05.なんでか仲良くなったっす

「ディアーヌ、こっちへいらっしゃい」


 自分の姿を目ざとく見つけて、公女さまがお呼びになるっす。


「自分、その名前あんま好きじゃないんすよね」


 最近はもう、すっかり私的な場では素で喋ってるっす。公女さまも「私と貴女の仲なんだし、プライベートでは堅苦しい作法も要らなくってよ」って言って下さってるし。

 そう、いつの間にか公女さまと仲良くなってるんすよね、なんでか分かんないっすけど。

 あっ、学園は結局中退したっす。表向きは公爵家へ行儀見習いに出たことになってて、まあ貴族令嬢・・・・としては有りがちな退学理由っすね。ホントは男爵家の本邸で公女さまの専属侍女なんすけど。


「どうして?とても素敵な名前ですことよ?可愛らしくも凛々しい貴女に相応しいと思うわ」


「いや〜仰々しいんすよね」


 苦笑交じりに言うだけ言ってみるっす。生まれた赤ん坊じぶんを見た親父が大感激して「女神さまが生まれた!」って大騒ぎして、それで女神ディアーヌなんすけど。

 だから気恥ずかしいんすよね。つうか可愛らしくて凛々しいのは公女さまアナタっす。どう考えても自分じゃないっす。


「ふふ、恥ずかしがらなくてもよくってよ」

「いやー、恥ずかしいものは恥ずかしいっす」

「もっと自信を持ちなさいな。それはそれとして、わたくしとお茶にしましょう」

「(あ〜まだ仕事あるんすけど……)分かりました。じゃあご相伴にあずかるっす」


 テラスに設えられたテーブルの、公女さまのお向かいに座ると、早速嬉しそうに微笑んで下さるっす。

 いやだからホントマジで可愛いっすね先輩!何食ったらそんな可愛くなるんすか!?綺麗で凛々しくて可愛いとかマジ反則っすよ!


 あ、公女さまの生活費は基本全部公爵家から頂いてるっす。このテラスも公女さまのお茶用に公爵家持ちで増設されたし、公女さまのお使いになるドレスとか装身具、家具なんかも全部商会うちに発注して頂いて。もちろん日常の食材やら今目の前に並んでるお茶やらお菓子やらもそう。

 おかげで男爵家どころか商会全体の生活水準がワンランク上がったっす。それどころか公爵家から料理長補佐だって人がひとり出向してきて、そのおかげで普段の食事に関してはほとんど高位貴族並みになってるっすね。


「わたくしはね、一度貴女とゆっくりお話してみたいと思っていたのよ」


 公女さまはたおやかに目線をお紅茶に落としながらそう言ったっす。


「いや〜自分、そんな教養もないし話してて面白くもないっすよ?」

「あら、そんなことないわ。冒険のお話とかまた聞きたいわ。とってもワクワクするもの」

「いやあ、血なまぐさいだけっすよ?」


 でもその血なまぐさい話を、確かに興味深そうにお聞き下さるんすよねえ。


「それにね、商会のお仕事のお話も、貴女たち下位貴族の普段の生活の様子も、わたくしには知らなかったことばかりでとっても興味深いわ」


 そう、公女さまはやたらと商会の商売の話や、男爵家の日常の話なんかをねだって来るんすよね。まるで、今後ご自分が・・・・そういう・・・・送る・・ために学んでるみたいっす。


「だから、もっともっとたくさん教えて欲しいの。歳の近い貴女だから話も聞きやすいし、これから長い・・付き合い・・・・になる・・・のだから。……ね?」


 くぅ〜!そんな風に可愛くお願いされたら断れねえじゃねえっすかぁ!



 結局、公女さまに請われるままに男爵家の普段の生活の話とか使用人や従業員の紹介とか、領内の代官に引き合わせたりとか、色々やらされるハメになったっす。何故だか旦那さまにもお教えしてやれって言われて、それでホントに公女さまに常に連れ回されるようになったっす。

 そうこうしてるうちに、公女さまは旦那さまについて商売のイロハまで学ぶようになったっす。つうことはやっぱこれ、そういう・・・・っすよね。


「公女さま」

「なあに?というかアントニアと呼んでいいと言っているでしょう?」


 いや無理っす。畏れ多くて名前呼びとかホント無理っす。


「もう、構わないと言っているのに。わたくしたちは義姉妹しまいになるのだから」

「…………やっぱ、ご主……タイチさまのことを狙ってる・・・・んすね」

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