第25話 本体

 





 どれだけ走ったかわからんな。

 どっかで振り切れたら体勢を立て直せるんだが、走っても走っても背後の禍々しい魔力が遠ざかる気配はない。


 これ以上は俺の体力が持たん。この辺りで始めるか。

 まあ、ジガイとカースの距離を取らせるという目的は達成できたし、最低限はやっただろ。

 

 踊狂化きょうぼうかを解除し、そのはずみで軽く浮いた体を空中で起こしながら後ろに体を向けて止まった。




「俺だ、シークスだ。無事目標を引きつけることに成功。これより戦闘に入る。」




 ソードもツキヤも作戦はうまくいっているだろうか。

 応答がないとわかっていたけれどちゃんと連絡を入れといた。

 

 


 すぐにカースも追いつき緊迫した空気になる。

 急に逃げることをやめた我に警戒しているのか距離は保ったままだ。

 

 先手必勝である。

 カースが来るや否や周りに散らばる鉄屑を操作し切りつける。

 幸いここは元々はホテルの建設予定地。

 寂れていても建物自体はまだちゃんと残っている。

 崩れ落ちた金属片があたりには散らばっており武器には困らない。




「たかが駄犬が、この俺に傷を負わせやがって。能力はなんだ?磁力とかか。」



「誰が教えるかバーカ。」



「俺本当にお前嫌い。」



「お褒めに預かり光栄だ。」




 傷を負ったといってもかすり傷程度。不意打ちで攻撃したというのにかわされた。

 これが黒猫。ソードが逃げ回るわけだ。

 我が喋り終えると同時にノータイムで拳銃を取り出し、容赦なく俺の顔面に弾丸を撃ち込んでくる。

 背中にさしこんでいたのか。銃を使うのは予想外、向かってくる弾丸タマを避け俺も銃を抜こうとした瞬間だった。


 なにも連絡がなかったイヤカフからツキヤの声が流れる。




「シークスさん話と違いますっ。なぜここにカースがいるんですかっ!」




 

 カースだと?奴は目の前にいるではないか?


 思いがけない言葉に動揺し、次に打ち込まれた二発目が銃を抜く前にあたるのが見えた。

 嫌な予感がし、その勢いのまま銃を抜いて空中に放った。




「何を言ってる。こっちじゃ確かにカースと戦ってるぞ。って、あぶなっ。」




 俺の勘は的中し、投げた途端に爆発。

 どうやら、やつの弾丸にはやつの魔力が込められていたようだ。

 炎魔の炎が銃の火薬に着火し一気に暴発する。

 あのまま投げなけりゃ俺の右足は軽く吹っ飛んでたな。銃にも炎にも気をつけなければ。




「それにしても派手な技だなあ。能力も分身だろ。便利じゃねえの。」



「そういいものでもないさ。やはり分身はどうしても本体よりかは脆くなる。それに炎魔の使用回数も限られてくるからな。」



「はっ。それはお前が上手く使いこなせてねえだけだろーが。」



「その使いこなせてないやつにお前はこれから負けるんだがな。」



 

 カースは右手に構えていた銃を撃ちながら距離を詰めてくる。

 体表に炎を纏い振り翳される拳。突然、近接戦闘に切り替えてきた。

 攻撃のテンポが速くなったからと言って、追いつけないわけじゃない。

 戦闘スタイルを切り替えたのが何故かはわからんが、近接なら俺の得意分野。好きにやれる。

 確かに素早いし重さもあるが、生身で受けなければいい話だ。

 周辺に金属はいくらでもある。

 カースを倒しきるのではなく、ツキヤが門のロックシステムをハックするための時間稼ぎさえできれば及第点のこの条件下なら問題なく戦れる。

 

 となればカースやビンザルスについての情報を集めるのがソードやツキヤのため、か。

 ふっ。頭脳明晰な我にかかればこんな些末、朝飯前よ。

 頭の中で勝手に有能な自分をイメージして気分が良くなった。


 ううむ、今までのことを思い出してみるか。

 ジガイと共にやってきて、仲はそんな良さそうではなかったな。

 能力は分身で、炎魔を自在に操る。

 あ、そういえば左目の傷に触れた時すんごい怒ってたな。なんでだあれ。

 急にキレ始めてたし、割とこいつ短気なのかもしれねえ。

 試してみるか?いや、動きが単調になってくれたらいいが攻撃力があがるのは困る。

 どうしたものか。




「おいおい、何考え事してんの。片手間でも勝てるってか。ほんとつくづく癪に障る。そうやって油断してるから。」



 鈍い音が連続する中、気泡の割れる音が俺に警報を知らせる。でも、聴覚で捉える頃にはもう手遅れ。

 


