第18話 最後の守護者は最強だった
「おーほほほ」
黒魔女ロゼは勝ち誇ったように笑った。
「びっくりされましたか。魔界の中で、私のチャーム魔術を使い、部下として従えている魔物達です。ざっっと1億体はいるかしら」
「それが、どうかしました―― 」
「きっと強がりね。聖女の最後の守護者はいったい、何体の魔物を倒せるかしら。まあ、せいぜい数百体ですよね」
神宮悟はロゼの言った言葉に全く反応せず、剣を抜いた。
彼が抜いた剣は、最終守護者として神から与えられた聖剣:護国だった。
「カタリナさん。それでは守護者として初めての勤めを果たします」
次の瞬間、彼は走った。
それは、走る姿が全く見えないほどのスピードだった。
あっけない結果だった。
光のビームが1億体の魔物の軍団に何回も切り込み、あっという間に1億体の魔物を切り伏せた。
聖剣:護国はそれだけの魔物を切り伏せても、少しも刃こぼれしなかった。
多くの
最後には、カタリナの前にひざまずいていた。
「聖女様、終わりました。」
「『聖女様って』恥ずかしいです。カタリナでお願いします」
カタリナは顔を赤らめて言った。
「今は、あなただけの最終守護者です。カッコつけさせてください。修業の成果がでました」
「私の剣の修業の先生をしていただいている間、他に、御自身の修業もされていたのですか? 」
「はい。夜は眠りながら精神体となって、宇宙の小惑星帯まで移動し、無数の小惑星を粉砕する修業をしていました」
「2人で何をしているの!! 今、あなた達は私と戦っているのよ。――ところで、信じられないことだけど、守護者様は強いのね」
黒魔女ロゼはまじまじと悟を見た。
「それほど強い人間は初めてみたわ。魔界の暗黒騎士と戦ったとしても、たぶん全勝ね。唯一、最強のゾルゲとは互角以上―― 聖女カタリナ、では本番よ」
黒魔女ロゼはカタリナを険しい表情でにらんだ。
「黒魔女と白魔女との魔力量の戦いよ。いわゆる魔術合戦ね。さあ、始めましょうだ!! 」
黒魔女がそう言うと、空一面から流星の大群がカタリナ目がけて落ちてきた。
それを見た瞬間、カタリナは手を合わせて目を閉じた。
すると、流星は途中で全て消えてしまった。
「やるわね!! それでは全力でいくわよ!! 暗黒よ―― 」
黒魔女は、自分が出せることのできる全魔力を使い、大魔術を発動させた。
それはチューリッヒ王国、全土の空間の光りを全て奪い、暗黒の世界にすることだった。
何も見えなくなった。
気温は急激に下がり、生物や植物の生命に最悪の環境が訪れようとしていた。
絶望の死の瞬間が目の前に近づいた。
ところが――
完全な暗黒の中にポッと、小さな炎が灯った。
小さな炎だけど、とても強い力をもっていた。
そして、その炎は急激に大きくなり、上昇しいった。
高い天井で最大限の炎のかたまりとなり、チューリッヒ王国全土を照らした。
「光りあれ、全ての生命は聖女により守られる」
カタリナの優しい言葉が響き渡った。
すると、周囲は全く元に戻った。
カタリナの白魔術が勝ち、黒魔術を完全に打ち消した。
「えっ‥‥ 」
黒魔女ロゼは仰天した。
自分の最大限の魔力を使い、発動させた大魔術がいとも簡単に打ち消された。
そして気を失った。
‥‥‥‥
「あの― あの― 」
ロゼは目を開けた。
すると自分の顔が抱き寄せられ、誰かにじっと見られているような気がした。
「‥‥‥‥ 誰? あっ、聖女の守護者!! なんてイケメン!! 」
ロゼはすぐに飛び跳ねて、悟から距離をおいた。
彼女の顔はとても赤かった。
「認めましょう。今日のところは私の完全な敗北です。敗北したからには、この国から撤退しなければなりませんね」
「ほんとうに、この国から出て行っていただけますか」
「そうよ。二言はないわ。なにしろ最強の守護騎士に守られた最強の聖女様が現れたのですから。早急に魔界に戻り、リューベ様に報告しなければ」
「チューリッヒ王国には、私の祝福が行き渡り、あなたのチャーム魔術は完全に無効化されます。みんなが誠実に勤勉に励み、毎日努力する素敵な国に戻るでしょう」
「わかっています」
気の強い彼女は悔しそうに言い捨てると、その場から立ち去ろうとした。
しかし、何か言い忘れたようだった。
「大事なことを忘れていたわ。最強の騎士様、その聖女に仕えることがいやになったら、すぐに私が雇い入れますわ」
そう言うと、後ろを振り向き、その方向に開いた異空間からジャンプした。
魔界の魔王城では大騒ぎが起きていた。
最強の聖女が最強の守護騎士に守られて、突然出現した。
謁見の間で、魔王リューベが黒魔女ロゼに聞いた。
「ほんとうに聖女なのか? 力はどれくらいか? 」
黒魔女ロゼに変って、姉のローザが応えた。
「妹から聞きと、ほんとうに聖女なのです。ただ、こんな短期間にあのカタリナが聖女になれるほど強くなった理由がわかりません???? 」
黒魔女ローザは、横にひかえていた妹ロゼをとても心配そうな顔をして見た。
「ロゼ。運が悪かったのね、かわいそうな我が妹。リューベ様、妹の言うことはたぶん真実です。妹の大黒魔術を破ることができるのは聖女しかいません」
「そうか、それではこれから、どうやって対処するのか。最強の聖女を最強の守護騎士が守っていると聞いたぞ」
「最強の守護騎士とは、とても背の高く、目がとても大きく、巻き毛が印象的
な若者だったのか? 確か名前は? 」
暗黒騎士ゾルゲが聞いた。
それに黒魔女ロゼが応えた。
「名前は
「その神宮悟は、貴公の1億体にも及んだ魔物軍団を一瞬にして切り伏せたのだな」
「はい。ゾルゲ様が魔界で起きた1億体の魔物の反乱を討伐した時と、ほぼ同じような力を示しました」
「そうか、そうか!! 前に戦った時は我に少し劣ると思っていたが、必ず、我に追いつき追い越すと確信していたのだ。はははは 」
暗黒騎士ゾルゲは敵のことを話しているのだが、心から愉快そうに笑った。
それを見て黒魔女ローザがかみついた。
「あーら、暗黒騎士様。魔王様の前で、そのような態度を示してもよいのかしら!! 」
「かまわない。たとえ敵であるとも、すばらしきことをたたえるのが騎士道だ。なにしろ、あの若者は
魔王リューベが聞いた。
「ゾルゲよ。無限の次元・時間の深遠の中から生まれる者の中で、最強の騎士ゾルゲと同じくらい強くなれるのか? 」
「ほとんど不可能です。しかし彼は、神から最大のギフトを与えられ、それにおごらることのなく死に者狂いの努力をしたのでしょう。無限の辛さと涙に耐えて!! 」
「うーん。魔界最大最強の敵が現れたということだな。人間界における支配地域は後、ロメル帝国も含めて5か国、魔界最強の5将がいる。大丈夫だな」
「御意」
「御意」
「御意」
「御意」
4将が返事をした後、黒魔女ローザが言った。
「魔王様。なーにも御心配はいりません」
(カタリ――ナ‥‥ カタリ――ナ‥‥ 私があなたの美しい顔を血みどろにして、必ず殺してあげるわ)
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