第9話 聖女は剣の修行を始める

 海見神社の社殿の中で、カタリナと月夜見が話していた。


「カタリナ、そろそろ、次の修行に移ってもいいと思う。いいえ、次の戦闘訓練に移らないといけないと思う。この間の暗黒騎士の襲撃みたいに敵は待ってくれないわ」


木霊こだまの山道を歩く修行は、終わってもよいのですか」


「1兆を超える彼らにしがみつかれても、あの山道を普通に歩けるようになったから修行は合格ね。これから、強い霊的・魔力的な攻撃を受けても、あなたは大丈夫」


「次はどのような修行になるのでしょうか」


「物理的な戦闘訓練だわ。なにしろ戦闘は剣を使うことがほとんど。あなたは白魔女だから魔法が一番の武器だけど、剣もある程度使える腕前にならないと」


「剣の修行ですね」


「魔女が使う剣は魔剣と呼ばれているものよ。強力な魔力が持ち主さえも支配する。でも、潜在魔力が無限のあなたなら、問題なく強力な魔剣を使えるようになるはず」


「剣の修行はどこで行うのですか? 」


 カタリナがそう問い掛けた時、一瞬、月夜見の顔が微笑んだように見えた。


「今、御案内するわ。外に出て」


 2人は社殿の昇降口を降りて外に出た。


 海見神社がある山の頂上で、見晴らしの良い場所にカタリナは連れて行かれた。


 そこからは、陸地側に細長く食い込んでいる海の入江が見えた。



 海が印象的だった。


 この世界に転生して、もう半年あまりになり、カタリナの心の傷もだいぶ治った。

 波が日の光を受けてきらきらと輝き、彼女の傷をさらにいやした。


「カタリナ。入江がきれいでしょう。でも、今、あなたに御紹介したいのは海ではなく山よ―― 」


 月夜見は海を取り囲んでいる山の連なりを指さした。


「ここから入江を取り囲むように、山が連続して連なっているのですね」


「あの尾根を見て」


「あっ!! 何か建物が!! 」


「あれは、護世神社よ。私と同じ月の一族が神主をしている。今、私のおばさんが神主よ。名字は『神宮』」


「神宮!! ですか!! 」


「そうそう。確か、おばさんの息子は現世の最終守護者、神剣の達人だったわね。神社に併設された道場にいつもいるわ」


「それじゃあ。これから毎日、悟さんのお家に行けるのですね!! もちろん。修行の先生は悟さんですね!!!! 」


「悟よ」


「やったー、なんて素敵な修行でしょう」


「もう修行のことは、悟るには話しておいたわ。前にも言ったけど、私達一族は心を共鳴させることができるの」


「ところでカタリナ。悟さんの神社はここ海見神社から入江の海をはさんで、全く向い側、反対側ですね。山を峰沿いに歩いていくと、どれくらいかかるのかしら」


「そうね、ざっと2時間くらいかしら」


「えっ。そのなにかかるの。距離的にはもっと短いような」


「道が未整備なの。ほとんど、獣道を行かなくてはならないわ」


 やがて、月夜見がひとりごとを言い始めた。

(ひとりごとを行っているように見えた)


「出迎えはいらないわ。えっ、毎日ここにやって来るって。それでは修行にならないでしょう。彼女は心配いらないわ。剣は使えないけど、既に最高の白魔女なのよ」



 次の日の朝、カタリナが海見神社から護世神社がある頂上に向かう時がきた。


 月夜見が見送った。


「おばさんは優しい方だから心配いらないわ。悟と顔がそっくりよ。それから、これを修行に使って」


 月夜見は剣をカタリナに渡した。


 それは、不思議な形をしていた。


 本刃に加えて、つかに近い刀身の左右に交互、6つの枝刃が付けられていた。


「七支剣よ。全部で7つの刃を使って戦うの。不思議な形だけど、古代から、この国で最も強い霊力をもつ巫女が使っていた魔剣よ」


「もしかして、月夜見の一族の宝剣ではないのですか。そんなに大切なものを私がいただくことはできません」


「いいのよ。今まで、誰もこの剣を覚醒させ、ほんとうの力を引き出すことができたものはいなかったわ。でも、あなたの魔力ならきっとできるはず」


「ありがとうごさいます。それでは第1日目の修行に行ってきます。



 カタリナはすぐに尾根沿いの道を歩き始めた。


 獣が時々通るほんの細い道しかなかったので、前進するは大変だった。


 ただ彼女の大フアンである木霊こだま達が、道案内してくれたから助かった。


 そして、2時間くらいして、ようやく前方になんらかの建物が見え始めた。


「あっ。やっと着いたのですね」


 建物に近づいていくと、平地が現れた。


 そこのは、背の高い美しい女性が1人で立っていた。


「いらっしゃい。カタリナさんですね」


 優しそうな大きな目が悟にそっくりな、ほんとうにとても美しい人だった。


 しかし、いきなり、その女の人がカタリナを強く抱き寄せた。


「大変つらかったでしょう。あなたが経験したつらい悲しい記憶を、私も感じたわ。月夜見が感じたあなたの気持ちを私も感じたの」


「かあさん。そんなに強く抱き寄せたらカタリナさんも苦しいでしょう」


「まあまあ、ごめんなさい。カタリナさんが、けなげで。一所懸命に悲惨な記憶と戦っていることにエールを贈りたかったの。私は神宮登与、悟の母親です」


「カタリナさん。少し休んでください。社殿に御案内します。それから、今日からの修行に使う道具は僕が全て御用意しました」


「あらあら、少し違うでしょ。修行着は私が作りました。あまりうまくできなかったけど、カタリナさんのような美女は何を着ても似合うから問題ないわよね」


「ところでカタリナさん。背負っているものは? 」


「月夜見さんが渡してくれました。『七支剣』という宝剣だそうです」


「伝説は我が一族に代々伝わっていますが、誰もほんとうの力を覚醒させたものがない剣ですね。ねえさんも、是非カタリナさんに使ってほしかったのでしょう」



 しばらくして、護世神社の武道場で剣術の修行が始まった。


 指南役の神宮悟じんぐうさとるが言った。


「カタリナさん。剣の基本は型です。まずは基本の型からお教えします。折角ですから、七支剣を使ってやってみましょう。少し長くて振りにくいかもしれませんが」


「剣の型は、この世界のさまざま要素に従って作られてきました。水、風、火、土などの要素があります。ところが、僕が昨日戦った暗黒騎士が使う剣は、違いました」


「悟さんが知らない型があったのですか」


「はい。暗黒騎士が時々使った型の中に全く知らないものがありました。でも、それらの型の剣が僕に届いた後、あの暗黒騎士は2度とその型を使いませんでした」


「そうなんですか」


「まるで手加減したかのようでした―― あっ、余分なことですね。それでは今日は何か一つの型をやってみましょう。水が良いですね、水の型は覚えやすいですから」


 神宮悟じんぐうさとるは、カタリナに水の型をわかりやすく教えた。


「悟さん。それでは、やってみますね」



 カタリナは水の型の剣を振うために、七支剣を構えた。


 ところが、なぜか彼女は違和感を感じた。


 七支剣の枝刃の一つが、水色に強く輝いていた。


 そして彼女が剣を振ると。


 剣を振った先の空間から強い水流が吹き出した。

 水流は剣道場の壁をぶち抜き外に噴射され、山の上から海にまで届いた。



 


 



 




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