過酷な巫女修行で強くなった聖女、婚約破棄しひどいことをされた国王にきっちりリベンジしようと思いましたが、止めました!!
ゆきちゃん
第1章 悲しい運命に抗う
第1話 聖女は婚約破棄され父母を殺された
ロメル帝国の王宮、謁見の間の大広間に、皇帝の命令で多くの家臣達とその家族が呼び集められた。
この少し前に、人間界最大の帝国は魔族の大侵攻を受けた。
多くの犠牲を払う必要があったが、帝国は魔族をやっとの思いで撃退した。
今日はそのことについて、皇帝から、家臣やその家族たちに暖かいねぎらいの言葉があるものだと誰もが信じていた。
やがて、皇帝マクミランがみんなの前に姿を
皇帝に注目した家臣達は、いつもとは異なる異常な様子を見た。
皇帝のすぐ後ろに、家臣達が見知らぬ若い女性が従っていた。
妖艶に目立つ美しい女性が、若い皇帝にピタリと寄り添い、いかにも特別な地位にあることを
さらに、その若い女性は不思議な容貌をしていた。
その顔は、ベールで全て隠されていたが、見えている部分だけで美人だった。
ただ、美しさは誰もが感じたが、なぜか人間離れした感じがあった。
さらに問題は、その若い女性があたかも皇帝の
「あの若い娘は誰だ。貴族の子女の中で、あのような娘はいないぞ」
「異国の娘か。いや、あのような感じはまさか―― 」
大広間の中は、だんだん、ざわつき始めた。
「みな! 静まれ!! 」
皇帝の雷のように強く、良くとおる声が大広間に響いた。
「本日、皆に我が広大な帝国領内の津々浦々から、はるばる集まってもらったのは、重要な話があるからだ」
そう言うと、皇帝は玉座から立ち上がった。
そして、後ろに控えていた美貌の女性の手をとり2人で前に出た。
「我は、このたび結婚することに決めた。相手はこの娘、ローザだ」
一瞬にして、大広間の中の空気は凍り付いた。
やがて、ざわつく人々の視線は一定の方向に集まっていた。
そこにいたのは、ある貴族とその家族だった。
この帝国最高の地位にあるマルク侯爵、そしてその妻と娘だった。
マルク侯爵は今度の魔族の戦いで総司令官を務めた。
自分の使命を実直に果たす侯爵は、懸命に働いて魔族を撃退した。
しかし、戦いの中で大けがを負っていた。
妻の名前はグネビア、娘の名前はカタリナだった。
娘は、皇帝マクミランの婚約者だった。
大広間の中の異常な沈黙を少しも気にせず、皇帝はさらに続けた。
「そうそう、順序が逆だったな。先にこちらの方を宣言しなければならなかった」
そう言った皇帝は、強い視線をカタリナの方向に向けた。
「当然のことながら、マルク侯爵家の令嬢、カタリナとの婚約は破棄する!! 」
「お――――っ 」
数百人いた多くの人々の驚きの声は一致した。
誰もが「あり得ない話だと思った」
彼らの視線の先には、とても美しい若い娘が立っていた。
夜の深い闇のように美しい黒髪に、月のように輝く灰色の瞳。
代々、マルク侯爵家に生まれた娘は、最強の魔力を引き継ぎ、聖女となり国を守る運命を背負っていた。
生まれてすぐ、魔法が使えるようになる娘が大部分だった。
ところが、カタリナの場合は18歳になる現在まで、なかなか最強の魔力が発現しなかった。
宮廷魔術師が鑑定したところ、次の2つのことがわかった。
「大変控え目な、優しい。目立つことが大嫌いな性格が魔力の発現を抑えていること」それに、
「潜在的にもっている魔力が異次元に大きく、発現には時間がかかる」ことだった。
今回の魔族の侵攻を、聖女として魔力を行使して戦うことができなかった。
しかし、彼女の父親のマルク侯爵は戦いに勝利した最大の功労者だった。
侯爵は国王の前に進み出た。
魔族との闘いで重傷を負った伯爵は非常に苦しそうだった。
しかし、彼は娘の名誉を守ろと必死だった。
