03.無事確保できたっす

 公女さまを乗せた馬車は案の定、北の森へと向かってるっすね。あそこが一番近いし、馬車でも夜明けまでに戻れるっすもんね。

 いやぁでも、使われたのが馬車で良かったっすわ。馬じゃなくて脚竜きゃくりゅうの曳く脚竜車なんて使われてたらまず追いつけねえっすもん。


 街道をしばらく走って、馬車は北の森へ着いて…………いや中まで連れてくんすか!?そりゃ確かに森の外へ下ろしてもドレス姿のままだから目立つっすけど、それガチで処刑と変わんねっすよ!?

 あーもう、しょうがねえっすな。森の中まで追いかけたらさすがにバレかねないっすから、手近な茂みに隠れて様子見るっす。[感知]の魔術で公女さまや騎士たちの霊力オドを探って……と、そんな奥までは行ってないっすね。もう止まってるっす。


 あ、動き出したっすね。騎士たちがこっちに戻ってくるっす。後にはポツンと反応がひとつ。ホントに公女さま置いてきちゃったんすね。

 でも反応があるってことは直接殺されたりしてないってことで、その点ホッとしたっす。死んじゃったら霊力反応も消えるっすから、どこにいるか分かんなくなっちまうっすからね。



 空の馬車と騎士たちが森から出て走り去るのを見届けてから、森の中へ入るっす。公女さまは少しだけ移動して、でもすぐに歩けなくなったのか、1ヶ所に留まってるっすね。

 姿を隠すための[遮界]を解いて、[強化]に延長かけて、森の中のもう使われなくなった旧街道を少し行けば、公女さまが街道脇の広場に蹲ってるのが見えたっす。静かな夜の森で、わざと足音立てたもんだから公女さまビクッとなってすぐに立ち上がったっすね。


「公女さま、ご無事で?」


 敵意がないことを示すためにわざと声をかけたっす。


「何者ですか!?」


 当然の誰何すいかの声。


「わたくし、先ほどの会場におりました者です。公女さまに万が一があってはならぬと、我が義兄あにに命じられてここまで後をつけて来たのです」


 公女さまの御前まで進み出て、跪いて頭を垂れたら明らかに安堵したご様子で。


「どなたか存じませんが、わざわざ来てくれたのですか。見苦しいところを見せた、無様なわたくしのために」

「差し出がましいとは存じますが、このような危険な森に貴女様をおひとりで放り出すわけには参りませんから」

「その気遣いが、今のわたくしにとってどれほど心強いか。御礼を申し上げねばなりませんわね」


「まだでございますよ、公女さま」

「えっ?」

「魔獣どもが目ざとくも気付いたようです。森の外まで逃げましょう」


 まだ発動中の[感知]が生命の接近を捉えたっす。数は……6から8、これは魔獣じゃなくて黒狼、ただの獣っすね。こんな小さな群れなら雑魚っすけど、公女さまを守りながらじゃあちっと厳しいっすね。

 あ、自分、商会の仕事の傍ら冒険者もやってるんすよね。未成年の頃から歳サバ読んで、学園が暑季なつの休暇に入る時期だけの限定って感じで。

 元はオヤジが冒険者だったんすよね。それが護衛の仕事が元で旦那さまに気に入られて、雇われて商会に入って、結婚して自分が生まれて。それで自分も年頃になってからオヤジに色々手ほどき受けたっす。最初はご主人の護衛の役にも立つかなと思って始めたんすけど、意外と性に合ってたみたいで、今じゃ暇を見てはギルドに顔出してソロで依頼受けたりもしてるっす。


 公女さまのお手を引いて旧街道に出て、足早に森の外を目指したっす。けど使われなくなった旧道はだいぶ荒れてて、公女さまはすぐに歩けなくなったっす。まあ仕方ないっすよね、まだ夜会用のヒールのあるドレスシューズのまんまっすから。

 ということで、ちょっと失礼して公女さまを横抱きに抱え上げたっす。


「きゃ!」


 驚いてしがみついてきて、いやすげぇ可愛いっすね公女さま。てかちゃんと食べてます?思ったよりめっちゃ軽いんすけど?


「ぶ、無礼者!下ろしなさい!」

「でも公女さま、そのお靴ではもう歩けないでしょう?」

「そ、そうですが、それでも!殿方に気安く触れさせるなど⸺」


「あ、大丈夫っすよ」

「えっ?」

「自分、こう見えても・・・・・・女なんで」


 そりゃあねえ、髪も短く切り揃えて鎧着て剣まで腰に下げてりゃ、夜闇の中では男にしか見えんっすよね。

 ちなみにパーティーの会場で付けてたウィッグは馬車の中っす。着てたドレスやシューズなんかと一緒に置いてきたっすから、後で回収するっす。


「そ、そう言えば、声が……」

「はい。なので今少しご辛抱下さいませ」


 そう言い置いて、森の外まで一気に駆け出したっす。

 黒狼の群れは、結局追いかけて来なかったっすね。

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