第23話
女性の容姿は、同じ女性からみても綺麗だと思った。
長い黒髪に、切れ長の瞳。
紺色のロングスカートに、白のタートルネックを着た女性が、美月の方をみて和かに微笑む。
「うちの学校の生徒だよ」
義隆の紹介に、美月は小さくうなづく。
美月よりも頭一つ分高い身長に、銀色の細い縁のメガネをかけた知的な印象の女性は、明らかに美月よりも年上。
同性からは憧れの視線を集め、異性からは高嶺の花と呼ばれる。
そんな女性を前にして、美月の心はさらに動揺した。
「
問いかけに美月の反応は遅れる。
「あ、あの…山下…美月っていいます」
たどたどしい返し。
「ごめんなさい…急に話しかけてしまって」
朱音さんは、自らが突然話かけたことによって動揺させてしまったと思ったのか、申し訳なさそうにしている。
「いえ…そんな」
美月の動揺はそんなことではない。
「朱音さんはおっかないからな」
茶化す様に笑う義隆の声がどこか遠く。
「あら?そのおっかない朱音さんにそんな口をきいていいのかな」
すこし凄みのある朱音さんの声に、義隆は肩を竦めた。
二人のやりとりは意識の彼方。
美月の思考は、自身の中へと深く堕ちていった。
朱音さんをどこかでみたことがあると思ったからだ。
(あぁ、この人)
この人とは現実に会ったわけではない。
(おっちゃんの、絵にいた人…?)
あの日、学校でみた義隆の絵にいた女性は、銀髪だった。
だけど、あの綺麗と思った女性は、目の前に立つ朱音さんに似ている気がする。
無意識に俯いてしまう。
髪の色を変えて着物を着せ、桜の前に立たせれば、あの絵の構図とモデルがそのまま再現される。
あの絵にはモデルがいないと言っていたのに。
美月の持つキャンパスノートに一粒の雨が落ちてくる。
広がる水滴をすぐに袖で拭ったが、一瞬のうちに染み込み、綺麗な絵を汚してしまった。
慌ててキャンパスノートを閉じると、義隆が折り畳み傘を差し出していた。
「使っていいぞ。見た感じ傘も何も持っていなさそうだし、僕はすぐそこに
半ば強引にキャンパスノートと折り畳み傘とを交換すると、義隆は雨に追いつかれない様に、歩き始めた。
「ちょっと待ちなさいよ」
朱音さんがその背を追う。
「またね、美月ちゃん」
去り際に小さく手を振る朱音さんに、美月は固まった右手をあげるだけ。
受け取った傘を美月は広げず、少しの間だけ、走り去っていく義隆たちの背中を見送っていた。
その後。
完全に流花との約束を忘れてしまった美月が、雨が降る公園のベンチで座っていると、流花からの『もうすぐ着くよ(ハート)』のメッセージに戦慄したのは、また別の話。
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