「んう“っっ……」



「こうやって隙をつかれるんだよ。」




 いつのまにかカースの手には銃が握られており、我は撃たれて腹には血が滲んでいた。




「銃……」



「あれ、もうないと思ってた?視界から消えるとないものと思っちゃうんだなあ。お前が単細胞っていう情報は本当だったってわけだ。知ってるかい?目に見えないだけで物質ってのはそこに存在してるんだぜ?」



「いったい誰が。」



「なんでわからないのさ。君らをこの間奇襲した奴ら、俺の部下だよ。その時の話を聞いてたから、効くかなって思って隠してみたんだけど、こんなに効果覿面だとは思わなかったな。戦闘において、見えないからって油断するの、自殺行為だって知らかったのかい?」




 ベラベラとよく喋りやがる。

 でも、確かにこいつのいう通りだ。

 あの時も、可能性を捨て皆に心配をかけた。

 今もそうだ、そのせいで先にこちらが手負になった。くそっ。

 

 情けね。

 いつまでたっても成長できていない自分に腹が立った。

 生まれたての子鹿のようにおぼつかない足。気合いでなんとか踏ん張っていられる。

 俺のことを下に見ているようで、体勢を整えるまでカースは立ったまま動かない。

 調子乗りやがって、絶対やり返してやる。


 カースが俺がまだ戦えることを確認するとにっと笑い、蹴りかかってきた。

 俺の体もやつのスピードになれたのか、怪我をしているというのに先刻より早く対応できる。

 それでも容赦なく次々と打ち出される攻撃はキツい。


 順応するのが難しい。

 炎を纏った攻撃が主だが、体に薄く纏った鉄屑があるため炎が身体まで達することはない。

 


 これは、時間稼ぎだけじゃ終われないな。



 条件が変わった。

 シークスはカースに勝ちにいく算段をつけ始めた。








             ◉







 猿並の体力に通常の獣人ではあり得ないほどの身体能力、咄嗟の攻撃にも対応できる柔軟性。

 まるで戦うために生まれてきたみたいだ。

 圧倒的戦闘センス。


 くっそ腹立つ。

 すまし顔で、これくらいできて当然だと言わんばかりの態度。

 重なるんだよ。あいつと。

 まあ、こいつは自覚してないだろうけど。


 そういう奴が、精神的に疲弊していく様を見ると快感を覚える。

 ダイヤさんは逃すなって言ってたし、こっちにはまだ十分余力がある。

 逃がさぬよう、殺さぬよう、じっくり痛ぶって最後には命乞いさせてやる。

 完全に屈服させる。


 流石に、同じ手は喰らわんよな。

 なら次を試すか。




「お前、名前は?」



「は?なんだよ急に。我に恋でもしてしまったか?」



「うるさいなあ。別に理由はねえよ。ま、強いていうなら警戒すべき人物の名前は覚えるべきでしょ。」




 こんな風に言っとけば、こーいうのは単純に乗ってくれるでしょ。

 シーさんと違って頭は足りなさそうだし。




「ほう、警戒すべき人物。よかろう!俺の名はシークス・シルキナ・サイン!よく覚えておくがいい!」




 ほらね。言わんこっちゃない。バカは騙しやすいから助かる。

 いちいち癪に障る奴だが、こいつに色々喋ってもらうしかないな。

 ダイヤさんもソードの周りの情報を集めてこいって言われてるし。

 今こうして対峙するまで、連れの2人について種族すらわからない状態だったんだ。

 こんなんじゃ、流石のダイヤさんでも策なんて練れないでしょ


 見た感じだと、シークスはカーラルっぽいな。

 動きはまだまだ荒削りで読みやすいけどちゃんと動けるようになったら脅威だろう。黒猫に並ぶかも。

 腹立つけど、いっしょに任務をこなすときは気が合いそう。


 分身が相手してる女の子の方は、ツキヤちゃんね。

 ふーん。

 巫女服に、ピンクの髪。頭にはネコ族のような低い三角形の耳がついている。

 見た感じ人間と獣人のハーフっぽいけど、あれは何族だ?

