第2話 聖女は巫女と出会った
とてもとても寒い、冬の新月の夜だった。
夜空は暗闇に支配され、星々だけが輝いていた。
海沿いの入り江、小高い山の上で、巫女は1人立って夜空を見上げていた。
小高い山の頂上にある海見神社の巫女だった。
長く美しい黒髪、どこまでも見通すことのできそうな、はっきりした大きな茶色の目が印象的だった。
彼女は単なる巫女ではなく、神主の役割を果たしていた。
名前は
とても高い霊力をもつ巫女で、1,000年以上の歴史をもつ海見神社を代々守ってきた一族の
「美しい夜空ですね。それに、月も最高にきれいに輝いています――えっ?? 」
「今晩で暦からすると新月じゃない。それじゃ、なんで満月が輝いているの?? 」
彼女はさらに異常なことに気が付いた。
神社の社殿の裏側から光が輝いていた。
「あれ、懐中電灯でも置き忘れたのかしら?? ‥‥ちょっと待って‥‥ 何か強い霊力を感じるわ。これは強い。神と同等くらい」
彼女にはその霊力を感じることができた。
確かに強い力だったが、同時に優しく。そして大きな悲しみが感じられた。
社殿の裏側に早歩きで近づいた。
すると、予期せぬ場景が目に飛び込んできた。
社殿の裏にある神木の下に誰かが倒れていた。
その周りを不思議な光が包んでいた。
「大丈夫!! どうしたの!! こんな場所で倒れているなんて!! 」
彼女は急いでその誰かに駆け寄り、抱き起した。
すると、顔が見えた。
美しかった。
夜の深い闇のように美しい黒髪。
女性である
「外人さんかしら?? 」
その美しい女性が目を覚ました。
月のように輝く大きな灰色の瞳が見えた。
ただ、大きな灰色の瞳にはあふれそうな涙がたまっていた。
焦点がおぼつかないその瞳が、
月夜見は彼女に接触した瞬間、その女性の悲しみを理解した。
そして心の底から微笑んで、美しい女性に優しく言った。
「大変だったわね。もう大丈夫よ、私があなたを完全に守るから。でも今は眠りなさいなさいな。暖かい布団を用意しますね」
その言葉に美しい女性は何も反応しなかったが、月夜見は全く気にしなかった。
「かしこみ、かしこみ。ヤタガラス、これへ」
月夜見が言霊を唱えると、2羽のカラスがそばに飛んできた。
彼女の使い魔だった。
すぐに、2羽のカラスは大天狗の姿になった。
「お願いします。社殿の中にお布団を敷いて、この方を寝かしてあげてください」
「了解つかまつりました。しかしお嬢様、一つ問題があります」
「なんでしょうか」
「この方はこの場所に転移されてから、夜露のために体がだいぶ濡れていらっしゃいます。お着換えが必要なのでは?? 」
「問題ありませんよ。何か私の寝巻を出して着替えさせてください」
「いやいや。このような神々しい美しい女性の裸を我々は見ることができません」
「ふふふふ そうね、この方は美し過ぎるわ。わかりました。私もついて行き、私が着替えさせます」
カタリナは深い暗闇の中にいた。
自分を急に襲った不運が、信じられなかった。
ロメル帝国の王宮、謁見の間での悲劇の光景が何回も何回も映された。
(お父様、お母様。申し訳ありまん。私のせいで、このような!! 皇帝陛下!! なんでこのようなことをなさるのですか!! 黒魔女ローザ、止めて!! )
深い暗闇の中で、彼女はかなり追い詰められていた。
しかし、誰かが彼女の手を優しく握っていた。
それは強く、思いやりにあふれ、彼女に悲劇に戦う力を与えていた。
カタリナは目を覚ました。
「おはよう。よく寝ましたね。美しい方、あなたはもう10日間も眠り続けていたのよ。私の神社の一番の宝物をお見せするわ。寒いから布団の中にいてください」
カタリナにとって、初めての体験だった。
彼女は見たことのない部屋の中にいた。
石ではなく木で作られた部屋、良いにおいがする物が全ての床の上にあった。
彼女に話していた女性が、木と紙で作られた不思議な戸を横に開いた。
すると‥‥
目の前に信じられないような光景が広がった。
山の頂上から海が見えた。
はるか向こうまで海が見えた。
太陽は既に海のかなり上で光を照らし、それを海の波が反射してとてきれいだった。美しく優しい光の反射が彼女の心の傷をいやした。
「まあ!! 」
「よかった。あなたのような美しい方が暮らしていた世界も美しいものばかりで、この景色が勝てるのかとても心配でした」
「‥‥‥‥心から感謝申し上げます。私をこのように暖かい場所で寝かしていただきまして。私は」
「カタリナ様ですね」
「えっ?? どうしてご存じなのですか?? 」
「ごめんなさい。私は高い霊力をもつ巫女なのです」
「巫女?? ですか?? 」
「あっ ごめんなさい。カタリナ様は外国から来られたのですね。いや、外国どころか別の次元にある異世界から転移されたのですね」
「そうなのでしょうか」
「たぶんそうです。私はあなたが生まれて異世界では、白魔女と呼ばれている存在と同じなのです。そう、あなたと同じです」
「同じと呼んでいただけるのでしたら幸せです。私は白魔女の一族、しかも聖女という特別な役割になる宿命があったのですが」
「はい。知っています。カタリナ様は、魔力を発現できなかったのですね。潜在力はとても高い、神並みの魔力をお持ちなのに外には」
月夜見はそこで、あわてて話すことを止めた。
カタリナの大きな灰色の瞳から、涙がこぼれ落ちそうになっことに気が付いたからだった。
「申し訳ありません。私は全ての真実に光を照らすことができる月の巫女なのです。お気持ちのことを考えず‥‥ 」
「なぜかわかりません。私は自分の中にある魔力を自由に使うことができません。そのおかげで、お父様とお母様が命を落としてしまいました」
「カタリナ様のせいではありませんよ。自分の魔力を強く抑えてしまうほど、カタリナ様の性格は優しく、いつも他人を思いやることができるのです」
そう言うと、月夜見はカタリナの手を強く握った。
「強い魔力よりも、カタリナ様のその性格の方がとても大切なのです」
月夜見はカタリナを暖かく励ました。
いつの間にか、カタリナな泣き顔になっていた。
月夜見はふところからハンカチを出してカタリナの顔を優しくふいた。
「カタリナ様。何かお食べになりますか。少しでも食べれば元気がでますよ」
「そういえば、ほんの少しですけど空腹に気が付きました。いきなり飛び込んできた私が心苦しいのですが、いただくことはできるでしょうか」
「はい。もちらん喜んで。私、料理はとてもうまいのですよ。いつも、この神社の中で一人暮らしでしたので、是非是非、披露する場がほしいと思っていました」
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