第27話 第2ラウンド

 




 そんな。ソードさんが殺された?あいつらはソードさんの生捕りが最優先事項なんじゃないの?首ってことは、もう死んでる?それとも、まだ助けに行けるだけの時間はある?



 言われたことが理解できず、頭の中がぐちゃぐちゃになってうまく働かない。

 負の感情の底なし沼に足を取られたらもう抜け出せない。

 必死にもがいても出ようとしても縋れるものが何もない。


 ソードさんのイヤカフからジガイの声でソードさんの死を知らされる。

 そんなのもうどう考えたって……。



 シークスさんはもう戦わせないほうがいい。

 これ以上戦ってしまえば、ソードさんだけでなくシークスさんまでも失うことになる。それだけは

避けるべきだ。それならソードさんのことは……。



 けれど、ソードさんが死んだというのはジガイの虚言かもしれない。

 助けに行けばまだ間に合って、シークスさんに戦ってもらう間にわたしがソードさんをなんとかして……。

 でもそしたら、シークスさんはきっと死んでしまう。

 だけどもしソードさんが生きているなら……。



 頭の中を答えのでない問題がぐるぐると回り続ける。

 どうするのが一番いいの……。判断ができない……。




 ガシャンッーーーーーーーーーーー!!!!




 イヤカフ越しにガラスの割れる音が響く。

 何事かと混乱していると、私が聞きたかった声が聞こえてきた。






                  ◉






 頭は働く。これが死んだ後の世界か。意外と現世と違いはないんだな。

 意識も記憶もある。感覚もあるから耳に誰かが触れているのさえ分かる。あっ、何か盗られたな。

 心なしかさっきまで戦っていたジガイの声が聞こえる。

 てか、あれ?これ俺生きてない?




「いいか、考えずともわかるだろうがお前たちは完全に詰んでる。黒猫に対しよく頑張った。その検討を讃え次期に、この首を届けよう。」




 ジガイが俺のイヤカフで勝手に連絡している。

 俺はそのまま息を殺しながらジガイの背後に氷塊を生成する。





「適当こくな!」




 そしてそのままジガイのあたまを氷でぶん殴った。


 思いきり殴りすぎたためかジガイのあたまが固すぎたせいか、氷塊はガシャンッと大きく音を立てて粉々に砕けてしまった。

 頭を殴られて朦朧としているジガイからイヤカフを取り返し、すぐにツキヤに連絡をする。




「ツキヤ!俺は生きてる、この通り無事だ。戦闘の中でポータルが壊れた。今から行くにはジガイを倒さなければならない。先にいけ。すぐに追いかける。」



「俺を倒すだと?ふざけおって。いつからこんな卑怯な手を覚えたのか知らんが今すぐ退場させてやる。」




 さすが回復が早い。

 朦朧としていたのは束の間、すぐに蹴りが俺に向かってきた。

 急いで受けたがその衝撃で持っていたイヤカフが飛んでいってしまう。


 俺はすぐさま距離を取り、戦闘にに備える。





「さぁ、第二ラウンドスタートだ。」






                   ◉






 今の声は確かにソードさんだった。向こうで何があったのか知らないけれど、無事ならよかった。


 カースとの戦闘でシークスさんは瀕死状態、私はもともと戦闘向きじゃない。

 あちらに言っても足手纏いになるだけ。ここはソードさんの指示に従ってさきに行くのが一番いいかな。




「シークスさん、今からこの門を潜ります。ソードさんの言葉を信じて向こうで待ちましょう。」



「……本当に行く気か?」



「どういうことです?」



「あいつは確かに先に行けと言った。だがそれは奴の意思であり、吾輩たちの意思ではない。そして吾輩は今すぐにでも助けに行くべきではないか、と思っている。」



「何を言っているんですか。あなたは瀕死、私もジガイとまともにやりあえるほどの腕など持ち合わせていません。そんな状況でどう助けるつもりですか?」



「だが、考えてもみよ。吾輩はカースと戦い、勝った。でもそれは卑怯な手を使えた、ようは油断されていたからこそだ。おそらくまともにやりあえば吾輩はここにはいなかっただろう。吾輩が言いたいのは、つまりソードだけでジガイには勝てぬと言うことだ。ジガイより圧倒的に弱いカースに我は油断されていたおかげでギリギリ勝てた。我と同格か少し上程度のソードがジガイに勝てるわけがなかろう。お前もあやつもそのようなこと分かっているのではないか?」



