第15話 自分の行く先を見つける修業

「定期的にあの教会に行っているのですか? 」


 カタリナが月夜見に聞いた。


「そうです。我が一族は神に仕える巫女、神の御意思は悲惨な運命にあらがう人々を見捨てません。ですから、少しでも神の御意思を実現させるのです」


「神の御意思ですか? 」


「はい。カタリナの住んでいた世界でも同じだと思います。おおいなる存在は人々が運命に抗うことを望みます。そして、それを助けるのが聖女なのです」


「‥‥確かにそうですね。私の進むべき道かもしれません」


「でも、カタリナにはやろうとしている大きな目標があるわね」


「国王と黒魔女に、リベンジすることは私の心の中に大きな目標として残っています。――強く。変らず」


「強く。変らずか‥‥ 」


 月夜見は一瞬、何かを言いたそうだったが止めて、再度、話し始めた。


「巫女修業の最終修業を明日から始めるわ」



 次の日の朝。


 2人は海見神社がある山の頂上から階段を降りていた。


 333段ある階段を30段降りた場所の横から道がつながっていた。


 その道を月夜見の先導で歩いていくと、山の斜面にできた洞窟の前に来た。


 その洞窟の入口にはしめ縄がかけられ、その中は何か神聖な場所のようだった。


「カタリナ、この洞窟はおおいなる存在に近づく場所よ。最後の修業は、この洞窟を進むことです。そして、また出口に戻れば終わりです」


「それだけですか? 」


「それだけよ。だけど、ある意味では最も難しい修業です」


「そうすると、なかなか出口に戻れないのでしょうか? 何にもですか? 」


「いえいえ、そこは大丈夫よ。この洞窟の中の時間の進み方はとても遅いの。この洞窟の外で10日進む間に、中では1日くらいしか進まないわ」



「では、行ってきます」


 カタリナは洞窟の中に入った。


 入ってしばらく進んで行ったが、岩肌が続くだけで様子は全く変らなかった。


 しかし、ある時、彼女は異常な、不思議なことに気が付いた。


「なんで、この洞窟の中はずっと明るいのかしら? 光源が何もないのに? 」


 彼女は無意識に、感覚を研ぎ澄まし、その理由を見つけようとした。


 すると、


 いきなり周囲の状況が変った。


 彼女は動画を見るように、その光景を見ていた。



 皇帝の顔は極めて残忍な顔になった。

「殺せ―― 」


 伯爵のうめき声は止まり、彼は息絶えた。


「きゃ―――― 」

 カタリナは悲鳴を上げた。


「それからローザよ。小うるさいじいさんの娘も殺してしまえ。確か名前は」


「皇帝陛下。忘れたら失礼ですよ。あなたの元婚約者、マルク伯爵令嬢カタリナさんです。それでは、御意のままに」


 ローザの赤い瞳が輝き、カタリナに向けて魔法の矢が放たれた。



 ところが、その矢が彼女に刺さろとするルートを、誰かの体がさえぎった。


「お母様!!!! 」


 マルク伯爵の妻グネビアだった。


 魔法の矢は実態化して母親の胸から多くの血が流れた。


「ごめんなさいね。あなたの魔力を発現させられなかったわ。でもね、お父様と私はあなたを心の底から愛し、重荷を背負う聖女にはさせたくなかったの‥‥ 」


「お母様。私のために、こんなことに」


 母は最後の力を振りしぼって、彼女に微笑んだ。

「いいのよ‥‥ お父様と一緒に、いつも見守っているわ‥‥ 」


 カタリナは父と母の顔を両手で強く抱きしめた。


 この様子を見て、数百人いた家臣たちは、不運な親子に深く同情した。


 しかし、皇帝は極めて残忍だった。


「ローザよ。もう2度と失敗は許さない。殺せ」


 ところが‥‥


「わ――――っ 」


 カタリナの灰色の瞳が強く輝いた。


 そして、月の光のような光は急激に強くなり、大広間の中を埋め尽くした。


 誰も目を開けてられなくなった。

 

 ‥‥‥‥‥‥


 カタリナは思った。

(こんなに!! こんなにひどいことが私に起きるなんて‥‥ )


 そして彼女は意識を失った。


‥‥‥‥‥‥


 光りは消えたようだった。



「憎い!!憎い!! 国王。黒魔女。なんで! 悲しい記憶を見せるの!! 」


 洞窟の中でカタリナは叫んだ。


 彼女の叫びは何回もこだました。


 彼女はその場に崩れ落ちた。


 ‥‥‥‥‥‥



 カタリナは別の風景を見始めた。


 深夜のようだった。


 そして、大きな滝が見えた。


(あっ、この滝は前に見たことがある。海見神社の山のふもとにある水量の豊富な滝、前に教会に行く前にちらっと見た)


 よく見ると、滝から流れ落ちる水流が一番下で何かにぶっかっていた。


(あっ!!!! )


 月夜見が滝壺で水流に打たれていた。


「かしこみ、かしこみ神よ。無限の次元・時間を超えて、悲しい運命から逃げてきた娘さんがいます。このままでは彼女は立ち上がれません。彼女に勇気と力を‥‥ 」


 真剣に心の底から、全力で神に向かって祈っているのが見えた。


 そして場面が変った。


 なんと!! ずぶ濡れの白装束のまま、月夜見が333段の階段を登っていた。


 月夜見は階段を上まで登ると、また降りて、


 そしてまた333段の階段を登り始めた。


「月夜見‥‥ 私が意識を失っていた時、こんなにしていただいたのですね」


 ところが、それだけではなかった。



 場面が変った。


(あっ!! ここは!! )


 1回しか入ったことがなかったが、護世神社の祭壇だった。


 2人の人物が祈祷きとうをしていた。


 2人とも熱心に真剣に、ある人のために心の底から祈っていた。


「私のために!! 悟さん!! 登与さん!! 」


 

 そして、場面は目まぐるしく変わり始めた。


 この国の夜、人々の安らぎを守るため、月夜見の一族は祈っていた。


 一族は大切な意識を共有していた。


「カタリナ‥‥ それだけではないわ‥‥ 」

 月夜見がささやいたように彼女は感じた。


 この国ではたくさんの人々が熟睡している時間だった。


 しかし、熟睡していた人々は誰かのために祈っていた。


 月夜見の一族のように、明確なことは意識していなかったが、

 この国の人々は悲しい運命に見舞われ苦しんでいる人々のために祈っていた。



「ありがとうございます」



 カタリナの意識は戻った。


 気が付くと、彼女は洞窟の出口のすぐそばまで来ていた。


 光を目指して彼女は歩いた。


 そして外に出ると、月夜見が笑顔で迎えていた。


「すごいわ。さすが聖女様ね。入ってまだ数分しか経っていないわ」


「祈ってくれたから」


「えっ?? 」


「祈ってくれたから」


「えっ、えっ???? 」


 カタリナは全力で月夜見に抱きついた。


 月夜見が温かな優しい声で言った。


「聖女様。もうあなたは無限の魔力を発現させたわ。修業も終わりね―― 」


「そんなことありません。私はまだまだ未熟で」


「自分を見て。全身に高貴な紫オ-ラが輝くのは聖女だけよ―― 」



 それは、カタリナが本来いるべき異世界。


 ロメル帝国の魔界、魔王宮の長い長い幅の広い廊下だった。


 すれ違う魔族達をタカビーな視線で見ながら、黒魔女ローザが歩いていた。


 ところが突然。


 黒魔女は口を押さえた。

 口から彼女の血があふれだしたかのようだった。


 そして黒魔女ローザは耐えきれなくなり、その場にうずくまった。


「私の内蔵の一部がやられたわ。カタリ――ナ―― おめでとう。最強の紫オーラを身にまとったのね‥‥ 」


 黒魔女はその場で倒れ、完全に意識を失った。


 行き交う魔族達は、全く彼女のことを心配せず通り過ぎた。








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