 警戒したほうがいいかも。

 ちょっとだけだけど、会ったことある気がするんだよね。俺の勘違いかもしれないけど。

 ま、あんな感じのハーフなんてよくいるし、特別気にしとく必要はないか。


 まあ、情報整理はこれぐらいでいいか。




「なあ、シークス。お前、こんな言葉を知ってるか?」




 息はあがって、会話するのもきつい状態。

 銃で撃たれた脇腹からの出血と痛み、攻撃の応酬で削られていく体力。


 俺ならもうギブアップしてるね。痛いのも辛いのもやだし。

 ギリギリの状態でもっと追い込み、精神的にも肉体的にも限界を迎えた時、竜種以外の種族はみんなすぐ口を割りたくなる。


 それが俺のやり方。

 初めから逃げ道は一つしか作ってあげない。



「あ?」



 シークスは相当意志の強いやつだ。

 こういうやつは死の淵に立っても口を割ることはない。

 俺と相性悪すぎ。


 でも、問題はない。

 俺がすることはただ「死にたい」という単純な願望を相手に持たせること。

 シークスはおそらくプライドも高い。

 となれば、自分の実力不足で仲間を救えないとなると大きなダメージを負うだろう。

 ソードは殺すことはできないが、ツキヤなら簡単だ。

 正直壊したくはないんだけど、今はやるしかなさそうだ。


 分身の出力を上げ、自分の魔力をさらに多く供給する。

 そして追い打ちをかけるために俺も火力を引き上げ、戦いをもっと苛烈にしていった。

 先ほど銃弾を打ち込んだ脇腹を重点的に攻撃を仕掛ける。


 シークスの戦い方はまるでチンピラのそれ。けれど俺の戦い方は研ぎ澄まされた2つのの攻撃。

 俺は戦い方を使い分けている。

 面か点か。

 拳全体で体を撃ちけんで胴のいたるところを刺すように打つ。

 傷を抉るたび血を吐き出し、眉間に皺を寄せ曇らせる表情。




「脳ある鷹は爪を隠す。」



「それがなんだよ。」



「やっぱりバカだなあ。いいこと教えてやるよ。敵がこーいう事言ってくるって事は、お前にとって不幸な出来事を俺が起こるってこと。」



「だからなんだ。そんなの、無理やり力で押さえつけりゃいい話だろうが。」



「さっきまでの君の様子を見てれば不可能だって事くらいガキでもわかるわ。」




 そろそろ俺の分身体の方も本領を発揮し始めた頃だろう。

 シークスが拳に炎を纏わせ、獣の姿をあらわにする。

 燃え盛る自身の炎とその煙の中に、勝負を楽しむ狂人の笑みを見た。


 違う。こいつはシーさんとは全くの別物だ。

 シークスの強さは、センスでも才能でもない。言うなれば、まだ蕾の状態だ。

 そしてそれを無意識の状態でコントロールしてやがる。




「舐めやがって。」




 シーさんがすべてにおいて全力を尽くさないのはいざという時のために、力を温存しているからだ。

 だけどシークスは、わざと自身の能力に制限をかけギリギリの戦いを楽しんでいる。

 俺が苛立ったのは、「お前如き本気を出さなくても十分だ」という余力を残した上での、余裕をこいつが見せているところだ。

 