「そうですが、もし、もし私たちが行ったとしてなにもできません……。足手纏いになるだけです。行ってすぐ全滅なんて可能性も。」





 悔しいけれど今の私がソードさんのためにできることは何もない。

 それならせめて私たちだけでも先に行ってソードさんに安心してもらうしか……。




「不思議だな。お前のように賢い奴ならもうすでに気づいていると思ったが。相当焦っておったか。」



「どういうことですか?」



「別に戦いに参戦する必要などなかろう。他にやりようはある。吾輩と、ツキヤ、それぞれ得意な事でソードを助けるんだ。」



「得意なこと。」




 私の得意な事。

 機械のこと、それかちょっとした戦略を練ること。

 でもこれらじゃ彼を助けることはできない。

 私にできること。私にしかできないこと。



 もし、この場でからソードさんを助けられるとしたら、それは呪術だろう。



 やったことはない。自覚したこともない。

 けれど、もしかしたら、私の中には呪力か魔力かが眠っているはずだ。

 そして私はそれを扱える可能性がある。


 でも魔法、魔力は感知されやすい。

 獣国は魔力が充満しているため、獣人は魔力に関してだけいえば感知するのが得意だ。

 だから、ジガイに気づかれないようにするなら呪力のほうがいい。


 門の前に来るために使ったポータルを見る。

 ここへ来るためにエネルギーを使い切ったから今はどこに移動することもできない。

 けれど、この転移ポータルは店長さんからいただいたもの。

 だから人国で生産されたもののはずだ。

 人国で生産されるものに使用される精神力エネルギーは十中八九呪力。

 このポータルに私が呪力を込めてまた使えるようにすれば彼をここに連れてくることができる。




「シークスさん。私は今から少し挑戦してみようと思います。今からこのポータルを復活させます。もし、成功したら彼を迎えにいきましょう。」




 この前読んだ見聞を思い出し、呪力を流してみる。

 体の隅々に行き渡る血液を意識し、その流れとともに体に負の感情を流すイメージで。


 呪力というエネルギーは負の感情が時間の経過によって、感情の強さによって練り上げられたもの。

 大した年数は生きていないけれど、そこら辺の人間より負の感情はあると思う。

 だから呪力は十分だ。


 昔のことを思い返してみると、ずっとしまっていた記憶と一緒にどろどろとした気持ちが溢れてくる。

 それは黒いエネルギーとなって体の中を駆け巡り、最後には指先からポータルに流れ込んだ。


 ポータルの移動に人数制限はない。あるエネルギーの分だけ転送することができる。

 ポータルの仕組みを想像し、呪力を溜め込むためのタンクとそこにつながる管を手探りで見つけ出す。

 そしてそこにある程度呪力を流し込むと、一瞬ポータルが発光してから青く点滅を始めた。 




「できたっ・・・。」




 ポータルが作動し始めたのをシークスさんは口をあんぐりと開けながら見ている。

 少し待ったら青く点滅していたガラス板は赤色に変わった。

 ここまできたらその見た目は行きに私達が見たものとなんら変わりない。


 今まで味わったことのない疲労感が体に押し寄せてきた。

 正直このまま倒れてしまいたいけれど、まだ気は抜けない。

 すぐにソードさんのもとへいかなくては。

 頼りないかもしれないけれど、すこしでも力になれるように。

 明日も3人揃って笑いあえるように。




「シークスさん、できました。これを一緒に届けにいきましょう。」




 これでソードさんを迎えに行ける。

 期待を込めた目でシークスさんのほうを見るが、シークスさんは考えこむように少し黙ると予想もしていなかったことを言った。




「いや、だめだ。」



「っつ!?なぜです!?先ほどと言っていることが真逆じゃないですか!」



「真逆などではない。ツキヤお前だけで行け。情けない事に、吾輩は力になれそうにない。2人で行ったところで吾輩は足手まといになるだろう。吾輩が行ったところで力になれぬ。自分の体のことは自分が一番わかっているつもりだ。向こうに行ってまともに動けるのは、多少なりとも抵抗ができるのはお前だけだ、ツキヤ。」




 シークスさんは下ろしていた腰を上げ、ソードさんのいるほうとは逆を見ながら続ける。




「俺はここでお前たちのお帰りを待っている。」



「シークスさん……。」




「ほんっと。つくづく腹が立つね。はじめに俺がやったことと同じことをしてくるとは。」




 突然別の声がきこえる。

 けれどそれはよく知っている声だった。

 声のした方を向くとそこには先ほどまで私の首を握っていた人物がいた。


 カース・・・。

 上の服が焼けこげ、体は火傷で満身創痍だ。

 けれどその眼には恨みがこもっており、一歩、また一歩とゆっくりと、けれど着実に距離を縮めてくる。




「貴様、分身であろう?なぜわざわざ来る?どうせしばらくしないうちに消えるとわかっているだろう?」



「なぜ分身だと思う?言ったはずだ。そういう思い込みが戦いの中じゃ命取りになると。」



「先ほどまでと全くもって気配が違う。先ほどよりもずっと魔力濃度が高い。それに、そのようなボロ雑巾の体からは血が滴るはずだ。だが、お前が歩いて来た道を見ても血痕は見当たらない。まあ、模様のように血が描かれているがな。ツキヤ、お前はソードのとこへ行ってやれ。ここは俺が片をつけておく。」




 彼の表情に、不思議と私は危機感と覚えることはなかった。それどころか、勇気さえ湧き出てくる。 

 シークスさんなら必ずやってくれる。




「はい。お気をつけて。必ず戻ります。」




 わたしがそう返すことをわかっていたのだろう。

 任せろ、と言うようにニッと笑う表情カオはどこか誇らしげだった。

 私は彼を背にして、安心して前を向く。




「俺の知らないところで勝手に話進めやがって。」





 シークスさん、任せました。

 わたしはソードさんのもとへ行くため、彼に背を託し義父ちちのもとへと駆け出した。






「お前、あの状況で成長したようじゃねぇか。気持ちわりぃ。だけどやっぱり無理してたみたいだな。今、動くのもやっとだろ?死にぞこない同士、第2ラウンドをはじめようぜ。」



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