同時に、
「猛き炎よ、今ここに形となりて我が敵を焼き尽くせ! 火焔球!」
リアナの精霊魔術で一体が燃え上がり弱っていく、こいつはこのままリアナにまかせてよさそうだ。
俺はそのまま残りの二体の首を刎ねてリアナのフォローに回ろうと思ったが、その時にはリアナもイグニレオも既に戦闘を終えていた。
「たいした魔物じゃなかったわね」
「そうだな、動きも遅かったし不意打ちも成功したし、リアナが二体受け持ってくれたから楽に戦えたよ」
「ほ、褒めても何も出ないわよ?」
「何かが出てくるなんて期待してないさ。それより、こいつらの討伐部位ってどこだ?」
「えっと、牙ね、こいつらの口に他と比べて大きな牙が二本あるでしょ? それが討伐部位に指定されてるわ」
「分かった、根本あたりを切り取る感じでいいか?」
「ええそれでいいわよ」
討伐部位の場所を聞いて俺たちは倒した魔物から討伐部位を回収する。
もちろんこの時間も周囲の警戒は怠らない。
無事に討伐部位の回収が終わり、帰路につく。
「今回の依頼、思ってたより楽だったな」
「そんなこと言えるのはアンタだからよ。これが他のチームだったらもっと苦戦してただろうし怪我だってしてたはずよ? 霊装顕現を使えない学院生だっているんだから」
「そういえばそうだが、リアナの後方支援が良かったのもあるだろ。まさか二匹も相手にしてくれるとは思わなかったよ。俺はてっきりイグニレオと一緒に学院貸し出しの剣で戦うのだとばかり思ってた」
「アンタ馬鹿ね、後方支援が前に出てどうするのよ? 自分の役割をちゃんと果たしてこそチームでしょ? それにあたしだって戦えない訳じゃないんだから」
「これで水死体の汚名は挽回できたな?」
「うるさいわねっ、それはもういいでしょ⁉」
なんて話をしながら森を抜け、街道に戻り学院に帰る。
そして学院の依頼受付所で討伐部位を提出して以来完了の言葉を聞き、俺たちは単位二分の一と金貨一枚を獲得したのだった。
「しかし、あれで単位二分の一か、これなら毎日依頼を受けたほうが単位取れるかもしれないな」
「そんなことしてたら学院に通う意味がないでしょ? それに依頼って魔術科の人たちも受けるから毎回良い依頼を受けれるわけじゃないわよ?」
「そういえば魔術科ってあまり見かけないな」
「精霊魔術科とは別の棟で授業を受けてるからよ。基本的にお互いの棟に入ることはないわ」
「そういうものなのか。あと精霊魔術科と魔術科で喧嘩したら精霊魔術科の方が罰則が重くなるらしいな」
「精霊使いと喧嘩するって実質二対一でしょ? だからよ」
「そんな説明を受けたよ。ところで、リアナが編入前の俺に精霊をけしかけた罰はくだったのか?」
それを聞くとリアナは得意げな顔をしてこう言った。
「何故か分からないけど不問になったわ!」
多分俺を連れてきたからだろうな……
「そうか、良かったな」
そんな話をしながら受付所を出て、別れを告げてお互いの部屋に戻る。
「ふう、魔獣の討伐は楽だったが移動は疲れたな」
「あの程度の魔獣ならハヤト一人の方が早かったわね」
なんてツィエラが実体化する。
「まあそうだけどさ、チームで依頼受ける方が貰える単位は多いんだ。多少は我慢するさ」
しかし今日は疲れたな、なんて言いながら風呂に入り汗を流す。
そしてシャワーを浴びたままぼーっとしていると、ゆっくりと風呂の扉が開いてタオルで身体を巻いたツィエラが入ってきた。
「お、おいツィエラ⁉ 何やってんだ! 今俺が風呂に入ってるんだが⁉」
「そんなの見たら分かるわ」
「ならどうして入って来るんだよ⁉」
「たまには良いじゃない、昔は身体の洗い方とか教えてあげたでしょ?」
「それは本当に昔の話だから! 今は一人で洗えるから!」
「いいじゃない、たまには私が背中を洗ってあげるわ」
なんて言いながら石鹸を泡立てていくツィエラ。
昔は確かにこうやって身体を洗ってもらう事もあったが今は自分で身体を洗えるのだ、それにもう俺は十五歳、流石に妖精とはいえ女の子と一緒に風呂にはいるのは緊張する。
「それじゃあ背中を洗うから、椅子に座ってちょうだい」
恥ずかしさと緊張を隠しながら、俺は椅子に座る。
「昔はお風呂に入る機会があったらいつもこうしてたのに、いつから一人で入るようになっちゃったのかしら?」
「さあな、もう覚えてないよ」
「でも、ちらちら私の身体を見るところは変わってないのね、えっち」
「……うるさい」
クソっ、俺だって年頃の男子なんだぞ? 美少女が真後ろにいたらそりゃ見るだろ!
