第五十九話 闇からの救出

突然男の一人がくぐもったうめき声を上げて突っ伏したのが視界の片隅に見える


「なんだよお前!」


私たちを襲おうとする男のもう一人が叫ぶ

だがすぐにその男もうめき声を上げて倒れる・・・


何が起こってるの?


「お前さっきの居酒屋にいた工員のやろーだな?」

「俺たちの話聞いてて自分もやりたくなったのなら一緒にやればいいじゃないか・・・?」

「いまならJD二人をやりたい放題だぜ?」


下衆な笑いが響く


だがすぐに衝撃音がして男がくぐもったうめき声を上げる


それからしばらく殴る音と男たちのうめき声が漏れて

そのうち殴る音だけに変わる・・・


それから男たちが私たちを縛るのに使ったテープの音が何度もして

静かになった


静かな中

でもなぜか早千江の安心したようなくぐもった声が聞こえる

「ふふへひ?」


テープが剥がされる音

「サチ?無事か?」

周平くんの声がした


早千江が大声で叫ぶ

「周平!!!!!」

「うん・・・うん・・・間に合ったよ・・・周平・・・間に合った・・・」

後ろ手に縛っているであろうテープが剥がされる音がする


「そっちの朱音もお願い!」


私のもとに周平くんが近づいてくる音がする

「朱音?無事か?」

口のテープが剥がされすぐに腕のテープも剥がされる

「周平くん!!私も無事だよ・・・私も無事・・・大丈夫・・・大丈夫なんだよ・・・」


私は素っ裸なのも忘れて周平くんに抱きつく

そして大声をあげて泣いた

抱きついて胸に顔を埋めていっぱい泣いた


そんな私のすぐ横に早千江も来て抱きついて泣いていた


二人とも酷い姿だったがそんなことよりも今は縋り付きたかった


優しい胸に縋り付いて酷い目にあわされたことを訴えたかった

優しい腕に抱かれてこの酷い記憶を上書きして安心したかった


そんなやさしい腕は泣きじゃくる私をそっと、でもきつく抱きしめてくれる









泣きじゃくる朱音の隣で私も周平に抱きついていた


優しい周平の腕に抱かれてただただ安心したかった


私はいま酷い格好になっている

隣の朱音も酷い格好だ


二人ともほぼ服は脱がされ、ブラは腕にぶら下がり、ショーツは膝まで下ろされている


それでも、とにかく今は抱いてほしかった、抱いて安心させてほしかった

抱かれて安心したかった


それは朱音も同じようだ


そして、そんな私たちの言葉にしないままただただ抱きつくという行動だけで示している気持ちに

周平はちゃんと応えてくれて

その腕で優しくそっと、でも、強くきつく抱きしめてくれる

その胸に、その腕で


どのくらい経ったのだろうか判らない


気がつくと二人とも泣きやんでいた


鼻をすすりながら指先を周平の胸に這わせ

目の前の朱音と目が合う

朱音は少しはにかんで、でも、しっかりとした瞳で見つめ返してくる


そしてうなづきあうと、上を見上げる

周平の顔を見る

「周平」

「周平くん」

同時に声を出す

「ありがとう」

二人ともいま作れる全力の笑顔で感謝を伝える


本当に嬉しかった

私のヒーローは私を三度危機から救ってくれた

私の彼、私のヒーロー、私の婚約者


その時、朱音が唐突に

「愛してる・・・周平くん・・・」

そうつぶやくのを聞き逃さなかった









泣き止んだ私は目の前の早千江を見つめる


まだ少し泣いている早千江を見つめながら私は周平くんの胸に指を這わせてみる

頼もしい胸


私は何度か鼻をすすると早千江と目が合った

早千江は少し恥ずかしそうにして、すぐに私を見つめ返してくる


助けてくれた彼に感謝を伝えなきゃ・・・

そう言ってるように思えた瞳


私は早千江とうなづきあう

そのまま上を、周平くんの顔を見つめる

「周平」

「周平くん」

同時に声を出す

「ありがとう」

私は泣きはらした目のまま目いっぱいの笑顔を作る


無理して作ってる訳じゃあない

自然と笑顔になる


でも、それでも目いっぱいの笑顔を作る


私の感じて居る感謝はそんなものでは伝えきれない

それでも、ちょっとでも感謝の気持ちを表せられるなら

そんな気持ちの笑顔を


心の底から嬉しい

私の心にいたヒーローの男の子は、たくましい男性のヒーローになってここにいた


そしていま、私を大切そうに優しく強く抱きしめてくれている


私の中のヒーローは新たな進化を遂げていた


でも、そのヒーローは私だけのヒーローではないことも判っていた

早千江のヒーローだと

早千江の彼氏だと


それもまた判っていた


それでも今日、新たに私のヒーローは進化した


思わず呟いてしまう

「愛してる・・・周平くん・・・」


~~~~~~~~~

次回は「友人の愛」です

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