第13話 聖女が振う光の剣は涙を吹き飛ばす

 それから毎日、浜辺で、光の剣を習得するための修業が続けられた。


 それにしても講師の北川咲良きたがわさらは、鬼のような厳しさだった。


 疲労がピークに達したカタリナが、その場で倒れ動けなくなると、


「早く立ちなさい! できるだけ早く光の剣を習得しなければならないの! あなたには時間がないの! 時間を惜しみなさい!! 」 


 カタリナはその厳しさに懸命に耐えていた。


 それを見守る神宮悟じんぐうさらは、ハラハラしていた。


 ただ、成果が近づいていることは感じていた。


 実は、北川咲良きたがわさらも同じだった。

 そして、心の底からカタリナのことを応援していた。


(もう少しよカタリナ、あなたは、あとほんの少しのジャンプで光の剣をつかむわ)


 一方光の剣の修行中、時々カタリナの心の中に不思議な感覚が生じていた。


 自分が形の無い精神体となって、ふぁふぁしているような感覚だった。




 カタリナが転移した日本、今、剣の修業を楽している砂浜から無限の次元・時間を超えた異世界だった。


 それは、カタリナが本来いるべき異世界。


 ロメル帝国の魔界、魔王宮の長い長い幅の広い廊下だった。


 暗黒騎士ゾルゲと黒魔女ローザが、すれ違う時のことだった。


「あ―ら あら。大騎士様じゃございませんか。魔王リューベ様第1のお気に入り、無限の次元・時間を超え、人間の剣士に追い返されたこともお咎め無く!! 」|


 寡黙かもくな暗黒騎士は、ちらっと黒魔女を見たが、無視して通り過ぎようとした。


「魔界最強の騎士がとてもとても、空前絶後に恥ずかしいことですね!! 」


 非常に失礼な言い方だった。


 暗黒騎士ゾルゲは強さだけではなく、誠実で誰に対しても思いやりがあった。


 そのため、魔界に住む全ての住民から尊敬を集めていた。


 魔王リューベも、特別な事情があり、暗黒騎士が全力で戦ったわけではないと確信していた。


 強い精神の持ち主である暗黒騎士は、完全に黒魔女を無視し通り過ぎた。


「ふん!! 意固地で頑固。見せてあげるわ、私の価値を―― 」


 黒魔女ローザは、このごろ自分の部屋でいつもやっているように、廊下で空間モニターを出した。


 それは、無限の次元・時間を超えた異世界、カタリナにフォーカスされていた。


「カタリ――――ナ 偉いわ。私にカッコよく殺されるため、厳しい修行をしているのね。ほんの少し、修業のお手伝いをしましょうか」


 黒魔女はとても無気味な形状をした魔剣を手にした。


 その魔剣は、永遠の暗闇から魔力を引き出すものだった。


「あ――っ その場所にはたくさんの人間の精神の暗闇が満ちているわ。」


  黒魔女は、心の中で念じた。

(ビーダーク)


 その瞬間、魔剣から強烈な暗闇のエネルギーが放射された。


 そして、無限の次元・時間を超え、カタリナ達がいる入り江に届いた。



 調度その時、入り江に漁船の一群が入ってきていた。


 今日のりょうを終えて、入り江の奥にある小さな港に帰ろうとしていた。


 しかし、このところ海が荒れて、大変な不漁続きだった。


「今日も、完全にさっぱり捕れなかったな」

「一体、いくらの借金を作ったんだ? 」

「そうだな。船のガソリン代、船員達の賃金‥‥ もう、いやだ」

「おれの家なんか、もう金がないぞ。妻に申し訳ない。今日の晩ご飯を作るのに苦労しているだろうな、俺は大食らいだから―― 」

「センスがいいギャグだけど、こんな状態だと笑えないな」

「おい!! 泣くな!! 」


 船を動かしていた1人の船長が明らかに泣き始めた。


 それは、またたく間に伝染し、他の多くの船長も泣き始めた。


 黒魔女ローザが無限の次元・時間を超えた場所で打った暗闇のエネルギーは、船長達の気持ちを吸収し、最大限に巨大化した。


 そしてそれは、入り江の上空に超巨大な雷雲を発生させた。


ゴゴ、ゴゴ――――――――ン


 入り江や砂浜にいた全ての人々に、超巨大な雷の音が聞こえた。


 このままでは大嵐が瞬時に発生し、多くの人々の命が危なくなった。



 カタリナには、超巨大な雷の音は聞こえなかった。


 光の剣の修業の没頭していた彼女には、何も聞こえないように感じた。


(暗闇のエネルギー!! 私が切らなければならない!! )


「七支剣、ここへ」


 砂浜のゴールで待っていたさとるの前に置いていた七支剣が消えた。

 カタリナの手の中に七支剣が現れた。


 彼女は無意識に、高度魔法の言霊を詠唱した。


「光あれ― 」


 光の剣の型を構えると、七支剣の一番大きな本刃が暖かく輝いた。


 そして、振られた七支線剣は最大限の白魔女のエネルギーを発した。


 白魔女のエネルギーは一瞬にして、超巨大な雷雲を切断し消滅させた。



 空には太陽が輝き、とても温かな光を多くの人々に注いだ。


 入り江にいた漁船の一団にも惜しみなく輝いた。


「今、何が起きた? 」

「巨大な神雷が聞こえたけどすぐに消えたな」

「それにしても、ポカポカして暖かいな」

「心の中までいや》される」

「みんな、がんばろう!! 不漁もすぐに大量さ!! 」

「元気よく帰ろう!! 家族に笑顔を見せるんだ!! 」


 漁船の一団の中に、自然に楽しそうで元気な歌声が起きた。


 一方、砂浜では大騒ぎが起きていた。


 カタリナが光の剣を打った後、その場に倒れんでしまったからだ。


「カタリナ。大丈夫、大丈夫―― 」


 そばにいた咲良が、あわててカタリナに声をかけた。


「カタリナさん。カタリナさん」


 神宮悟じんぐうさとるが神速の速さで、その場に駆けつけた。

 思わす彼は、カタリナを自分の膝の上に抱き寄せた。


「悟。カタリナさんのみゃくを測るの、早く」


「あっ!! 脈はしっかりしています」


「口元に顔を近づけて、息はしている? 」


「はいはい。息もしています」


 その時のことだった。


 意識を失っていたように見えたカタリナの両手が伸びて、悟の顔を抱え近づけた。


「え――――――っ」

 そばで目撃した咲良が大声を上げた。


 その時、カタリナが目を開けて大声を上げた。

「え――――――っ」


 あわてて、悟の顔を強い調子で突き放した。


「ほんとうにすいません」


「良いですよ。カタリナさん。ついに光の剣を習得しましたね。おめでとう」


「カタリナ完璧だったわよ。あなたの光の剣は、聖女としての本当の力を発現させるのね。‥‥それと、不完全だったわね‥‥ 」


「不完全ですか?? 」


「目を開ける前から意識があったのでしょう。無意識のようなふりをして、悟の顔を近づけて何かをしようしたのね。私だったら完璧にキスまでしたわ」


「違います。違います。ほんとうに無意識だったのです。でも私は悟さんの臭いが好きだから、無意識に体が動いてしまったのですね」


「無意識にか‥‥ 」



 空間モニターで黒魔女ローザが見ていた。


 それは、無限の次元・時間を超えた異世界、カタリナにフォーカスされていた。


「カタリ――――ナ 幸せそうね。でも私も幸せ。強くなったあなたを殺すのは、どれほどの快感かしら」




 









 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る