第14話 聖女のほんとうの仕事はなに
剣の修業は、水、火、風、土、緑そして光、6つの型を習得した段階で終わった。
海見神社の社殿の中で、久し振りにカタリナと月夜見が話し合っていた。
「月夜見、七支剣が示すように、世界には7つの要素があり、剣には7つの型があるはずですが、残りの1つは何でしょうか? 」
「わからないわ。古くからの伝承でも6つは伝えられているのだけれど、後、1つは言い伝えがないの。きっと、長い年月が経つ間に失われてしまったのでしょう」
「7つ、そろわなくてはいけませんか? 」
「いいのよ。問題ないわ。カタリナはもう、最も大切な光の剣を習得し、聖剣、七支剣の本刃を使えるようになった。枝刃もほとんど使えるようになったから」
「次の修業は何でしょうか」
「最終修業に入る段階になったと思うわ。ただ、その前に、あなたにやってもらいたいことがあるの」
「それは何でしょうか? 」
「明日のお楽しみ。それで、明日の朝、これを着て出かけましょう」
次の日、社殿の前にカタリナが出てきた。
彼女はとても恥ずかしそうだった。
そこには既に、月夜見が待っていた。
「えっ!! 月夜見、その姿は!! 」
「私もカタリナと同じ年頃の若い女の子よ。四六時中、巫女服を着続けているわけではないわ。それと、よかった。カタリナ、その姿、よく似合うわね」
「そうですか。少し、シックすぎるような気がします。まだまだ私は子供ですから、こんな洗練され大人びた服は、ほんとうに似合うのか心配でした」
「あなたは、もう十分に大人びて落ち着いた感じをもっている。苦労を乗り越えてきたからよ」
「ありがとうございました」
それから2人は、山の頂上にある海見神社の階段を降り始めた。
ふもとまで降りると、そこには1人の若者が待っていた。
「悟さん!! 」
カタリナがびっくりしたような声を上げた。
「カタリナさんがそのような服を着ると、まるで中世の貴族の御令嬢のようですね――すいません、侯爵家のことを想い出すようなことを言ってしまいました」
「良いのですよ。私もこちらの世界にきて、もう1年が経とうとしています。想い出すと、とても辛かった実家の記憶がこのごろは懐かしく思えるようになりました」
「よかったわ。悟も悪気がなかったの。許してあげてね――ところで、今日はカタリナに是非言ってもらいたい場所があるの」
「はい。私がこの世界に転移してから、初めての遠出になります。お二人、よろしくお願い致します」
3人は、そこから近いバス停でしばらく町バスに乗った。
「さあ、カタリナさん。この乗り物の階段を上がってください」
「大きな馬車ですね」
「中に入ったら、開いている席に座れるのですが―― あっ、一番後ろが開いていますね。3人並んで座れますから、そこに座りましょう」
バスが動き出した。
「悟さん。おかしいです。この場所の前には馬がいません。なんで動けるのですか」
これには、悟の代わりに月夜見が説明した。
「月夜見。この鉄の箱のようなものに流れるオーラ-を探知してごらんなさい」
「はい。あっ、火の要素が感じられます。何かが燃えて、爆発しています。それから、わかりました。その燃えているものには緑の要素も感じます」
「さすが、最強の白魔女ね。ガソリン~石油に含まれる古代の木々の要素まで感じてしまうとは」
バスはしばらく走り続けた。
カタリナは、ガラスの窓から見ることができる月次と変る景色に見とれていた。
やがて、道の前方に彼女も知っている建物が見え始めた。
「前方の建物はよく知っています。あの十字架がどのような意味を知っているかも」
「そうなんだ。カタリナの異世界にも協会というものがあるのね。それで、十字架の意味はどのように? 」
「神の前で、人間の罪をあがなうため命を捧げた聖女の
「だいたい同じだけど。この世界では聖人だけど、聖女になっているのね。さあ。あの教会のすぐそばのバス停で降ります」
3人は、教会の門の中に入り、聖堂のそばの建物に入っていった。
すると、たくさんの拍手で迎えられた。
「いらっしゃい。みなさん。今日は歓迎致します」
神に仕えるシスターが3人を案内した。
部屋の中には、多くの小さな子供達がいた。
教室のように、並べられた机にたくさん座っていた。
シスターが聞いた。
「巫女様といとこ様ですね。そして、こちらの方は? 」
「こちらは聖女カタリナです」
「カタリナ。何でも良いから子供達にお話をしてあげて。この子供達は大変不幸な事情で御両親をなくし、ひとりぼっちになってしまった子供達よ」
それを聞いてカタリナの顔が変った。
(こんなに小さな時に、私と同じ悲惨なことを経験したなんて)
瞬間、彼女は下を向いた。
思わず涙がこぼれ落ちそうになったからだ。
やがて、彼女は自分の気持ちを奮い立たせ顔をあげた。
「みなさん。私も同じです。私にはもう、お父さんやお母さんはいません。でも、今はとても元気です。つらい気持ちもだいぶ小さくなりました」
カタリナの話が意外で、小さな子供達は目を丸くしてカタリナを見た。
「では、なんでそうなったのでしょう。それは、必ず回りの人々が助けてくれるからです。ここにいらっしゃるお二人は、私をほんとうに支えてくれました」
そこで驚くべきことが起きた。
カタリナの言葉と呼応するように、彼女は光り始めた。
それはとても美しく、暖かい光りだった。
「みなさんは絶対にひとりぼっちにはならない。まだ会ったことのない人々の中にもたくさん―― 」
そこで、急にカタリナは話を止めた。
彼女は机の中を歩いていき、一番後ろの席に近づいた。
そこには1人の男の子が大粒の涙を流していた。
「お名前を教えてください」
「
「お母さんがつけてくれたんだよ」
「そう。とても素敵な名前ですね。何か私に聞きたいことがあるみたいですね」
「僕にはお父さんがいるのだけど、僕は生まれてから一度も見たことがない。だからひとりぼっち」
「えっ そうですか? 違いますよ。あなたはもうひとりではありません」
カタリナは自信をもって言った。
そして、建物の入口を指さした。
すると、こには若い1人の男性が立ちすくんでいた。
カタリナが優しい口調で言った。
「どうぞ、勇気を出しましたね。その勇気を心の底からたたえます。息子さんはここにいらっしゃいますよ」
シスターが聞いた。
「聖女様。あの方は? 」
「純君のお父さんです。間違いありません。万難をはいして今、あそこに立たれています」
「聖女様が言われるからには間違いがないでしょう。お入りください」
「ありがとうございます」
彼は走り出し、純のそばに駆け寄った。
そして面くらう純を強く抱きしめた。
カタリナが言った。
「純君。よかった。間違いない、この方があなたのお父さんです」
帰りのバスの中だった。
月夜見が隣に座っていたカタリナに聞いた。
「カタリナ。あなたは、あの親子について、どんなことを知ったの?? 」
「お父さんは、純君のお母さんと深く愛し合っていました。しかし、お父さんの家は名家。回りの人に強く反対され、結局、純君とお母さんを捨てる道しかなかった」
「お父さんは、どんな勇気を出したの」
「父親に刃向かって、同族会社の社長の地位を捨ててきました。純君を自分の息子として、正式に認知するために」
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