第20話 聖女は人間の心を守る

 悪魔マモンは驚いた。


「私の体をこのようにしてしまうとは、聖女の力は恐ろしい。それに、あの守護騎士はなんという強さだ。無限に連続されたスケルトンの剣攻撃を完全に防ぐなんて」


 悪魔マモンは、考えた。


「よし。この手を使おう。うまくいくはずだ」


 悪魔はその力を使い、全ての街の人々にささやいた。


「この街に敵が来た。お金を稼いでぜいたくするのを否定するひどいやつらだ。一番儲かるのが、獣人やエルフの子供達を捕らえて、売り飛ばすことだ‥‥


 ‥‥別によいではないか!! 人間よりはるかに下等な存在である獣人やエルフが、我々人間様の商売道具になり、我々が金をかせぐのに貢献しても!! 」


 悪魔は、全ての街の人々に、カタリナや神宮悟じんぐうさとるに対する強い憎悪をかきたてようとした。



 ところがその結果、悪魔が全く予想していなかった結果になった。


 街の全ての人々が、悪魔のささやきを否定し無視したのだった。


「そんなこと少しも思わない。獣人やエルフも人間と同じ、世界で尊い存在。獣人やエルフの子供達の幸せを奪い儲けようとなんか考えない。悪魔よ去れ!! 」


 カタリナは既に、全ての街の人々を聖女の神聖オーラで包んでいた。


 彼女のオーラは、人間誰もが持っている優しい心を守り、成長させたのであった。


「え――――っ!! 」


 悪魔マモンは大変驚いた。


「私のささやきを否定し無視することができるのは、神の力でしかない。あの聖女は神並みの力をもつのか。では、こうしてやる」


 それから悪魔は大変怒ったような顔になった。


「思い知れ、クールな悪魔を怒らせるたことを心の底から後悔しろ」


 ドバ王国の街の大広場に、カタリナと神宮悟じんぐうさとるがいた。


「悟さん。スケルトンは姿を消しましたね。次にどのような攻撃をしてくるのでしょうか? 」


「わかりませんけど、どんな攻撃でもカタリナさんを必ず守ります」



 やがて、攻撃が始まった。


 2人がいる大広場に亜空間が造られた。


「誰かが、この周辺に亜空間を造りました」

 カタリナが言った。


 周囲は真っ暗になった。


「大広場にいた人々は、私がすぐに転送魔術で安全な場所に逃がしました」


 やがて、亜空間の一部に魔界との連結ゲートが開いた。


 そして、そこから続々と魔族が現れた。


「全て悪魔の眷属けんぞくです。どうやら、敵は上級悪魔のようですね」


 神宮悟じんぐうさとるは、聖剣:護国を抜いた。


「元々、護国は現世の最終守護者が、現世に侵入してくる魔物を切るために神がお造りになられたものです。でも今は、カタリナさんを守るために使います」


 中級、下級悪魔が襲いかかってきた。


 しかし、悟は少しも恐れず彼らに立ち向かい、聖剣:護国で確実に切断した。


 その様子を見ていた悪魔マモンは驚いた。


「あの守護騎士はいったい―― 我々悪魔の最大の武器は人間が感じる恐怖だ。しかし、彼は少しも恐れていない。初めて見た。遺伝子のレベルから普通ではない」


 やがて、神宮悟は全ての攻撃を退け、中級、下級悪魔は全滅した。


 全ての攻撃を退けると、神宮悟はカタリナの元に戻った。

 カタリナは自分の回りに構築していた防御結界を解いていた。


 既に亜空間は消滅していた。


「カタリナさん。全て終わりました」


「お疲れ様です。少しも疲れていないみたいですね。さすがです」


 一方、この経緯を王宮で見ていた悪魔マモンは言った。


「勝てないな。私の暗黒オーラは聖女のオーラに劣り、守護騎士の力も最強だ」


 悪魔は超打算的だった。


 やがて、大広間にいたカタリナと神宮悟の前に姿を現わした。


 そして、2人の前でひざますき、頭を下げた。


「お見事でございます。聖女様。守護騎士様。私はここで降参致します」


「降参していただければありがたいのですが、ほんとうですか?? 悪魔はうそがうまいと言われますが?? 」


「いえいえ。聖女様に対して悪魔はうそをつくことはできません。そのようなことをすれば、我々悪魔は消滅してしまうのです」


「魔界に返って、2度と人間界にはやって来ないと誓いますか」


「はい。聖女様、誓います。それでは、早々に撤退致します。私がやって来る前の国王は睡眠状態で王宮にいますが、すぐに目を覚ますでしょう」


 悪魔は自分の横に、魔界との連結ゲートを開き、撤退した。


 ところがすぐに、魔界との連結ゲートが開き、悪魔マモンは人間界にやって来た。


「えっ」

「えっ」


 カタリナと神宮悟じんぐうさとるは非常に驚いた。


 悪魔マモンは言った。


「どうしても、聖女様のお顔を見たくなったのです。お優しい顔を見た時のやすらぎの感情がたまりませんでした。悪魔だって、心がとても疲れているのです」


「でも、あなたは私にうそをついたのですよ」


「かまいません。それを承知で、また戻ってしまいました。


 悪魔の姿は少しずつ消え始めた。


 そして、最後には完全に消滅して消えてしまった。



「悪魔は笑っていましたね」


「そうですね。通常悪魔は無気味に笑うのですが、人間と同じ楽しそうな笑い顔でしたね」


 カタリナは複雑な顔をして言った。 


「たぶん、魔界に帰っても魔王から、ひどく責められことがいやだったのでしょう。魔王は人使いが荒い暴君なのですね」



 ドバ王国の王宮で、カタリナと神宮悟が人間の正当な国王に謁見していた。


 謁見の間には多くの人々が集まっていた。


 悪魔マモンを追い払い、国民にかかっていた黒魔術を解除したことについて、国王が2人にお礼を言っていた。


「聖女様と守護騎士様、このたびはありがとうございました。我が国民がとても悲惨な恥ずかしい状況になっていたのをお救いいただきました」


 これに対して、カタリナは応えた。


「悪魔の黒魔術は、人間の金銭欲、弱い者をしいたげる攻撃性。人間の心で最も弱い部分にねらいを定めたものでした。ですから、みなさんを責められません‥‥ 」


「‥‥しかし、私がみなさんにうったえた時、みなさんは金銭欲を捨て、すぐに優しさや思いやりを想い出し、黒魔術は解けました。立派なみなさんです」


 カタリナがそう言うと、謁見の間の中に大きな割れんばかりの拍手が起きた。



 ドバ王国の王宮から離れた場所に、ロメル帝国の王宮があった。


 王宮の中の王妃の間で、今の様子を黒魔女ローザは見ていた。


 黒魔女は顔を最高潮に紅潮させ、興奮していた。


「私のカタリ――ナ、なんてすばらしい言葉なの。あなたはもう、完全な聖女ね。あなたに会ってあなたを殺す瞬間のことを思うとぞくぞくするわ」

 




 


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