第六十八話 悲劇
私は何度も何度も周平くんに愛されて果てていた
身体の芯に刻み込まれた快感が、身体を貫き脳天に突き刺さるたび快楽に溺れる
目の前で私を愛してくれている周平くん
白髪交じりの周平くん
・・・
何かがおかしい・・・
そう感じ始めた
その反面身体は刻み込まれた快感に反応し無理やり快楽を貪らされている
でも、冷静な脳の一部が警告を発してくる
何かがおかしいと
でもそんな考えはお構いなしに快楽が脳を襲い溺れる
何度訪れたか判らない快楽の限界突破
脳がそれを貪り溺れる中、ほんのわずかな理性が周平くんではない男が目の前にいると結論付けた
そしてまた身体の芯に刻み込まれた快感が波のように押し寄せる中
目の前の周平くん以外の中年男がそれを私に注ぎ込んでいるとんでもない現実の嫌悪感に私は絶望の絶叫を上げた
「ぎやぁぁああああああああああああああああああああああああああ・・・・・・・・!!!!」
「いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!」
「離して!やめて!!嫌よ!!!」
そんな私の声と裏腹に身体は送り込まれる快感に嗚咽を漏らす
「うっ・・・あっ・・・いや!!・・・うぅ・・・あん・・・いやぁ!!」
心が発する嫌悪感と身体が発する快感が混ざり合い頭をぐちゃぐちゃにする
そんな訳の分からない状態が心の絶望と身体の快楽をそれぞれ加速する
そして身体の快楽が心の絶望を勝り絶望の絶叫の中快楽の限界を突破する
それ以後、そんなことを何度も繰り返させられた・・・
もう声も枯れ果て息も絶え絶えになり
絶望に染められた嫌悪感の中、与え続けられる刻み込まれた快感に塗りこめられた快楽に溺れる
いったいどのくらいの時間そんな地獄にいたのか・・・
遠くで踏切の警報音が鳴り響く
列車が通過する轟音
そんな騒音が遠ざかると聞こえる寝息
ここは踏切の近くなんだ
私の身体は汚れ切っている
身体の表面も中も全身、この中年男と自分自身の体液でべとべとになっている
いったい何時間・・・いや・・・何日こんなことを続けさせられてたのか
もう、あの愛する人の基に行けない
汚れてしまった
残念ながら私の身体は忘れることのできない快楽に完全に支配されてしまった
心は周平くんの元にあるのに・・・
私の脳内を絶望が支配する
異常事態に気がつく前の記憶は混濁してよく思い出せない
でも幸い私はスマホのパスロックの解除をしていない
ふと思い浮かんだ考えを実行するなら今だ
今を置いて他にない
私は飛び起きるとよく知らないアパートの玄関へとダッシュする
身体にぬめりつく体液がしたたり落ち足を滑らせ玄関前で転倒する
それでも急いで立ち上がり玄関扉の鍵を開け、チェーンロックを外す
扉を開けようとするその瞬間腕が捕まれる
あの中年男がそこにいた
「きゃああああああああああああああああああ!!!!!!!」
「離して!!汚らわしい!!」
私は必死になって暴れ右足を蹴り上げる
直撃はしなかったが中年男の股間を掠る
それだけで中年男をひるませるには十分だった
私は玄関ドアを開け放ち外に飛び出す
時間は判らないが昼間だった
「きゃあああああ!!!!!!!!!」
「いったいなんだ!!!」
若い男女が玄関のすぐ外
共用廊下にいて飛び出してきた私に驚き
女性が悲鳴を上げる
私はそんな男女にかまわず共用階段にすぐにダッシュする
悲鳴を上げた女性の連れの男性はあまりの異常事態にすぐに警察に通報する
「たったいま全裸の女性がアパートの外に居ます!場所は・・・」
そんな声が聞こえるが構わず共用階段を転びながら駆け下り道路に出ると
そこから30mほど離れた場所に踏切があるのを見つける
踏切の警報音が鳴り、遮断機が下りているのを確認すると
アスファルト舗装の上を全裸のまま裸足で全力疾走する
足の爪があっという間に剥がれ足の裏の皮が引き裂けて血が流れるが構わない
衆人環視の中私は踏切に到着すると遮断機の下を潜り抜け線路へと入った
右を見ると数十メートル先に列車が迫っているのが見える
アパートでは全裸で外に出て私を止めそこなった中年男が慌てて室内に戻るのが見えた
冷静な頭がスマホも道連れにしそこなったことを後悔していた
踏切の周りでは歩行者や自動車の運転手たちが絶叫し
迫りくる列車の乗務員が驚愕の表情を浮かべている
けたたましく鳴り響く警笛
車輪とレールの間で輝く火花
周平くんに会いたいよ・・・
会って話したいよ
早千江に会いたいよ
会っていっぱいからかいたいよ
困った姉弟だってまた言ってやりたい・・・最大限の親しみを込めて
周平くんにもっと好きだって伝えたい
いっぱいいっぱい伝えたい
愛してるって伝えたい
抱きついて甘えたい
頭をなでてもらいたい
キスしてほしい
いっぱい・・・キスしてほしい
あの優しいキスを
あの蕩けるようなキスを
触れるか触れないかのようなキスの繰り返しの後の濃厚な情熱的なキスを
そんな中で私の身体に愛を注ぎ込んでもらいたかった・・・
周平くんの愛を
私も全力でそれに応える
周平くんの背中にしがみついて自分から貪るように愛を求めぶつけあう
そんな情熱的な愛が私を包み込む
そして耳元で周平くんが囁くの
「朱音・・・愛してる・・・」って
そしたら私も周平くんの耳元で囁くの
「周平くん・・・私も愛してる・・・」って
そうして私の全身を・・・
私のこころを・・・
周平くんの愛で・・・
私自身の周平くんへの愛で・・・
満たしていくの
いっぱい・・・いっぱいに・・・
蕩けるような愛で・・・
いっぱいに・・・
私は迫りくる列車の前頭部を間近に見ながら周平くんの愛に包まれた恍惚の表情を浮かべる
唐突に襲い来るすさまじい衝撃が私の意識を瞬時に刈り取り
魂を失った私の汚されつくした身体が弾き飛ばされる
最初に上半身が車体と激突し、頭部が脛椎を破壊しながら次に車体と激突、ほぼ同時に下半身も排障器と激突する
その過程で全身のあらゆる骨が砕け身体中がクタクタになっていた
そんな身体は幸いにも列車の下に飛び込まず、踏切や周辺にいる人々にも衝突しなかった
すさまじい速度で弾き飛ばされた私の身体は架線を支える柱に激突して停止し
そのすぐ下にぼろ雑巾のように落下する
妙に冷静で・・・
そして、なぜだか妙に鳥瞰的な第三者のような目線で
無残な姿で横たわる自分の汚れきった身体を眺めながら私は思った
ああぁ・・・私と周平くんって出会いも終わりも両方とも踏切なんだなぁって
最後の瞬間まで
私は周平くんと早千江の秘密を守れた
そう思っていた
~~~~~~~~~
次回は「悲劇から崩壊へ」です
明日は連続で5話投稿して一気にラストまで行きます
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