第16話 声

 「久しいな、諸君ら。しばらく会えなくて寂しかったぞ。まあ、元気そうでよかった。」

笑いながら冗談交じりで話す姿は懐かしく、俺たちの体は安心感を覚えた。

「組長!」

三人そろって呼ぶとその響きの懐かしさからか、みな本来の姿へと変化していた。ツキヤはあまり変化はないからいいものの、俺とシークスは着ている服の一部が裂けてしまった。けれども、再会のうれしさからかそんな損傷は気にもならなかった。それは組長も同じのようで、つい最近の出来事を昔話のように語ってくれた。

「お久しぶりです、組長さん。お食事のご招待ありがとうございます。おかげで、二人もゆっくりと羽を広げられたようです。急なお願いを聞いてくださって、ありがとうございます。」

「ここまで来たらどっちが保護者かわからんな。ま、そっちに行ってからの様子も気になってたし前々から誘っていたことだしな。全然かまわんよ。それどころか大歓迎だ。にしても、人の姿の彼らは見たことがなかったから知らなかったが、なんだかとんでもなくハンサムになったな。元もそこそこいいとは思ってはいたけど。」

にこにこと笑いながらそう言う組長は、ここのシステムを教えてくれた。

 なんでも、ここは組合の系列店らしい。元々ここのオーナーが獣人肯定派だったらしく、縁あって組長と出会い提携を結んだ。おかげで、組合に対してはとても協力的で、ボロボロになった戦士の休息や武器の補充、修理が可能だそうだ。店員に頼めば、武器庫や医療室に案内してくれるらしい。それ以外にも、内密の依頼の打ち合わせや、表立ってはできないような尋問ができるそうだ。人間国日本町ではここを中心に動くヒーローがほとんどらしい。ほかの町にも支店があるそうで、そのどこもが盗聴盗撮の心配なく使うことができる。

 でも、こんな店があるなら俺らに直接言ってくれないかな。今初めて知ったぞ、そんな話。ツキヤしか知らなかったんだが。

 「そうだ、そろそろ届くと思うぞ。新しい服が。」

「新しい服?僕らそんな申請出していませんけど。」

「私が勝手に作った。まあ、これはプレゼントだと思って受け取ってくれ。」

「はあ。」

呆れた相槌をうつと、ちょうどそのタイミングで部屋のドアがたたかれた。何かが届いたらしい、話の流れからすると組長が送ってくれた服だろう。にしても、組合のその財源は一体どこなんだ。まあいい。ただで服がもらえるんだ。ありがたく受け取るとしよう。

 持ってきてくれた店員から包みを受け取り、中から取り出すと予想通り新しい服が入っていた。凝ったデザインに感動しながら礼を言うと組長は我々へのギフトの説明をしてくれた。

「そいつは優れものでな。ある程度国からの支援がもらえる世になったら合格者全員に配布しようと思っとる。それで試用がてら特注で君らにプレゼントするってわけだ。いいか?君らは組合うちの期待の新星なんだ。だからこんだけの好待遇や支援を受けられる。頼むから散るなよ。話がそれたな。いっても、それに関しては、一度着てみた方が早い。タイミングよく服は使い物にならなくなったようだし、それに着替えたらいい。」

 急にものすごくプレッシャーかけれられたな。でも、ひとつ謎が解けた。俺らにいろいろ良くしてくれたいたのは、期待されてるからか。てっきり全員にしているのかと思い込んでいたが、期待されているなら応えなきゃならんな。そう思いながら、服を着たが何か特別普通の服との相違間があるわけでもない。

「これ何が違うんですか。」

不思議そうにしている俺らを見てツキヤが尋ねる。

「獣化してごらん?」

「だが、そんなことしたらせっかくもらった服が破けてしまうぞ。」

「いいからいいから。」

言われるがままに、促されるままに俺とシークスは自身の種族の正体をあらわにしていった。すると、なんということか。俺は白に、シークスは黄色に服が発光しサイズが変化していく。