「今リアナみたいなこと言ったわね」
背中を洗いながらツィエラが言った。
「確かに、あいつよくうるさいって言うよな」
「がっつリアナとむっつりハヤト、似た者同士ね」
「俺はむっつりじゃない!」
「私の身体をちらちら見てるくせに?」
「……真後ろに妖精とはいえ美少女がいるんだ、そりゃ見たくもなるだろう」
「素直になってくれて嬉しいわ、ご褒美にタオルも取ってあげましょうか?」
「身が持たないからやめてくれ……」
「別にいいのよ? 我を忘れて襲ってくれても。人間と妖精だから子供は作れないだろうけど、愛の形ってそれぞれじゃない? リアナの部屋にもあったでしょ? 『公爵令嬢と人型精霊の禁断の恋』って」
「一度そうなったらもう歯止めが効きそうにないからいやだ」
「じゃあタオル取るわね」
「人の話を聞けっ!」
なんて言ってる間にツィエラはタオルを身体から取り去った。
その瞬間、恥ずかしくも見たくて我慢できず直視していた俺は、身に纏うタオルが無くなったツィエラを見て、
「水着着てるじゃないか!」
と多大な不満を含ませて叫んだ。
「んー! やっぱり一緒にお風呂に入るのは楽しいわね」
「それ、俺をからかうのが楽しいの間違いだろ?」
「どっちもよ♪」
「全く、これで俺が本当に人間を恋愛対象に見れなくなったらどうするんだ?」
「別に良いじゃない、私がいるんだから。私は貴方が死ぬまでずっと一緒にいるわよ? しかもずっとこの見た目で。人間は年を取ると老いていくから、やっぱり人間と愛し合うより私と愛し合った方がいいんじゃないかしら? リアナより胸もあるわよ?」
「俺は愛し合う相手がいるのなら、一緒に歳を取って相手より先に死にたいんだよ。あとリアナより胸が大きいのは認める」
「あら、どうして先に死にたいの?」
「一人で残されるのは嫌だからだよ、絶対に寂しい。俺は一人ではない時間の楽しさを知ってしまったから、先に相手に死なれるのは嫌だよ」
「ならなおさら私が向いてるじゃない、妖精に寿命はないわよ? それに貴方に一人ではない時間の楽しさを教えたのも私よ?」
「あとあいつらもな」
「……そうね」
ジカリウス教団でチームを組んでいた残りの二人と任務の途中で寄り道して買い食いしたりと、暗殺者に心は必要ないと言われる教団で心を持っていたのが俺たち三人だった。
「それじゃあ私はそろそろ夕飯を作るわね」
「何か手伝えることはあるか?」
「手伝いは必要ないわ、座学のお勉強でもしてなさいな」
そう言ってツィエラはキッチンへ行ってしまった。
食後、寝るためにベッドに入ると、珍しくツィエラがドレス以外の服を身に纏っていた。
のだが、何故か下着姿だった。
「ツィ、ツィエラ? その恰好は一体……?」
「あら? 言わないと分からないかしら? 据え膳ってやつよ。男の子って下着は自分で脱がせるのが好きなんでしょ? それとも全裸の方が良かったかしら?」
薄紫の下着を恥じらうような態度で見せてくる。
「……手は出さないからな? 本当に出さないからな?」
「そう? じゃあ私はこのまま寝るけど、寝てる間に手を出してくれてもいいからね?」
そう言って本当にツィエラは眠りについてしまった。
「クソっ、どれだけからかったら気が済むんだよ……」
なんて言いながら俺も眠りについたが、今日はやけに眠るのに時間が掛かった。
翌日、やはり目を覚ますとツィエラが俺の寝顔を見ながら微笑んでいた。