「皇帝陛下。陛下のお言葉ながら、臣、マルクの抗議をお許しください。我が娘カタリナとの婚約を破棄なされたことに、臣は強く抗議致します」
皇帝はとても不機嫌な声で言った。
「まあ。一応聞いておこう。しかし、その抗議は受け付けることができない。そもそも、魔力が発現していない聖女にどんな価値があるのだ」
「陛下、我が娘の資質で一番すばらしいのは、他人を思いやる優しさです。控え目すぎるほど控え目で、常に自分のことを、いつも2の次にしてしまいます」
「それに、どのような価値があるのだ」
「他人を思いやることができることほどすばらしい資質はございません。
「伯爵よ。幼いことからお前の言うことは全て正しくて否定できなかった。しかし今は違う。もう一度言うぞ、魔力が発現していない聖女にどんな価値があるのだ」
皇帝はさらに激怒して言った。
「ローザよ。やむを得ないな。お前の力を見せてやれ。伯爵を黙らせろ」
皇帝の命令を受けて、ローザと言われた若い女は顔にかけたベールを上げた。
すると、人間離れした妖艶な美貌が現れた。
赤い瞳、その瞳が不自然な光を放った。
「うっ」
不思議な光が伯爵に向けて放射されると、伯爵はうめき声を上げた。
伯爵の胸には魔法の矢が何本も突き刺さっていた。
「お父様!! 」
カタリナが驚いた声を上げた。
伯爵は胸を押さえて倒れた。
「カタリナさん。あなたが白い魔女の一族であることはもう知っていますよ。そうならば、魔力を示しなさい。聖女になるのでしょ。お父様を助けなさい」
「あなたは!! 黒い魔女ですか!! 止めてください!! 皇帝陛下!! 元婚約者の心の底からのお願いです。ローザさんに魔法を解くように!! 」
「はははは!! このごに及んでおまえの魔力は発現しないんだな。ローザよ、丁度よい。帝国最高の将軍で行政官であろうとも、我にとっては小うるさいおじさんだ」
そう言うと、皇帝の顔は極めて残忍な顔になった。
「殺せ―― 」
伯爵のうめき声は止まり、彼は息絶えた。
「きゃ―――― 」
カタリナは悲鳴を上げた。
「それからローザよ。小うるさいじいさんの娘も殺してしまえ。確か名前は」
「皇帝陛下。忘れたら失礼ですよ。あなたの元婚約者、マルク伯爵令嬢カタリナさんです。それでは、御意のままに」
ローザの赤い瞳が輝き、カタリナに向けて魔法の矢が放たれた。
ところが、その矢が彼女に刺さろとするルートを、誰かの体がさえぎった。
「お母様!!!! 」
マルク伯爵の妻グネビアだった。
魔法の矢は実態化して母親の胸から多くの血が流れた。
「ごめんなさいね。あなたの魔力を発現させられなかったわ。でもね、お父様と私はあなたを心の底から愛し、重荷を背負う聖女にはさせたくなかったの‥‥ 」
「お母様。私のために、こんなことに」
母は最後の力を振りしぼって、彼女に微笑んだ。
「いいのよ‥‥ お父様と一緒に、いつも見守っているわ‥‥ 」
カタリナは父と母の顔を両手で強く抱きしめた。
この様子を見て、数百人いた家臣たちは、不運な親子に深く同情した。
しかし、皇帝は極めて残忍だった。
「ローザよ。もう2度と失敗は許さない。殺せ」
ところが‥‥
「わ――――っ 」
カタリナの灰色の瞳が強く輝いた。
そして、月の光のような光は急激に強くなり、大広間の中を埋め尽くした。
誰も目を開けてられなくなった。
‥‥‥‥‥‥
カタリナは思った。
(こんなに!! こんなにひどいことが私に起きるなんて‥‥ )
そして彼女は意識を失った。
‥‥‥‥‥‥
光りは消えたようだった。
大広間にいた多くの人々はおそるおそる目を開けた。
たくさんの人々が心の底から同情して、彼女の方を見た。
すると、今までそこにいたカタリナの姿は消えていた。
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