第六十三話 そして北海道へ

短大の卒業式当日


僕はサチを連れてアパートを車で出発すると短大に向かった


サチは買ったばかりの新品のスーツで卒業式に出席する


それに付き添うのは僕だけ

でもサチはそれでいいと言う

いや、それが良いと言う


そして卒業証書を受け取ると△△県のアパートに・・・『家』に帰る


住民票も戸籍も移したそこが僕たちの家だ


帰る場所はもうそこだった


生まれ育ったこの街

もう自分たちの帰る場所ではなくなったその街を去る


その最後に朱音と三人で過ごす

思い出のあの喫茶店で


「卒業おめでとう、早千江、そして周平くん」


「ありがとう朱音」


「私はまだ大学があと二年あるからこの街で頑張る」

「それでね・・・その後なんだけど・・・」


朱音は何か言いにくそうにしている


実は既にサチから僕はこの後朱音が提案してくる内容を大筋は聞いている


そしてサチとも相談した結果

こんな僕のことを慕ってくれる朱音がかまわないのなら

僕はその提案を受け入れるつもりだった


「私も、卒業したら周平くんのもとに行こうと思ってるの」

「もちろん早千江が居るのは判っているし、周平くんが早千江を大切にしているのも判ってる」

「けど・・・それでも・・・私は周平くんのもとに居たいの」

「だから・・・お願い・・・二年後に私もそばに居させてください」

「早千江から聞いてるの、二年後には北海道に移住している予定だって」

「だから私も北海道に行く」

「大好きなんです周平くんが」

「私もそばに置いてください・・・お願いします」


朱音の言葉に僕は応える

「こんな僕のことをそこまで慕ってくれる朱音のこと、僕も好きだよ」

「だから・・・こんな僕で良ければそばに居てください」

「サチも朱音と三人でいることが幸せだって言ってくれてるし」


サチがその続きを受ける

「朱音、あなたなら私と周平の間に割り込んできても許してあげる」

「だから私たちのとこに来て、一緒に暮らそ?」

「三人でわいわいがやがやと」

「だって朱音は私たちの一番の理解者だもの」


それを聞いて朱音は涙を流す

「ありがとう・・・周平くん」

「ありがとう・・・早千江」

「二人の間に邪魔しに行くよ!」

「覚悟していてよね、さん」









この年、僕たちは来年ここからも失踪し行方をくらますための準備期間としてがむしゃらに働いてお金を貯めた


それと、僕の持つ消防設備士の資格を乙種四類から甲種四類にして設備関連の職で食べていけるだけの準備も行った


サチの方も、失踪先で職に困らないよう医療事務の通信講座を受けて診療報酬請求事務能力認定試験の合格を取得した


そして、次の年の夏、有給休暇を二人同時に取得し、北海道へ行く


職場には旅行に行くと伝えているが、実際は転職の面接受け


新千歳空港から特急に乗り継ぎ道東の目的の街へ


ターミナル駅でレンタカーを借りて行動力を確保する


僕もサチも何カ所か受けてお互いに二か月後の月初から勤務で合格した

僕は地域の病院の常駐施設管理スタッフとして

サチは街の診療所の受付事務員として


僕らは早速ある程度目星をつけておいたアパートの見学を賃貸業者に申し込む

その一件目で家賃三万円で風呂トイレ別の2LDKのボロアパートに決める


即日入居が可能なので最初の独立時と同じように家電などを購入し移住の準備を進める

今回はのちに朱音が合流するのに備えて広めの部屋にしておいた


車もこちらの環境に合わせた寒冷地仕様車にするためネットで道内で適当な軽ワンボックスを購入する手続きを行った


多少ぼろくてもある程度なら自分で修理出来るのでネットで十分と考え納車日を調整して、移住の段階で空港から車屋に寄り、車を受け取って道東の街まで移動する段取りをつけた


こうして移住先の準備を整えると、△△県□□市の家に戻り退職の手続きとアパート解約の手続きを行う


また住民票と戸籍の移動も準備した

それと、二人のスマホも新しいものを新規契約し番号を変えて新しい勤務先に電話番号の変更と、新住所を伝える


そして、移住当日


僕たちは新千歳空港に到着した

そこから北広島の郊外の中古車屋さんで車を受け取るため北広島まで列車で移動する

北広島の駅で中古車屋さんが迎えてくれるのでその車で移動し車の最終チェックをして納車受け


そこから道東の街を目指し国道274号線を東へと向かう

日勝峠を越え広大な十勝へ

十勝清水からは国道38号線で東へ


僕は移動は基本的に高速道路は使わない

景色の変化を楽しんで走りたいから

そして、今日から僕たちが暮らす街へ到着する


~~~~~~~~~

次回は「新たな生活」です

これで第三章完結です

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