02.追跡するっす

「…………おい」


 あ、隣にいるお義兄にいさま……じゃなかったご主人がお呼びっすね。


「はい、何です坊っちゃん」

「人集めて、公女さまの後追いかけろ。多分王都ここから一番近い国境まで護送されてポイされるから、護送が帰ったところで保護・・して来い」

「護送じゃなくて、バッサリ・・・・だったらどうしますか?」


 殿下のあの調子だと、それも充分考えられそうっす。


「さすがにそれは公爵家の離反を招くからやらんと思うが、もしそうなったら証拠・・集めて・・・

「了解」

「くれぐれもバレんなよ。あと公爵家にもご注進入れろ」

「分かりました」


 頭ん中で喋る時はこんな・・・っすけど、口に出す言葉はしゃんとしてる・・・・・・・んすよ、これでも。

 ……え?んなこと聞いてない?

 ちなみに「坊っちゃん」って呼びかけたのは、お義兄さまの言葉が義兄としてではなくご主人としての言葉だと分かったからっす。そういう細かいニュアンスや雰囲気もちゃんと拾えてこそ、立派な使用人と言えるっす!


 とか何とかやってるうちに、公女さまは抵抗むなしく会場を連れ出されて行っちゃったっすね。その後ろ姿に罵声を浴びせかけた勇者・・が何人かいて、自分も顔は覚えたっすけど公女さまが睨みつけてたから、ありゃ確実に覚えられたっすね。

 あーあ、ご愁傷さまっす。公爵家に睨まれて破滅っすねえ、あの人たち。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 公女さまが連れ出されるゴタゴタのスキをついて、自分もコッソリ会場を出たっす。廊下の向こうで公女さまを連行しながら、騎士たちが平謝りしてるのが見えるっす。公女さまは少し落ち着かれたのか、「貴方達は命に従っただけですから気にしてはなりません」とか言ってて、すっかりいつもの凛々しい公女さまに戻ってるっすね。

 あっだけど、公女さまが一旦控室に戻って侍女たちに話を通したいってお願いしたのは拒否されたっす。いやいやそりゃマズいっすよ、公爵家に連絡も繋がせないとか、そんなの完全に暗殺する宣言じゃないっすか!

 うわあヤバいっす。これ王家と公爵家で戦争になるっすよ!


 えっまさかこのまま城外まで連れ出すんすか!?ていうか裏門にすでに馬車待たせてるとかマジっすか!?そんなの完全に最初から・・・・その・・つもり・・・で準備してたって事じゃないっすか!

 殿下なんでそういうとこだけ準備いいんすか!そんなに公女さまが憎かったんすか!?

 ていうか、うわマジで公女さま馬車に乗せられちゃったっす。あれよあれよという間に馬車は走り出して、こんなん人集める暇なんてあるわけないじゃないっすか!


 しょうがなく、一旦その場を離れて厩舎に駆けて行って、厩舎脇の控室で待機してる男爵家の御者さんに公爵家にご注進に行ってもらうことにしたっす。人集める暇もないし、居場所が分かっててすぐ動いてもらえるのなんてこの御者さんしかいないっす。「あなたはどうなさるので」って言われたから「公女さまを走って・・・追いかける・・・・・」って答えたら呆れられたけど、そんなの構ってる余裕ねえっす。

 城門から徒歩で出られるわけもないっすから、出るまでは御者さんに乗せてもらったっすけど、その後は別れたっす。馬車の中で手早く着替えて、念のために積み込んであった予備の片手剣と革鎧を装備して、馬車を下ろしてもらってから王都の門まで走るっす。


 普通は夜間に街の門なんて開けてもらえねえっすけど、冒険者だけは例外っす。自分の身は守れるし、万が一外に出して死なれたとしても、冒険者なら自己責任だから門衛にお咎めはないんすよね。

 そうして街道沿いで護送馬車を探すっす。公女さまの護送馬車は裏門からだから、多分王族専用門を使って、このタイミングだと連絡道からそろそろ街道筋に…………いたっす!

 走り去る馬車を見ながら自分自身に[強化]の魔術をかけて、しばらく追っていたら馬車の周囲を固めてる騎士たちが周囲を警戒し始めたっす。いや今頃警戒したって遅すぎなんすけど、バレるわけにもいかないから[遮界]も発動させて…………と。よし、バレてないっすね!

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