「なるほど。確かにこれは高価な代物ですね。清魔糸せいましで編まれたものですか。」

「そうだ。よくわかったな。」

「そりゃわかりますよ。服がいちいち破れるの、腹が立つからお金がたまったら買おうと思ってた物なんで。」

「ちなみにそいつはランクAだ。」

「Aッ、、、!?」

「清魔糸って何です?」

「龍脈の通る洞窟でまれに発掘されるすでに魔力のこもった石、魔鉱石。その魔力をふんだんに編み込んだ純魔鉱の糸のことだ。だから、この服は俺らの変身で発光する。特性としてその光は持ち主の魔力の色応じて変化する。」

しかも、龍脈は獣国にも人国にも妖魔国にも通っていないがゆえに龍脈でとれた物資は各国の間で高値で取引されている。輸入品じゃ手に出せないほどの代物だが、本国である龍国でもとてつもない値段である。そもそも魔鉱石自体が希少なため龍国でも高価なのだ。魔鉱石には大まかに4段階の階級があり魔力とその他の力の比率が5対5の場合、ランクC。7対3ならランクB、9対1ならランクA、10対0、つまり純魔力であるならランクSとなる。何が怖いって、両方ともランクがAなのだ。この服、売ったら億は下らんぞ、、、。」

やっぱこれ財源国だけじゃないだろ。

「へえ。魔力にもいろってあるんですね。」

感心しているツキヤに対して、ふっと目をやり組長は優しく答えた。

「そうだぞ。ま、対して影響はないがな。基本的に色は唯一無二のものなのさ。その人の力や性格、能力や本能と同じように一つとして同じものがないのだ。でも、そうだな。色によって何かあるとしたら式神か使い魔かな。そういったものを使役してる奴は少ないが、魔力の色で大体の相性が見れる。相性が最悪だと式神や使い魔になったとしても何の効力も得られん。逆に相性抜群だと多くのご利益や意思疎通の質が上がるのだ。それにしても、シークスはともかくソードは珍しい色だな。白か、相性の良し悪しが極端なのに加えて、あまり抜群な方が少ないんだが、、、。まあ、がんばれ。」

 なぜ俺は急に励まされたのだろうか。使い魔や式神と、契約する気はないんだが。

「あとは、炎の色が変化するくらいか。」

「炎なんて使えるのか!?」

なんでシークスはそんなに意気揚々としてんだよ。逆に知らなかったのか。まぁ通常、使用は禁止されてんだけど。

「あ、ああ。使えるぞ。てか、聞いとらんのか。ヒーロー試験合格者には、能力、炎魔、狂踊化の使用は許可されておる。資格取得時に説明を受けただろ。」

「ああ、そうだった。そうだった。」と言わんばかりにうなずきながら、頭に手を当てる。俺、不正合格者だからその話知らないんだよな。どっちにしろ使う気ないけど。てか使えないし。てかなんでシークスが使えること知らないのか疑問だな。だがその場合ツキヤはどうなるのだろうか。ツキヤは人間と獣人のハーフなんだし、魔力も呪力も扱えるのか?どちらか一方のみしか使えないのかそもそもそういった精神力エネルギーを持ち合わせていない可能性もある。後で聞いてみよう。使えるなら炎でもなんでも戦力化しておいた方がいいに決まってる。戦場に出す気はないが、俺らが任務中、ツキヤの護衛には付けなくなるからな。電波をキャッチされたら、それをたどってツキヤに危害が及ぶかもしれない。そんなことは起きないと思うが、どっちにしろ自分の身は自分で守れた方がいい。最低限の力として自衛の術を身につけてもらわんとな。本部でいろいろ教えてもらってたらしいけど。

 二人が組長と話している隙に、「もう一つ、ターキーください。」と料理を頼む。とりあえず難しい話はあとでいい。なぜならここの店、飯と酒がめっちゃくちゃうまいのだ。しかもタダ!こんなの堪能せねば失礼というものだ。何やら二人が話しているがどうでもいい。今はともかく飯に集中だ。



