第14話 心の余裕
「おー、なんだかんだいい住まいだったな。気に入ったぞ。それにしても、おおごとにならずよかった。引越しの片付けもすぐ片付いたのもあって思いのほか、早く要件が住みそうだ。」
「ほら、寝言言ってないで仕事すますぞ。あんま長居はできないし、次の仕事もあるんだから。フウロ、ナビゲーション頼む。」
「了解。二十三分後にここをターゲットが通ります。物音をできる限り立てず闇夜に隠れて確保してください。周辺に人物の存在は確認できません。カンヘルは右側から、アギアは左からの処理をお願いします。」
「了解。」
「はあ、全くあのバカが。あいつのせいで仕事がクソだ。その代わりゆみちゃんは俺に従順でいい子だなあ。今度、お小遣いあげちゃおう。それにしても、あのババア。早く金を用意しねえかな。」
「何、あの絵に描いたようなクソ野郎は。虫唾が走るんだが。」
「まあまあ、許してやれカンヘル。今から処理するんだし変わらんわ。」
「そろそろです。準備してください。作戦開始まで、3、2、1。」
「だあー、終わった。てかコイツ酒臭っ。リバースしそう。ウッ」
「やめたまえ、汚い。にしても、こやつとてつもない量の悪行をおこなっているようだぞ。」
「そりゃそうでしょうね。でなければ、ここまで恨みを買ってないでしょう。ですが、本当にだらしがない人間ですね。さぞ、大事に育ててもらったんでしょうね。はい、この話はここで終わり。ほら、さっさとこっちに運んでください。」
「なんかフウロさんだんだん口悪くなってねーか。なぁカンヘル」
「気のせいである。」
ヒェー冷た。なんか今日みんなドライじゃん。
まぁ、この酒臭さには気も滅入るだろうけどさ。
仕事中になるとこうも性格が変わるなんてな。
確かに、組長は人格でもバレぬように精進せよと言ってたよ?とはいえだよ。
てか、ツキヤに関しては演技が本音かもわからん。
年頃の女の子って怖えな。
「じゃ、いつもの如く打ち上げにでも行きますか。」
賛成と声をあげて、熱々になったパソコンと犬の仮面を持つ少女と、龍の面とグロック29cを懐にしまう大柄な男は歩き始めた。
先ほどまで仕事していた人とはまるで別の人物かのように素を解放する男女2人は1番の親友と我が娘である。
こっちでも仕事を続ける為に、俺らはオーダーメイド品の面を用意してもらった。
それぞれ全く異なる種族の面をすることによって、身元を特定しづらくする寸法だ。
シークスの戦闘技術は衰えるどころかさらに向上していて、ツキヤもオペレーターとして働けるように人間技術を使いこなしている。
俺も、以前よりかは体が軽く感じるし無茶な動きをしなくなった。
それもこれも、あの一戦のおかげだ。
長者の立ち回りは体が硬くなりそうだけどな。
さて一風変わってここは居酒屋。
安い上に、飯もうまいし酒もうまい。
人間の国ではこれが普通なんだろうか。飯はうまいし、技術も細かい。
かまぼこ板みたいなやつで音楽も聴けるし、さまざまな情報を気軽に得ることができる。
まあ、フェイクニュースも多く存在するがな。
それでも人間の技術力には目を見張るものがある。
最も、魔法や能力を利用したものが一つも存在しないのが評価されている。
特にこの日本町の製品は質も高く安全であることから世界中かあら注目されつつある。
他の米国町や、ロシア圏、中華街とかも行ってみたいものだ。
「そういえば、今回の給料はいくらなんだ。とてつもなく弱かった上に最後の最後に命乞いまでしてきたような奴だ、やっぱ安いのか?」
国を移動してから、仲間の様子も少しではあるが変わった。
今まで報酬など気にしていなかったあのシークスが、金銭面に気を使うようになったのだ。
人国が物価が異常に高く、取り立てられる税も大きい。
人国の中でも、そこら辺は差があるようだが高いのは変わらない。
金銭面以外でも、俺らは服装を気にするようになった。
人国はお洒落た服装の人が多い。
人混みの中で浮かないように服装は常に気を遣っている。
人国は基本群れ行動だから、浮いたら負けなのである。
「それが、結構弾んでくれてるわね。まあ、ここは戦闘的強さじゃなく、権力と金が牛耳る社会だもの。ある意味大きい獲物だったみたいよ。」
「学歴社会って怖いな。」
強い賛同を示すように、大きく力強く首を縦に振るシークス。
そんなたわいものない会話をしているとふと時計が目に止まった。
針は一番高いところを指していて、音と大きく触れる振り子が「帰れ」と言わんばかりに現在時刻を周囲に知らせる。
その合図とともに俺らは会計を済ませ真っ直ぐ帰路についた。
家は、戸建てのおかげでよっぽどのことがない限り俺らが獣人であるとばれないようになっている。
そこには地下室もあり、大抵の作戦会議や本部との連絡はそこで行っている。
時間を見計らって動けば、ご近所づきあいというものもなく安全に過ごせる。
こっちに来てから、暫く経つがこれといった襲撃もなく過ごせている。
本部に、ビンザルスの動向を監視してもらっているが、俺らを嗅ぎまわっているだけで何の情報もつかめていない様子らしい。
それもそうだ、シークスの完全復帰も早かったし、移動も早いうちに行ったからな。しばらくは、落ち着いて過ごせそうだ。
でも、移住場所は間違えたかもしれん。
俺らの名前は横文字だからこの日本町では結構人の目を引く。
イギリス圏にでも行くべきだったか、まあ、新しく言語を覚えなきゃだから多変だけど。
一応こっちじゃ、外国圏町からの引っ越し物として装っているが怪しまれることも多々ある。
「そういえば、お二人に相談なんですけどいいですか。」
三人が、リビングでくつろいでいる中で突如ツキヤが口を開く。
「相談とは何なのだ。任務についての話とかか。」
「いえ、そうではなく。最近引っ越したばかりなのと、慣れない形式での任務であたふたしててろくにここを満喫できていなかったりするじゃないですか。ネットをみてるとよく観光スポットの㏚動画が流れてきたりするんですよ。ですから、明日出かけてみませんか。ちょうどオフですし。どうせ家にいたってお二人ともトレーニングするしかないのでしょう?」
「観光というのは、この日本町を回るのか?」
シークスの質問に対して、ツキヤは目を輝かせながらコクリとうなずく。
「俺はありだと思うぞ。息抜きにもなるしな。」
正直なところ、あまり外に出たいとは思わない。
なぜなら人にばれる可能性が少なからずあるからだ。
いくら、人に化けていたって人間にして俺とシークスは身長は高い方だ。かなり目立つ。
シークスなんかあんな話し方だ。怪しまれても無理はない。
仮に獣人だとわからなかったとしても、俺らのありとあらゆる情報をビンザルスは持っているわけだから、あいつらにばれても不自然ではない。
今頃俺らを血眼になって探しているだろうからな。
最悪、その場で戦闘なんてこともある。
そんなことが起きようものなら、俺らは本当に手出しできなくなる。
その場にいた適当な人間を人質に取られれば俺らは身動きができない。
それができなくともツキヤを守りながらの戦闘はリスクが高い。
なのに本部からの応援も期待できない。
ここでの戦闘、特に観光地という人の多いところでは避けたいところだ。
だが、ツキヤは今まで男だらけのところで育ってきたせいでそれらしいことさせてあげれていない。
それに、珍しいツキヤの頼みだ。断りたくない。
ツキヤが俺らに頼み込んでくるのなんて、戦闘中かよっぽどの時くらいだ。
こういうのは、珍しい。が、故に断れないのだ。多少のリスク目をつむるしかない。
シークスもきっと同じことを考えるだろうな。
「フム。うまい飯があるのなら、吾輩も賛成するぞ。」
あ、飯か。
思ってたより単純バカだったかもしれん。
座学的なのは強いと思っていたんだが気のせいだったか。
「それに、全員いるなら何が起きても何とかなりそうだしな。」
いや、信頼からくる安心故か。
シークスの一言はいままでの俺の不安をないものにした。
シークスが、俺らを信頼して安心してくれているなら、仲間である俺も安心せざるを得ないな。
そこで不安になっていたら、間接的に、こいつらを信頼しきれていないことになってしまうからな。
「よし、じゃあ明日は日本町で思いっきり遊ぶぞ。どこに行きたいか、案求む。」
「吾輩は、うまい飯が食えるならそれでよいのだ。そうやって聞くくらいだ、ソードも特に行きたいところとかないのだろう。なら。後の判断はツキヤに任せる。今後、任務などで公共交通機関を使うことも増えてくるだろうからな。経路なども、オペレーターとしてツキヤは覚えておいた方がよかろう。丸投げのようになるが、ここはツキヤが好きに決めてもらっても構わん。」
「俺も全くの同意見だ。」
「いいの?」
ツキヤの心が高揚しているのが他者から見ても分かるくらいに態度は明らかだった。
久しぶりに、ツキヤのめがあんなに生き生きしているのを見た。
ご自慢のノートパソコンを、嬉しそうに開き、パチパチと一文字一文字丁寧に打つ。
画面に向かうその表情はは、まるで幼い子供のようだった。
その光景は、俺にとってすさまじい眩しさを放っていて、見ているだけのこちらもなんだかうれしかった。
「ここ行きたい、浅草区!」
提示されたその画面には、大きな提灯を吊るした赤い建物だった。
和風な建物の付近にはおいしいごはん屋さんもあり、少し移動すればおしゃれなお店が立ち並ぶような場所だった。
奇麗なところだ。
その写真を見ると俺は明日がとても楽しみに感じた。
そう思えるのは久しぶりかもしれない。
「よし、そこならシークスの要望も応えられそうだし、明日はそこに行こう。出るなら午前中がいいよな。明日は早いぞ。明日に備えて、ほら、もう寝よう。」
完全にスリープモードに入ったシークスはのそのそと布団に入り、俺とツキヤはワクワクしながら日が高く上がるのを目をつむって待った。
深夜の仕事から、午前中の内に遊びに行くのは少々疲れるがそんなことは気にならないくらい、心臓がドラムをかき鳴らし、明るい未来を想像しながら眠りについた。
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