「おはよう、ハヤト」
「おはようツィエラ、朝から俺の寝顔を見るのは楽しいか?」
「ええ、朝一番の幸せっていうやつかしらね」
「そうかよ……」
「それじゃあハヤトも起きたし、朝食を作るわね」
ツィエラがキッチンに向かう。
それから十数分後。
ツィエラが作ったホットサンドを一緒に食べながら今日の予定を考える。
「ねえハヤト」
「ん? どうしたんだ?」
「今日は依頼の予定はないのよね?」
「ああ、昨日行ったから今日は休みだ」
「なら街に出掛けましょうよ、たまには一日実体化したまま過ごしたいわ」
ツィエラは俺の霊威を消費するために常に霊装顕現として過ごしている。
普段から自由を制限してしまっているから一日くらい彼女に付き合っても良いだろう。
「ああ、分かった。偶には街をぶらついてカフェにでも入ってのんびりするか」
ホットサンドを食べながら今日の予定が決まっていくのだった。
学院の正門を出て、特に目的地も決めずに街を散策する。
前回リアナには学院生活に必要な店を紹介してもらったが、それ以外の店についても知りたくて良い機会だからそのあたりも調べることにする。
「あら、こんなところに服飾店があったのね」
「服飾店がある街って久しぶりに見るな、入ってみるか?」
「いいの?」
「金は帝国から貰ってるから問題ないさ。それにこれから三年間、偶にはこうやって外出するんだから普通の服を持ってても良いんじゃないか?」
「そう、じゃあお言葉に甘えさて貰うわ」
俺たちは服飾店に入る。
店内は落ち着いた雰囲気を出していて服はどちらかというと女性服の方が多いだろうか?
ツィエラとどれが似合うか話をしながら服の物色をしていく。
黒い髪、紫紺の瞳のツィエラは美人だ。
普段は紺色のドレスを着ているが、偶には別の色の服を着てるところを見てみたい。
「ツィエラ、この白いワンピースとかどうだ? 似合いそうだぞ?」
「本当? なら試着してみるわね」
そう言って店員に声を掛け、ツィエラを試着室に案内してもらう。
試着室の前で待つこと数分後、試着室のカーテンが開き、
「ハヤト、どうかしら?」
なんて言いながら白いワンピースを纏ったツィエラがはにかみながら立っていた。
「ああ! 凄く似合ってる! それ買っていこうか」
「そう? 嬉しいわ、ありがと」
「そのまま着て街を歩かないか? 偶には普段と違うツィエラを見ていたいし」
「ハヤトがそう言うなら構わないけど、そんな言い方をされると少し恥ずかしいわ」
なんて珍しくツィエラが照れている。
だけどそれだけ似合っていたんだ、もう少しくらいこの姿を眺めていたいと思ってもいいだろう?
「一緒に靴とかも買っていくか?」
「靴はいらないわ、服だけで十分よ」
「そっか、じゃあ会計に行ってくるよ」
そして店員に着たまま外に出ると伝えて会計を済ませる。
店員のありがとうございました、という言葉を背にして、俺たちは店を出るのだった。
「ハヤト、ありがとう。大切にするわね」
「大切にするって大げさだな、いつか駄目になった時はまたこうやって買いに行けば良いだろう?」
「もう、そういう問題じゃないのよ」
なんてツィエラは言っているが、俺には良く分からない。
これが女心ってやつなのか……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます