第七十二話 終曲
真っ白な霧の中で私はたたずんでいた
ここはどこ?
問いかけに誰も答えてくれない
下を向いても自分の身体すら見えないほどの濃い霧
足元の感触は小さな丸い石の敷き詰められた場所?
でも何も見えない
しばらく何もしないでたたずんでいると少し霧が晴れてきた
次第に私の姿が露わになる
黒い丸い石の敷き詰められて場所で私は全裸で立っていた
体中にベトベトの体液が粘りついている
でも寒くもなく暑くもなくちょうどいい感じの体感
そしてそんな身体はあちこちが変な方向に曲がったり右わき腹がベッコリ凹んだりしている
これは私絶対死んでるな・・・なんて他人事のような感覚で考えた
そのまままたもうしばらくすると白い霧がもう少し晴れて目の前に静かにとうとうと流れる川が見えた
その川の中に誰かがいる・・・
誰だろうか・・・
少し近寄るとそこに早千江が居た
左腕の肉がごっそり削げ落ちた全裸で全身の肌が紫色した早千江が
そして、そんな早千江が私に気がつく
ぷぷっと早千江が笑う
「朱音、何その恰好?酷いよ」
クスクス笑っている
私も笑い返してやる
「早千江こそなにその恰好」
「紫色のゾンビじゃん」
お互いに駆け寄る
「朱音、身体くさい・・・」
「早千江も、なんか腐ったような変なにおいする」
二人して大笑いした
するともう少し霧が晴れてくる
川向うに人影が見える
その人影はこちらに気がついたのか
川をジャバジャバと歩いて渡ってきた
周平だった
右肩の肉がごっそり削げ落ちて、右顔面が無くなって、腹部もごっそり中身が無くなっている
「サチも朱音も酷い格好なうえにくさいよ」
二人は顔を見合わせてから
声をそろえて言う
「お前が言うな!」
三人でゲラゲラ笑った
それから三人が近づく
手を取り合ってみると三人ともすごく奇麗な体に戻った
ボロボロの傷が消え
欠損した身体の部分が元に戻り
皮膚の血色が奇麗なごく薄いピンク色になる
あちこちあらぬ方向に曲がっていた手足も元通りに
そのまま三人で抱き合う
互いの温もりを確かめ合うように
互いの愛を確かめ合うように
三人とも涙が流れて止まらなくなる
どのくらいそうしてたのか
判らないほど時間がたったような気がした
とうとうと流れる川のすぐ横の黒い小さな丸い石の敷き詰められた場所
そこで三人はとにかく抱き合っていた
互いのぬくもりを感じて逃がさない様に
強くきつく優しく抱き合った
周平が突然号泣し始める
「どうしたの周平」
「どうしたの周平くん」
とめどなく涙を流し嗚咽を漏らし泣きじゃくる周平
「サチを守り切れなかった・・・」
「僕はダメな奴だ・・・」
「そんなことないよ・・・私嬉しかったよ・・・」
「ただ・・・強大すぎた・・・」
「うん・・・全く無力だった」
「ごめん・・・」
「もうやめて、どうしようもなかった・・・」
「ただそれだけだったの」
「幸せにしてあげられなかった・・・」
「周平!しっかりして!!私はあの瞬間までとっても幸せだったよ!!!」
「だって大好きな人に大好きになってもらってずっとそばに居させてもらえたもの」
「だから、自分のこと責めないで」
「・・・うん・・・」
それでもまだ周平は泣きじゃくる
「朱音のこと守ってあげられなかった」
「それは・・・」
早千江も
「どうしようもなかったね・・・」
としか言えない
朱音は言葉をつなげた
「でもね・・・周平くんへの思いは本物だよ」
「あんな無理やり作られたものじゃあなく本物だった」
「そして最後に自分の気持ちに身体方を引き寄せた」
「大切な心を守り抜いたの」
「それは私の中の周平くんへの思いを周平くんが強くしてくれたから」
「なんか無理やりだけど・・・でも・・・これが私の心」
「だからもう泣かないで」
「そんな周平くんを好きになった私は幸せだったよ」
「だから、自分のこと責めないで」
「・・・うん・・・」
またしばらく抱き合っていた
互いの愛をかけがえのない相手に伝えるため
互いの温もりを相手に伝えて忘れない様に
気がつくと今度は三人とも高校の時の制服を着ている
三人は誰からともなく声をそろえて言う
「今度は絶対に三人で幸せになろうね」
「絶対に」
早千江が言う
「朱音が朱音だと判るように目印つけるね」
そう言って朱音の右腕に触れるとあざが付いた
「私の目印はこれ」
そう言うと早千江は左腕のあざを見せた
「そして周平の目印はこれ」
そう言って朱音と早千江が周平の右肩の首近くに触れるとそこにあざが付いた
「この目印で絶対にまた会おうね」
「愛してるサチ」
「愛してる周平」
「愛してる朱音」
「愛してるよ周平くん」
三人を真っ白い光が包んでいく
光の中三人は強く優しく抱き合い
そして口づけを交わしながら光の中に溶けて行った
~~~~~~~~~
次回は「エピローグ」です
物語完結です
00:15公開予定です
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