 「ふー。食った食った。」

 満足そうに腹をこすりながら歩くシークスは、満足げな笑みを浮かべていた。俺ら三人は帰路につき、久々に充実した一日の余韻に浸っている。一日とはこんなに充実できるものだったか。この感覚、久しく忘れていた。それにしても本当にあの店はうまかったな。今度プライベートで行ってもいいかも。

 俺らは帰りの電車に乗った。するとツキヤが何やらすまほ?を見始めた。いったい何が面白いのか。いやまて。これが噂の万能かまぼこ板じゃないか?何を見ているのか、どんな風になっているのか気になる。ものすごく気になる。それにしてもシークスのいびきがうるさい。周りに迷惑だろ。酒の飲みすぎだ馬鹿野郎。やばい本当に気になる。もういっそ聞いてみるか。いや、年頃の女の子ってそういうの嫌がるんじゃ…。

「気になってるのバレバレですよ。全く…。これです。」

ばれてた。そんな分かりやすかったのか。ちょっとショック。取り合えず差し出されたスマホを見てみる。そこに映っていたのは今日一日の写真だった。オジサンちょっと泣きそう。

「記念に撮っておいたんです。ほら、私たちの仕事って死が身近にあるじゃないですか。だから、いつでも思い出せるようにと思って。」

何それいい子。はぁ、こういう優しい子に育ってくれてパパうれしい。でも、そうだよなあ。俺らいつ死ぬかわからない仕事してんだよな。ツキヤは比較的安全だけど、こんな仕事にかかわってる以上絶対に死なないなんて断言できないもんなあ。そういう面で考えるとなんだか申し訳なくなってくる、俺が迎えなければこんな危険だらけの世界に引きづり込むことはなかったのだから。せめてツキヤとシークスだけは何とか生かしてやりたいものだ。そんなふうに考えていたら、ツキヤのスマホに一件の通知が来た。

「ネットニュースですね。なんでしょう。」

『西班牙市にて、サクラダファミリアが爆破。その周辺の町一帯も火の海とかしました。いまだ犯人につながる証拠はつかめておらず、民間人のとった映像では一時的に赤や青の炎が上がっていることが確認されました。専門家によると、民間の町も燃えたことにより家に残された塩などの炎色反応によって引き起こされた現象だそうです。炎上の範囲が広く消火が間に合っておりません。周囲の安全はいまだ確認できていない様子です。」

「えー。サクラダファミリア見に行きたかったのになあ。」

そう言いながら残念そうに肩を落とす。完成する前に爆発とは。たびたびニュースに出てくるから気になってはいたんだが。

(に…ろ……げ……。)

「!?」

「どかしましたか。」

驚いた俺に尋ねる。なんだ今のは。耳元で急にささやかれた感覚。誰の声だ。周囲に人はいない。聞き覚えはない。でもどこか懐かしい声。こんな現象、初めてだ。ぐるぐると考え込む俺を引き戻すかのごとく、誰かが俺を揺さぶる。

「お主、大丈夫か?酒の飲みすぎだろう。全く情けない。ほら、降りるぞ。」

「シークス。」

 気が付くとそこは最寄りの駅だった。乗車した駅と6駅ほどの距離がある。ニュースを見たのは、乗ってすぐの事だ。そんな長い間俺は気づかなかったのか。

「てか、飲みすぎとかシークスにだけは言われたくない。」

「疲れておるくせに、口だけは減らんなお主。ほら、早く帰って寝るぞ。」

 そうか、疲れていたのか。まあそりゃそうじゃなきゃ、知らない人の声なんて聞こえるはずがないもんな。そうだ、シークスの言う通り早く帰って寝よう。職業病だ、何もかもが関係のあるものに思えてしまう。いかんな。

 俺は、胸の奥で微かにざわめく不安を無視し、2人と共に夜の帰り道を歩いて行った。

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