 こいつは好きなんだろう、戦いが。 

 こういう奴は鍛錬を積んで開花させたら、俺レベルではなく、ジガイの首に手が届くまでに達するかもしれない。

 ただ、やつが1番実力を発揮するのは目的のための戦闘ではなく、ただ純粋に強敵との戦闘を楽しむことだろう。

 このことを当の本人が理解していない。

 故に、無意識下で実力の均衡を保つために力の制限を行っているのだろう。


 気色悪い奴。


  視線を奴の顔面にやり、ブラフを貼った後炎で加速した拳をシークスの溝落ちに入れる。確かに入れたはずだ。

 しかし生物を殴ったとは思えないほどの硬さが腕に響く。




「ギリギリだったぜい。」




 謎の硬さで動揺して拳を引くのが一瞬遅れた。

 シークスがその隙を見逃すはずがない。シークスは俺の腕をガッチリと掴んで離さない。




「黒猫だかなんだか知らんがな。俺はソードの相棒だ!たかが弾丸一個で弱くなるような俺じゃない!」







             ◉







 先程と比べ、やつは刺すような攻撃と顔や足など打ち分け範囲の広がった攻撃を混ぜて戦ってくるようになった。

 でも大きな攻撃は腹にくる。そう確信していた。

 なぜかって?そんなの簡単だよ。

 この俺が理論的に求められるわけがなかろう。

 ただ、自分の勘を頼りに金属で、防御を固めて攻撃を受けた。


 やつの炎魔解放により周辺の建造物はまとめて吹っ飛んだ。

 おかげで操り勝手のいい大きさの金属はない。

 周りからかき集めて築いた薄い鉄の防壁はメラメラと燃える炎によって熱され、溶かされ始める。

 暑さに怯んでしまう前に、カースを投げ飛ばした。

 見た目と動きからしてカースはストラドか。

 投げ飛ばしたあともすぐに能力を使用して追撃をかける。




「それがてめえの本気か?黒猫!」



「うるせえよ、狂人が。炎も使えねぇ雑魚がっ。」



「誰が炎を使えないって?」



 

 飛べるはずもない我々は、自由落下の中で肉弾戦を繰り広げる。

 その短い数瞬で交差する手足。

 先ほど受けた攻撃などなかったかのように体は動く。



 (いい。いい。いい!調子が上がってきた!)



 拳を横から入れ



「ングッ」


 

 塞がれたはずの蹴りは腕に負荷を与える。




「い"!」




 先ほどから我も攻撃を受けているようだが、全くそれを感じなかった。

 口を開けると不意に溢れる液体。

 それがなんなのかは気にも留まらなかった。

 



「ん"ッ」




 鳩尾に食い込ませた拳。

 俺は見逃さなかった。痛みでできたたった一瞬の隙を。


 すかさず顔に向けてふるった拳を綺麗に受けるカースだが、戦闘時、思い込みは命取りだ。

 カースが受けた瞬間拳を広げ炎魔を浴びせる。




「イ“ッ!」




 お?思った頼り好感触か?

 

 反撃がやみ、カースの苦しむ声が聞こえる。

 

 この隙に一気にかたをつけようと思ったが、カースの雰囲気の変化に気付きやめた。

 両手で顔を覆い、こもる声で苦痛をこぼす。

 傷はゆらゆらと炎を揺らし、カースの状態を表している様だった。

 



「イ“タ“い!痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!あ“づい…シークス……シー…クス…シーさん…シルバー!腹立つ透かし野郎……。奪った…全部。シルバー…あいつがっ。」




 ぶつぶつとつぶやくカースに対し警戒を解く事はなかったが、頭の中は少し混乱をしていた。


 シルバー。

 黒猫の1人だよな。この名前を一度だけ見たことがある。確か闇市だったか。

 炎とナイフを自在に操る。黒と金の獣。

 手配書の写真からは、冷たい印象を受けた。

 正直、シルバーの写真からは手配書に書かれているような趣味の悪いことを行うイカれ野郎には見えないけど。

 どっちかっていうと何も考えず淡々と殺すタイプな気がする。

 シルバーという黒猫は何事にも冷めていてカースに興味なんてもたなさそうだが。

 まさに冷徹無比な殺人ロボットのような雰囲気だったな。

 そんなシルバーがわざわざ奪った?あの言い方だと、自らカースに何かしたように聞こえるが信じ難いな。

 

 とりあえずこのことをソードに伝えておくか。

 あいつはビンザルスにいたっていうし何か知ってるかもしれん。




「ソード。聞け。カースの様子が変だ。」



「奪い返してやる。」



「先ほどから顔を両手で覆いぶつぶつと何か唱えている。それにシルバーという人物に思うところがありそうなのだがーーー。」



「手始めに。」




『シークス!その場を離れろ!』


 イヤカフからソードの焦った声が聞こえた。




「お前からだっ!」









 通信しつつも、警戒は怠らなかった。

 周りに魔力を放出し瞬時に感知でいるようにはしていた。

 目も話さなかった。構え続けていたし、周りに鉄壁も築いていた。


 なのに、反応できなかった。


 背中が痛い。腕も動かせない。力は入るし、動いてる感覚もある。

 てかこれ、下半身繋がってんのか?俺すらもわかんねえや。

 呼吸が浅くしかできない。

 今、何された?殴られたのか?


 前方から気配を察知し、無理やり体を動かす。

 自分の思うようにはできないが、かろうじて首だけは動かせた。


 朦朧とする視界で、近づく人影を見ようとする。

 重たい頭を少しづつあげて、動けばパラパラと落ちてくる石片に気を回す余裕もなく、閉じそうな瞼を無理やりこじ開け、赤く染まった視界で正面に立つ男をキッと睨む。




「おいおい。くたばんのが早えよ。まだ一発だろうがよ。今のすげえだろ?温度、四桁はいったかなあ。俺さあ、お前みたいな天才嫌いなんだよね。やればなんとなくで全部できちゃうんだもん。戦ってる時に、お前の才能をひしひしと感じて辛かったんだから。俺の無力さ実感させられちゃってさ。ほんと。あの頃を思い出しちゃって。ごめんね?さっきは取り乱しちゃって。でもねえ、俺に炎は不味かったよね。単純な戦い方ならあのまま時間稼ぎくらいにはなったんじゃないかな。シーさんはあの事件のことしらなさそうだし、炎使っちゃうのも仕方がないけど。」




 ゆらゆらと体から炎をあげながら饒舌に話す。


 


「よく喋るやろうだな。そんなに勝ちが嬉しいか?」



「そら嬉しいね。憎ったらしい奴の負け面拝めるんだから。さて、最後くらいは俺の炎で死なせてやるよ。残念ながら、生捕対象はソードだけなんだなあ。分身がやりあってるツキヤちゃんは個人的に連れて帰るけど、俺野郎には興味ないんで。」




 本当に情けねえ。


 クソが。




「待ーって待って待って。勝手にフェードアウトしないで。俺はまだお前を殺す気がねえんだから。シーさんの事はまあいい。俺らが知りたいのはてめえら組合の内情だ。今うちの連中がお前らの本部の足止めをしてる。にしてもおかしいんだよ。足止め程度だから現場の指揮官として、最高戦力として黒猫の一人であり俺の相棒が相手してる。でもなあ、勝てるほどの戦力は送っちゃいねえが、情報を聞くに劣勢らしい。このままじゃ時間の問題だとよ。だが俺は、そいつが率いる部隊がお前らに押されるほど弱いとは思わんわけよ。聞けば、竜人や警察、獣人に人国の武器も使ってるらしいじゃないの。これ、おまえらの組織が蜘蛛の巣のようになわばりを張り巡らせてるってことを意味してるよね。ね、そのパイプは一体どこまで伸びてて、いったいどれほどの太さなんだい?それが破裂したらいったいどうなるんだろうね?」



「知らねえよ、俺だってな。俺は俺の居場所を求めて、強くなるために組合に入った。それだけだ。俺は馬鹿だから、そーいうことなんも知らねえのよ。残念だったな。相手が俺で。」



「ふーん。ま、いいや。君らの目的って多分獣国への帰還でしょ。多分それは叶わないね。本部の足止めしてるし、門の近くにも関所にも部下が構えてる。」



「だから何だ。俺らのカギはそれじゃねえ。」



「あ、もしかしてハーフの女の子の事?残念、今俺の分身が相手してるよ。」



「あいつはあの見かけによらず弱かねえ。さすがのおまえでも、所詮分身は分身。うちのが勝っちまうかもよ?」



「おいおい、最後まで話聞けって。俺の分身って、ダイレクトとインダイレクトの二種類があるわけ。インダイレクトは、今みたいにオートで動かすことの事。五感の共有しかできないわけ。でもダイレクトっていうのは直接操れるんだよ。要は、身体は弱いが、技術的なものは分身向こうに投影できるってこと。」




 途中まではカースの言っていることは理解できた。理解できていたんだ。

 でも俺の体はそれを理解することを拒絶するようで全く頭に入ってこなかった。

 体の血が減っているからなのか、話から予想される最悪の展開を想像したくないだけなのか。

 血の気は引き、戦いで息が上がり火照った体は徐々に冷やされていく。




「あっちの状況教えてやるよ。折り畳みの変な機械も壊されて、俺の左手にツキヤちゃんの首がかかってるところだ。」



「シークス…………さん。ごめ……なさい……。はんだんを…あやま………り…ました…………。」




 一気に頭に血がまわる。




「……は?」




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