復讐
ボウガ
第1話
Aは復讐に燃えていた。Bの弁護士事務所に乗り込み、包丁をてにして、そして決意するように叫んだ。
『お前をぶっ殺す!!』
事の始まりは10年前だ。仲のいい兄弟AとC、そして兄のCさんの友人でBさんがいた。三人はいつも裏山や、その向こうの寂れた街の廃墟で遊んでいた。昔は栄えた地方だったが、人口減少によって寂れた地域だ。子供の数も多くなく、余計に彼らの絆は深かった。
ある時だった。CさんとBさんは、いつも競争をしていた。学校の成績、給食を食べる速さ、どっちが先に家に帰るか。近頃負け越していたBさんは、ある事をもちかけた。
「チキンレースをしよう」
それというのは、廃墟のビルの上にのって、全速力ではしり、手すりに一番近い方がかちという遊びだ。廃墟とはいえ、一番安全に見えるビルでおこなっていった。
その日も、CさんとBさんはごく普通にレースをしたのだが、Aは、レースが終わって帰ろうとするときに、先に帰宅しようと階段をおりているところに、言い争いの声を聴いた。
B「いまのは俺の勝ちだろ!!」
C「俺だ!!」
どうやら、勝敗についてこまかな言い合いが起きているようだ。Aは、勝敗などどうでもよかったし、何よりBさんのことが実の兄より好きだったために、Bさんの味方をした。その次の瞬間だ。廃墟の下の段から音がしたのは、それも、男の唸り声のようだった。驚いたAは叫んだ。
「逃げろ!!」
その叫びに応じて、Bがあわてた、そしてそのBととっくみあっていたCが、Bに押される形で、地面に落下して……その後の事は、Aの記憶の中では封印されていた。ただ一つの真実は、二人のせいでCが死んだという事だった。
Aが覚えているのはCの言葉が、最後、Bに対して語り掛けた。
「Aを頼んだ」
という言葉だったという事だけだ。
それから、二人はぎくしゃくしながらも、亡くなったCのために必死に生きていた。しかし、Aは医者を目指すも、挫折し、医療関係の機器を売る会社に入った。Bは“廃墟にいた浮浪者らしき男”を追求するために、弁護士になった。本当は検事になろうかと考えたが、犯人の思考を考え、同類の事件を整理することで、あの事件を“消化”しようとしたのだという。
社会人になった二人は時折あった。
だが、Aはこういう
「復讐、犯人を見つけたら、殺さないと、それでしか、Cに対する供養にならん」
それに対しBは
「本当の復讐は、心にあるわだかまりを、怒りを消すことだ、そして、恨む相手に怒りをぶつけるのではなく、同じ失敗をせず、幸福になることだよ」
といって聞かせた。
そうして今、“復讐相手”をみつけたAが、Bの弁護士事務所にやってきた。
「お前が犯人だ!!そうだろう!!俺は思い出した、そして証言した人間がいる!!ノートを、ノートをみたぞ、あいつは精神科医だ、よくも共謀して、俺をだましたな、お前が殺人犯だ!!“廃墟の男”などいなかった、あれは、精神科医が、ショックを受けた俺に暗示をかけたんだ!!!」
「落ち着け、別に俺を殺しても構わない、だが俺にも証言をさせてくれ」
Bさんは、震える手で汗をふきながら、USBメモリーを取り出した。
『これに見覚えはないか?』
そこには
『A君の供述と、暗示に関する内容』
と書かれていた。Aさんはあまり覚えがなかったが、それを見ると、頭が痛くなった。
AはBさんを後ろでに縄でしばり、動けないようにして、二人でモニターをみた。そこには衝撃の映像が映っていた。白い部屋、白衣を着た男と、Aが向かい合っている映像。
「C、C!!あにきぃ!!!なんでだ、俺はただ、二人が羨ましかっただけなのに、いたずらで背中を押しただけじゃないか、まさか、落ちるなんて思わなかったんだ!!手すりが、手すりがあったんだから」
そして、頭をかかえるAに、精神科医が肩をなでて優しく言葉をかける。
「君のせいじゃない、あれは事故だったんだ」
その時、Aは思い出したのだった。
10年前のあの日、Aは自分がCさんを突き落とした事が受け入れられず錯乱を起こし、精神に異常をきたした。その時の治療の映像がこれだった。未成年の起こした事件ということで、悪質性もなく刑罰にも問われず、何の罰もなかった、そこで両親の意向で治療が行われた。
しかし、なかなか思うように治療が進まず、精神科医は“暗示”で一時的に記憶を封印する方法をためそうとした。いわく
「時がたてば、今よりは改善しているでしょう、思い出したその時にまた治療を再開しましょう」
そしてとられた方法が“別の筋書き”をたてること、すなわち、Bさんをこの過ちの犯人に仕立て上げる事だったのだ。Bさんは、臨んで名乗り出たのだ。Cさんの最後の言葉
「Aを頼んだ」
という言葉の通りに。
Aは記憶を整理して、Bにいった。
「っていうことは……俺が、俺自身が犯人だったのか?」
「ああ、そうだ、死刑にも、復讐することもできない、だがそれでいいじゃないか、まだやり直せる」
Aの頭に記憶がよみがえる。たしかにそうだ。あの日、あのビルで帰ろうとしていた自分をほおっておいて二人は屋上で仲良く話していた。その姿が、なぜかうらやましくて、おどかしてやろうと静かにたちより、Cを脅かした。その時、やっと気づいた。このビルの屋上の手すりに、壊れた個所があったことに。それまで、小さかったAは屋上すら怖くて、一度もその屋上の奥まで進んだことがなかったのだ。その時はじめてたどり着いた屋上でCを驚かせ、その結果Cは落下し、死んだ。
Aは、その場で崩れおちた。Bさんの犯行の裏付けをとるために、精神科医を脅し、殺してきたあとだったのだ。
復讐 ボウガ @yumieimaru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
近況ノート
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます