第21話 剣聖と言われた魔族がいた

 カタリナと神宮悟じんぐうさとるは、次の国に向けて街道を並んで歩いていた。


 街道はカタリナのふるさと、ロメル帝国まで続いている。


「カタリナさん。次に通過するのは、どのような国ですか」


「『和』の国といい、まじめな国民達に尽くす戦闘能力が高いサムライという戦士達が有名です。それに、国王になるのも最強のサムライなのです」


「戦闘能力が高い戦士達がいるのに、魔族の侵攻に屈し、ロメル帝国の属国になってしまったのですね」


「はい。侵攻した魔族が、どのような能力かは知りませんが、サムライ達に戦いを仕掛けて屈服させたのでしょう。その魔族はそれほどかなり強いのでしょう」


「前に現れた暗黒騎士ゾルゲなのでしょうか―― 」


 やがて2人は、かなり大きな街に着いたようだった。


 その街は中心に小高い山があり、美しい姿をした城が見えた。


 カタリナが驚いて言った。


「不思議な城ですね。私の実家のマルク侯爵城とは全く違います」


「私には見慣れた形の城です。この和の国は、私の世界で私の国である日本によく似ています」


 道を行き交う人々が、全く見ず知らずの2人におじぎをした。


「やっぱり日本に似ています。昔の日本です。昔は、たとえ見ず知らずの異邦人であっても、すれ違う人々におじぎとをして礼を示したそうですから」



 やがて、2人は歩き続けていくと城がある小高い山の下にある平地に出た。


 そこには舞台が造られ、多くの観客の歓声が聞こえた。


 舞台の上は何かの試合会場だった。


 舞台を見ながら、カタリナと神宮悟は舞台に近づいた。


「剣の試合をしていますね」


 舞台の上にでは背の高い大男と、とても小さな老人が顔を試合をしていた。


 カタリナにはすぐにわかった。


「あの老人は魔族ですね。特別なオーラをまとっています」


 試合では木刀が使われていたが、背の高い大男は老人にいいように翻弄ほんろうされていた。


 老人はその顔に、温和な微笑をたたえていた。


 小さな老人は大男が振う剣の軌道をぎりぎりまで見切り、最小限に体を動かすことで完璧に避けていた。


 悟が言った。


「あの老人は攻撃する瞬間を、鋭い感覚で捜しています。たぶん、一瞬で最高のカウンターが入る時がくるまで待っているのでしょう」


 やがて、そのとおりの瞬間が訪れた。


「クッソ―― じじいになぜ当たらない」


 自分が振う剣をことごとく避けられていた大男の剣は、完全に怒り狂った感情に支配された。


 大男は残った全ての力を注ぎ込み、最大の威力で剣を振った。


 しかし、残念ながらそれまでと同じように、老人に見事にかわされた。


 その時――


 一瞬、老人の顔はとても厳しくなり、持っていた剣を的確にたたき込んだ。


 老人の木刀は大男の心臓部分を強く打撃した。


 大男はその場にたおれ込んだ。


 観客からは大歓声が上がった。


「シャー様。最高にお強い」

「さすが剣の達人だ」

「国王はこうでなくては」


 舞台の上に立っていた小さな老人のように見える魔族が国王であることがわかり、カタリナと悟はとても驚いた。


 カタリナは、近くにいた観客に聞いた。


「私達2人は遠くの異国からきた旅人です。今、試合で勝利した御老人は国王様なのですか? 」


「そうさ。国王のシャー様さ。どのサムライよりも強い我々の誇りだ」


「前から国王なのですか? 」


「いや。1年くらい前に、この場所に滞在して舞台を造り大きな旗を掲げた。『サムライよ。誰でもいいからかかって来い。我は最強だ』と」


「サムライ達はその挑戦に乗ったのですね」


「この国の誇り高いサムライであれば、誰しも挑戦します。そして最後には、最強のサムライであった当時の国王を簡単に破り、新しい国王になりました」


 やがて、歓声にあふれかえっていた雰囲気が一変に激変した。


 人々が一斉に黙り込んでしまった。


「悟さん!! 」


 舞台の上の試合会場で、小さな老人に見える魔族が指差していた。


 指差していた相手は、なんと神宮悟じんぐうさとるだった。



「強き戦士よ。ここに上がるが良い。われと戦うことを許そう」


「カタリナさん。どうしましょう。注目され過ぎです」


 多くの観客も一斉にこちらを見ていた。


「行くしかない状況ですね。大丈夫ですよ。いきなりの展開ですが、私の守護騎士は必ず勝てるはずです」


「では行ってきます」


「少し待ってください」


 カタリナはそう言うと、悟に近づき、その額に右手をあてた。

「聖女として、私の守護騎士に最大の加護を授けます」


 神宮悟じんぐうさとるは舞台に向かって歩き出した。


 会場に再び割れんばかりの歓声が起きた。


 悟は舞台のすぐ下に立った。


 すると、とても小さなかわいらしい子供が彼のそばにかけてきた。


 そして、彼に木剣を渡した。


「ありがとう。名前は? 」


「武蔵です」


「武蔵か。最強の剣士の名前だね、絶対に強くなるよ」


 悟は満面の笑みを浮かべて、子供から木剣を受け取った。


 そして、舞台の上の試合会場に登った。


 そこで、国王シャーと向い会った。


けいはさきほど、われが攻撃しようとする意志を感じていたな。しかも、われが攻撃しようとする瞬間よりも、わずか前、最適な瞬間を感じていた」


「はい。シャー様、少しタイミングが遅れたみたいですね。筋肉への信号が少し遅れたのだと思いますが」


「おう、よくわかるな。長寿な魔族の中でも、われはもう高齢、2000年は生きておるでな」


「えっ!! 同じようなことを聞いたことがあります」


「ほう―― われと同じ魔族と戦ったことがあるのか」


「はい。確か、暗黒騎士ゾルゲと名乗っていました」


「ゾルゲか!! われのひ孫と互角に戦ったという騎士がけいなのだな」


「互角ではありません。名誉を重んじる誠実な暗黒騎士は手加減をしてくれました。その時点で本気を出せば、必ず私に勝ったでしょう」


「そこまでわかるのか‥‥ 卿の名前を知りたいが良いかな」


神宮悟じんぐうさとると申します。この世界とは別の世界の最終守護者。今は、聖女カタリナさんの守護騎士です」


「卿が、今、魔界で最も有名な聖女の守護騎士なのだな。ふふふ、おもしろい。われのひ孫より弱ければ、ここで命を落すがよい。参る!! 」


 国王シャーが攻撃を開始した。


 悟がかなりの強者だと判断したのだった。


 最大の勝機をつかむために、先制攻撃を選んだのだった。



 



 


 





 








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