第七十話 夢が流れる
私の勤める診療所に私の昼休み中に電話がかかってきたことがあった
電話の相手は出るなりいきなり私の名前を告げて、いるかどうか聞いてきたそうだ
私は前もって同じ職場のスタッフに私の名前を告げてかかってきた電話は何も言わずに切ってもらうように頼んでいたが、電話を取った郡家さんがうっかり何かしゃべってしまって慌てて切ったと話していた
ただその話が私の耳に届いたのは電話があった次の日の十時の午前休憩の時だった
私はすぐにそのことを周平に伝える
周平はすぐに迎えに行くと言って電話を切る
なにか相当慌てているようだった
その連絡から一時間後
すごく慌てた周平が迎えに来てくれる
挨拶もそこそこにすぐに車に飛び乗ると周平が車を走らせ始める
「どうしたの?」
「ニュースで言ってたけど朱音が自殺した・・・」
私は絶句する・・・
「そんな・・・朱音が自殺するなんて・・・」
「何かの間違いよね・・・?」
「報道ではあんまり詳しく言ってないけど、どうも相当非道い目にあって自殺に追い込まれたみたい・・・」
「追い込んだ犯人は親父だと・・・」
私はあわててネットニュースを検索する・・・
「極めて非道なレイプが!」とか
「女子大生全裸飛び込み自殺!!」とか
「犯人の男は第二の犯罪のため北に向かったか?」とかのセンセーショナルな見出しがネット上に氾濫している・・・
頭がくらくらする・・・
「朱音が・・・父に・・・レイプ・・・」
「そんな・・・非道い・・・非道すぎる・・・」
「その親父は、昨日の電話のあった時間帯くらいに朱音の自殺現場付近から姿を消したらしい」
「警察発表では北海道に向かったと言ってた」
「電話があったのが昨日の昼だから最速で今日の十一時過ぎにはここに現れる」
「えっ?」
「時間の余裕がない」
「とりあえず北に向かうよ」
「うん」
「サチは絶対守るから」
「周平・・・好きよ」
「僕もサチを愛してる」
「繰り返すけど絶対守るよ」
そうしていつもより早いペースで北に向かう国道を飛ばしていると
カーブを曲がった先にエゾシカが飛び出してきた
とっさに急ブレーキをかけて避けようとする
何とかエゾシカは避けきったが路外に飛び出してしまい車は動かなくなった
私と周平はエアバッグのおかげでケガはなかったが
逃亡に必要な車がいきなり無くなった
周平がここを少し戻ると開拓時代の峠の旧道があるのでそっちを徒歩で通れば追跡を出し抜けるかもしれないという
車がない以上選択肢はそれしかない
「ニュースでは警察の追跡も追いついて来てるみたいだしギリで間に合うかも」
と楽観的な考えを示して安心させようとしてくれる
私は引きつった笑みを浮かべるしかない
両脇を森に囲まれた車一台分ぐらいの幅の砂利の旧道を峠に向かって歩いていると
私の横の草むらでガサゴソと音が鳴った
ビクリとしながらそちらを恐る恐る見るとそこにエゾシカの群れがいた
またしばらく歩くと横の草むらでガサゴソと音がする
俺は道東のターミナル駅を降りるとすぐにタクシーを捕まえて
「○○診療所へ」
と伝える
フードを目深にかぶり顔を見られないようにしているが運転手の目がバックミラー越しにこっちを凝視してくる
タクシーの無線機からは警察からの連絡で指名手配犯がこの街に入ったかもしれないとの情報が来たので注意するようにと告げている
運転手は運転しながらラジオのニュースで繰り返される逃亡犯の特徴を聞きながらしきりにバックミラーを見てくる
前方百メートルくらいに○○診療所の看板が見えたところで運転手がタクシーを止めてしまう
俺は焦ってタクシーから降りようとする、それを運転手が妨害しようとする
そうこうしていると診療所の駐車場から軽のワンボックスがすごい勢いで飛び出し北へと走り去った
そう言えばあの女のスマホのSNSで周平たちの北海道暮らしの画像に同じ軽ワンボックスが写っていたのを思い出した
逃げられた!
このくそ運転手が!俺の邪魔をしやがって!!ぶっ殺してやる
俺はタクシー運転手の後頭部を女のスマホの角で力一杯に何度も何度も殴りつける
頭部から血が吹き出し、俺は血だらけになりながらようやくタクシーを離れられる
そして診療所の駐車場にたどり着くと
30代くらいの女がちょうど車に乗り込もうとしているところなので診療所の庭のこぶし大の石を拾うと、車に乗り込む途中の女に襲い掛かる
後頭部を手に持った石で何度も何度も殴りつける
頭から血しぶきが出て俺にかかる
それでもかまわず殴り続けると女が動かなくなった
そこで石を手放し
うつ伏せに倒れた女の身体の下になったカバンを探るため仰向けにする
女の胸には名札があり『若桜』と書かれていた
その女のカバンから車のキーを奪うとその車に乗り込み発進させる
あの黒い軽ワンボックス車を追う
それからしばらく走ると道端に黒いワンボックスが道から飛び出して停車しているのを見つける
俺は車を止めナビの画面を見ると少し手前から旧道のような細い線が通っているのを見つけた
周平のことだこっちに行ったな・・・
今日中に追いついてあいつの目の前で早千江を奪ってやる
目の前でヤッてヤッてヤリまくってやる
そして早千江が目の前で堕ちたらどんな顔をするだろう
下半身がゾクゾクウズウズと疼く
そんなことを考えながら歩くと
パトカーが何台も現れ俺を取り囲む
「小澤嘉一郎だな?」
「それがどおした?」
私服の刑事が逮捕状を示しながら
「三浦朱音に対する誘拐・監禁・不同意性交の容疑で逮捕する」
と告げてきた
俺はとっさに走って旧道を逃げようとしたが直ぐに警察官に取り押さえられて手錠を掛けられてパトカーに押し込まれた
ああ・・・
俺のお楽しみは終わった・・・
早千江と周平に迫る危機は回避された
はずだった・・・
あの二人を救助するためか、俺の押し込まれたパトカーの横をハンターを伴った警察官たちが旧道を峠に向かっていくのが見える
どうしてハンターが居るんだ・・・?
~~~~~~~~~
次回は「愛し合う二人」です
ラストスパート16:15公開予定です
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