第19話 お金よりも大切なものを聖女は示した
カタリナと
チューリッヒ王国のラース町長が教えてくれた。
「街道沿いに進んでいき、4つの国を過ぎると、ロメル帝国に着きます」
街道に沿って川幅の広い大河が流れていた。
「この川は、確かローレライ湖から流れ出ているのですね」
「ローレライ湖ですか? 」
「はい。私が生まれ過ごしたマルク侯爵城は、その湖のほとりに建っていました。もう、どうなっているのかわかりませんが―― 」
「カタリナさん。御心配なく、お掃除なら私がやります」
「お掃除ですか。ふふふふ、ありがとうございます。たぶん、マクミラン皇帝に攻められて、悲惨な姿を予想していましたが、元気が出ました」
「破壊され、どんな姿になっていようが、また、元どおり、いや、もっと美しい城に造り直せるはずです!! 」
「たくさんの方が城の中で働いてくださっていたのですが、今は‥‥ 」
「みんな無事に逃げているはずです。根拠はありませんが、神主の一族である私の直感です。また、みなさんを呼び戻せばよいのです」
「ありがとうございます」
街道を歩いている2人の前方に、建物が密集した大きな街が見えてきた。
城壁に囲まれているようだった。
「あれは、次の国に着いたのですね」
「確か、ドバ王国という国でした」
「商業で栄えていた国です。さまざまな産物を売り買いする商人がたくさんいます」
「ここも、ロメル帝国に征服され属国になったと聞きました。いったい魔界のどのような魔族が関与しているのでしょうか? 」
「街の中に入れば何かわかるかもしれません」
やがて2人は、大きな街の城門をくぐった。
すると、多くの人々が行き交う、たいへん活気のある街だった。
いろいろな商店が道沿いに開かれ、取引きの声がうるさいくらいだった。
「カタリナさん。私の声聞こえますか? 」
「はい。なんとか」
物珍しそうに、いろいろな商店を見ながら2人は進んだ。
そして、異常で不思議なことに気がついた。
ある商店で買い手と売り手が話していた。
「これ、いくらだい? 」
「へい。5ゴールドです」
「安いな」
買いたい人は金貨で支払った。
ふところから出されたそれは、キラキラと輝き美しかった。
この後もたくさんの取引きがなされていたが、すべて、その金貨が使われていた。
悟が言った。
「不思議です。全ての物の取引きに金貨が使われています。中にはあまり、高価でないものもあると思いますが‥‥ 」
「はい。それに、あの金貨には黒魔術の術式が刷り込まれているようです」
そのうちに2人は、さらに気がついた。
あまり見たくない光景で2人は眉をひそめた。
時々、
その中には獣人やエルフが閉じ込められていたのだ。
みんな、まだ幼い子供ばかりだった。
希望をなくし、はるか遠くに焦点の定まらない悲しそうな視線を向けていた。
2人にとって、がまんならないことが起きた。
ある商人が、檻の中にいた小さな獣人を外に出し、むちで打ったのだった。
「あまえ。そんな顔をしているな!! 暗くなる!! 器量はよいんだから笑うんだよ。そうすれば、高い金で売れるんだから!! 」
パチーン、パチーン‥‥
商人は何回もむちをふるった。
しかし、ある時、そのむちの先は消えてしまった。
その理由は、見ていられなくなった悟が、聖剣:護国で光りのような速さで粉々に切り刻んだからだ。
何があったのかわからない商人はぼおっとしていた。
すると――
「止めていただけませんか」
我に返った商人が見ると、美しい女性が世の高い騎士を連れてそこにいた。
カタリナと
「なんだひやかしか。商売の邪魔に‥‥ 」
カタリナは優しい表情で商人を見ていた。
彼女の灰色の瞳が輝いていた。
「‥‥申し訳ありません。ほんとうは、こんなことをしちゃ、いけねえと思っていたのです」
「やはり、黒魔術の影響ですか」
カタリナはその場所で、手を合わせた。
そして、心の底から祈った。
「みなさん、思いやりの心を想い出してください。自分の利益ではなく、他人の悲しみを思ってください。ほんとうは、みなさん、優しいのです」
カタリナを聖女のオーラが包んだ。
それは、優しいボカボカとした輝きだった。
聖女のオーラはだんだん大きくなり、やがて、街全体を包んだ。
突然、街の中で人々の
「こんなことして、ごめんね。ふるさとはどこの山。今から送るね―― 」
あちこちで似たようなことが話された。
「カタリナさん」
「はい」
「こんな最低な黒魔術を構築したのは、やはり魔界の魔術師でしょうか」
「絶対にそうです。その術士は今、私がその黒魔術を否定したことを、きっと今頃は気が付いているでしょう。悟さん。どこか広い場所に出ましょう」
「そうですね。もうすぐ戦いが始まりますから」
カタリナと悟は急いで、街の大きな広場に出た。
ドバ王国の王宮に、大変豪華な国王の部屋があった。
そして、今そこにいるのは、約1年くらい前に国王の座を奪った魔族だった。
名前をマモン。
人間の心を
悪魔は気づいた。
「おや、この国全ての人間にかけた黒魔術が破られましたね」
悪魔はその理由を探査した。
「おっと、やって来ましたか。聖女と守護騎士ですね。それでは、取りあえず実力を試すことにしましょう」
悪魔はその指で空間を押した。
すると穴が開き、同時にカタリナと悟がいる広場の上空にも穴が開いた。
「スケルトン」
そう言ったのと同時に、広場の上空からスケルトンが列を作り、ぞくぞくと降りてきた。
「あっ!! スケルトンがやってきました。カタリナさん後ろに下がってください」
神宮悟はスケルトンの列が地上に降りる場所で待ちかまえた。
スケルトンは剣を持ち、彼に向かってメチャクチャに振り回してきた。
神宮悟はそれを、聖剣:護国で振り払っていった。
空の空間から降りてくるスケルトンの列。
「どうですか。聖女の守護騎士よ。そのスケルトンの列は、永遠に続きますよ。私は無制限に魔界から読み出すことができますから」
しかし、戦いは悪魔の予想どおりにはならなかった。
彼は全く疲れを知らないようだった。
その時、彼の後ろに下がっていたカタリナが言った。
「悟さん。スケルトン達もかわいそうです。過去に無くなった死者達が黒魔術で呼び出されています。この黒魔術を止めさせましょう。剣を振り続けてください」
カタリナはそう言うと、いきなり神宮悟の後ろから、背の高い彼の背中に抱きついた。
「えっ!! カタリナさん!! 」
「問題ありません。そのまま。そのまま―― 」
カタリナは聖女の神聖オーラを神宮悟の体を通じ、彼が振っている剣に自分のオーラを
すると、次の瞬間、彼が剣を振ったと同時にオーラが放出された。
オーラ-はスケルトンの列を直進し、無限に長い列の最後尾まで達した。
「いた。いたいた!! 」
悪魔は空間を押していた指をびっくりして引っ込めた。
見ると、その指の先は聖女の神聖オーラに触れて、どろどろに溶けていた。
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