第10話 4つの要素を発現する聖剣だった

「あ――っ 申し訳ありません」


 カタリナは平謝りした。


「いえいえ。カタリナさん、お気になさらないで。七支剣の潜在力の一つを覚醒させたのですね。あなたの潜在魔力のすごさと、今までの修行の成果ですね」


 その時、悟の母親の登与があわてて、一方の壁が抜けた剣道場に入ってきた。


「どうしたの!! あっ!!!! 」


 そう言うと、初対面の時と同じようにまた、カタリナを強く抱きしめた。


「カタリナさん。大丈夫。ケガしなかった。びっくり、したでしょう。でも、何も気になさらなくてもいいのよ」


「かあさん。また。そんなにキツく抱きしめたら、カタリナさんが苦しいでしょう」


「ほほほほ すいません。こんな美少女を抱きしめる機会は滅多にないでしょう。それに、優しい心に満ちたカタリナさんを抱きしめると心が落ち着くの。快感」


「あの――壊した壁は絶対に弁償します」


「いいのよ。いいの。1日あれば直せるから。それよりも、今、空間から水流が発現したわね。悟、今、水の型の練習をしていたの? 」


「そうだよ。水の型が一番覚えやすいから」


「なら、カタリナさん。ちょっと私の後についてきていただけるかしら」


 登与はもう無くなってしまった剣道場の一方の壁を踏み越え、どんどん外に出た。


 そして、最後は護世神社の山の上から海がよく見える場所にカタリナを導いた。



「カタリナさん。はるか下に見える入り江の海を見て。そして感じて。海の水達もたくさんの粒子として生きているの。最後に、あなた自身を同化させて」


 カタリナと登与は、眼下に広がる海面をじっと見た。


 そのうち、登与が調度よいタイミングを見つけたようだった

 

「さあ、七支刀を水の型で振ってみて」


「はい」


 カタリナは七支刀を美しいフォームで振った。

 見ているだけで美しい、水の流れのようだった。


 すると、


 急に海面の一部分に丸い筒状の穴が開いた。

 そして、その後で、海水が山と同じ高さまで、垂直に噴き出した。


「カタリナさん。あなたは、これで水の魔力を手に入れたわ。古来からの謎がとけた。七支剣は世界を構成する要素を使って戦う剣なんだわ」


「とすると、水以外の他の要素とは。火、風、土、光‥‥ 」


「後、きっと、緑、だわ。でもこれで6つ。後1つの要素は? まあ、いいじゃない。やがてわかる」


 そばに近づいて来ていた悟が言った。


「よかった。これで、効率的に剣術を覚えることができますね」


「剣術に必要不可欠な、早く力強く動き剣を振る修行と合わせて毎日練習しましょう」


「早く力強く動き剣を振る修行、ですか? 」


「もう、朝、カタリナさんは、やりましたよね」


「えっ?? 」


「海見神社がある山の頂上から、護世神社まで尾根づたいに歩いて来られたじゃないですか。強力な結界線が張られていて、人間がうまく動けないようになっています」


「そうなんですか、ですから普通に歩けば1時間もかからない距離を2時間もかかってしまったのですね」


「はい。結界の拘束力は、人間の筋肉に重い重い負荷をかけて動けなくするものです。ねえさんから説明はありませんでしたか? 」


「はい。ところで、悟さんも尾根づたの道を歩くのですね。いったい。どれくらいの時間がかかりますか」


「僕は、そうですね、15分くらいでしょうか」


「え――っ そんなに早く!! しかも、恒星の鎖をつけているのですよね」


「いえいえ。自分ではダメダメだと思っています。現世の最終守護者は、この間の暗黒騎士のように、異世界からの未知の敵と戦わなければなりませんから」


「そうですか。立派なお考えですね。さすがです。私も今日の帰りから、毎日、できる限り短縮できるようにがんばります」



 カタリナはそれから毎日、剣術の修行に精一杯取り組んだ。


 もともと彼女はこの世界の自然の中にある要素と相性が良く、火、土、風、緑の型まですぐに習得してしまった。


「カタリナさんさすがです。これで、5要素で戦うことができますね」


「はい。先生である悟さんの教え方が、とてもうまいからです。後は光、それと残りの未知の要素1つですが、よろしくお願いします」


「光の型は特別に難しいのです。僕も子供の頃、最後にようやく取得しました。ただ、闇の勢力と戦う武器としては最適です」


「はい。私の両親の命を奪った黒魔女ローザは、たぶん暗闇の魔法を使いました。彼女に勝つためには、白魔女として最強の武器、光が必要ですね」


「ところで考えました。光の型を学ぶためには、光を強く感じる場所が最適だと思います。明日、2人であの入り江の砂浜で修行しようと思います」


「あの海のそばに行けるのですか、うれしい~ 」


 悟は心の中で、こっそり、月夜見に話しかけていた。


(ねえさん。ありがとう。カタリナさんが暮らした異世界の国は山国で、海がなかったなんて良い情報を教えてくれました)


(あくまで、修行のためよ。砂浜なら光の反射が強いと思っただけだから。ただ、透き通るような色白のカタリナのために、紫外線対策だけはしっかりしてあげてね)



 次の日、カタリナが護世神社に着いた後、悟と一緒に山をくだり始めた。


 海見神社のような階段があるわけではなく、普通の道がふもとまで降りていた。


「悟さん。ずいぶん重そうな荷物ですね。すいません。今日の修行のために」


「いえいえ、見かけだおしです。中身は大変軽いですよ」


 最後に道は大きく曲がり、直線の先に入り江の海が見えた。


 今は春。

 夏が近い、素敵な季節だった。


「あ――っ なんて美しいのでしょう。あんなに光り輝いて」


「完全に海に出ると、一瞬、目を開けていられないほどまぶしくなります。御注意を」


 やがて、山から完全に降りて海に出た。


「すいません。カタリナさん。ちょっと待ってください」


 悟が背負っていたナップサックの中から、何かを取り出し始めた。


「悟さん。少し光が強そうなので、自分の肌を守りますね」

 すぐに彼女は魔法を詠唱した。


「緑のオーラよ。我を守れ」


 すると、彼女の体の回りを全て、薄い緑色のオーラがおおった。


「いわゆる紫外線対策です。月夜見が教えてくれました。――えっ、悟さん? 」


 取り出しを完了した多くの物を見ながら、彼が呆然ぼうぜんとしていた。


「直感で、何か聞いてはいけないような気がしますが。これらは何ですか? 」


「サンオイルやサングラスというものです‥‥ 」



 それから2人は並んで、入り江の海岸沿いの道を歩き始めた。


 途中、砂浜の中でワイワイいいながら、何かの準備をしている若者の集団がいた。


「いいんだよ。キャベツなんか、適当に切っときゃ」

「牛肉と豚肉の比率、どのくらいなんだ」

「女子のみなさんは何もしなくても大丈夫です」


「悟さん。あのみなさん。とても楽しそうですね」


「たぶん、これからバーベキューといい、みんなで料理をして、みんなで食べるのですよ」


 悟はそう言いながら集団を見た。


 そして、ほんの短く、驚きの声を上げた。


「あっ!!!! 」




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