第3話 巫女は聖女に修業を進めた
「どうでしょうか。お口に合えば良いのですが。たぶん、この世界では洋食と呼ばれている食べ物の方がよかったのかもしれません」
「いえいえおいしいです。申し訳ありません。いきなり現れた私に寝る場所と、そしてこのような食事を用意していただいて、どんだけ感謝しても足りません」
「カタリナ様。あなたが、私の神社の神木の前に転移されたのには何か大切な意味が。たぶん、私が使える神があなたを助けろと指示しているのだと思います」
「縁もゆかりも無い私のために―― 」
「いえ、絶対に縁もゆかりもあるのです。現にこうして、私はカタリナ様と食事をしていることが楽しくてたまりません。まだお会いして間もないのですが」
「確かに、私も月夜見様とこうしておしゃべりしていることが楽しいのです」
「霊力、失礼しました。カタリナ様の世界では魔力ですね。私も同じでした。生まれつき潜在的魔力量が高かったのですが、うまく使えませんでした」
「えっ!! そうなんですか!! 」
「そこまではカタリナ様と同じですが。でも大きく違う点もあります。お父様やお母様を殺害されるような悲劇は味わっていません。どれほどおつらかったか‥‥ 」
霊力が高い彼女は、既にカタリナの心と完全に同化し、全てを知っていた。
月夜見の目から涙が流れ、右手でそれをぬぐった。
「ありがとうごさいます。私のために涙を流していただけるなんて」
月夜見はすぐに、涙をぬぐったばかりの顔を上げた。
彼女の顔は強い決意に満ちていた。
「カタリナ様。この神社に伝わる巫女修業を受けて見ませんですか? 」
「巫女修行ですか」
「はい。潜在的に備わっている霊力~魔力と言った方がわかりやすいかもしれません。その魔力を完全に制御して、あなたの力として行使できるようにするのです」
「でも私は、他人の命を奪うことができる魔力を使うことが恐いのです」
「よくわかります。もしカタリナ様が怒りに任せて御自身の力を行使されれば、広大な範囲の全ての命を奪い、廃墟としてしまいます」
「自分のことですから、よく自覚しています。私はそれが恐いのです」
「ですから、カタリナ様は、御自分の魔力をしっかり制御して行使することを訓練する必要があります。私も昔、自分の霊力を制御するために修業しました」
「でも、うまくいくかどうか―― 」
「カタリナ様。あなたが今、大変おつらいのはよくわかります。でも、がんばらなくては。あなたなら、絶対やりとげることができます」
「できるでしょうか」
「大丈夫です。絶対に、私が完全にサポートします。やりましょう。いや絶対にやらなければなりません。悲惨な運命に打ち勝つのです」
「‥‥わかりました。がんばります」
「それから、私から提案があります」
「どのようなことでしょうか? 」
「お互いに、『様付け』で呼び合うのは止めませんか。姉妹のようになりたいのです。これまでのつらい記憶を私も一緒に背負っていきたいのです――カタリナ」
「そこまで私のことを考えていただいて、うれしいです――月夜見」
「ふふふふ」
「はははは」
2人の若い娘の心から愉快な笑い声が響いた。
次の日、神社の社殿の前にカタリナは呼び出された。
早朝から
「カタリナ。今日は特殊な修業から始めましょう。私の後ろについて来てください」
月夜見は神社の階段を降り始めた。
カタリナもその後ろに従った。
「この階段は333段あります。その内、今日は10段降ります」
10段降りたその場所からは、道が続いていた。
その道を歩いて行くと、いきなり風が強い場所が開けていた。
海に向けて真っ直ぐに切り立った断崖だった。
「月夜見。この場所でどのような修業をするのですか? 」
「あれを見てください」
月夜見が指さした先には、多くの鳥が飛んでいた。
「ウミツバメです。ここで、これが出来なければなりません」
そう言うと、月夜見は少し崖側に歩いて近づいた。
彼女は、じっとウミツバメの群れを見た。
そして、それと合わせて海面をちらっと見た。
「今よ」
月夜見はささやいた。
すると、うみつばめの群れがまるで操られたように、海面に向かって、一匹残らず急降下した。
そして再び急上昇したうみつばめは全て、くちばしに小魚をくわえていた。
「これで、餓死する
「月夜見。あなたは今何を?? 」
「海の中を探査して、小魚の群れがちょうど良い場所に来たとき、うみつばめの群れにそのことを伝えたのです。『今がチャンス』という思念を強く伝えました」
「それを魔力で実行したのですね」
「はい。この場所から、海の中や空を飛んでいるうみつばめまでは、かなりの距離があります。ただ、魔力を使えば、あのようなことが可能なのです」
「できるでしょうか」
「やって見ましょう。自分自身を信じて、自分が必ずやり遂げることを固く信じなければ可能にできません。あなたの強大な潜在魔力のほんのわずかを使う修業です」
その後、月夜見は心の中で思っていた。
(ほんのわずかな魔力を発現させるのですが、実はそれが最も大変なのです。がんばって‥‥ )
「では、私はこれで社殿に戻ります」
月夜見はさっさと行こうとした。
「あの―― カタリナ、何かアドバイスをくださいませんか」
「そうですね。それでは、お伝えしますね。あなたの潜在魔力は、私のアドバイスなんて全くいらないほど強大なのです。ですからアドバイスは入りませんね」
それから、月夜見は言霊を唱え始めた。
「かしこみ、かしこみ。ヤタガラス、これへ」
2羽のカラスがそばに飛んできた。
月夜見の使い魔だった。
「お嬢様。参上つかまつりました」
「御苦労です。今から私ではなく、カタリナのそばにいて彼女を補佐してください」
「カタリナ様は今から何を?? 」
「魔力習練です。魔力探査を海に向かって行い。魔力思念をウミツバメに送ります。群れに十分な餌を捕獲させるのです」
「それはありがたや。我が鳥族の親戚のためにがんばっていただけるのですね。カタリナ様、がんばってください。我らもお手伝いします」
「手伝わなくても良いのですよ。彼女は自分1人で必ずやり遂げるはずです」
「わかりました。御意のままに」
その後、月夜見はカタリナを残して階段を上がって行った。
残されたカタリナは真剣な目つきで、海面とウミツバメの群れを見つめだした。
(お父様、お母様。私は必ず自分の魔力を発現させます。そして―― )
‥‥‥‥‥‥
カタリナが転移した日本、海見神社から無限の次元・時間を超えた異世界だった。
それは、カタリナが本来いるべき異世界。
ロメル帝国の王都、王宮の妃の間に黒魔女ローザがいた。
彼女は妃の間のベランダに立ち、夜空を探索していた。
「月が美しい。しかし、あなたの方がもっと美しいわ。美しいカタリナ!! どこに転移したの、あなたがいなくなり私の胸は張り裂けそうよ」
ローザはそう言うと、さらに探索を続けた。
すると、無気味に笑いだした。
「見――っけた そんな辺境の異世界の未来に転移したのね。私のカタリナ。もう、あの醜悪な皇帝のマクミランの妃は苦痛の極地。あなたに会い、殺せたら快感だわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます