第五十四話 花火の婚約

私が周平にもたれかかって空を見上げていると

空の色が夕焼けから紺碧に変わり、そして黒に染まるころ花火が打ちあがり始めた


赤や黄色、オレンジ、青、緑・・・


色とりどりの大輪の花が間近の夜空に咲き乱れ言葉を失う


気がつくと私は周平の手を強く握りしめていた

指と指を絡めあい強く握りしめていた


汗ばんでいるが気持ち悪いなんて全く思っていない・・・


周平との初めての花火


夜空に輝くキラキラとした光たちが周平の顔を照らし出す

思わず見とれてしまう


花火も・・・周平の顔も・・・


私にとって、もうほかの男性なんてどうでもよくなった


私の危機に立ち向かってくれたのは周平だけ

私を危険から助けてくれたのは周平だけ


そんな周平は私のヒーロー


暗闇でもがいてる私をこの花火のように照らし出し救い出してくれる

私を酷い目に合わせている理不尽を排除して手を差し伸べてくれる


花火のように輝いて見える

「好き・・・」

言葉が出てしまう

「大好き・・・周平」


「僕もサチが大好き・・・」


花火の轟音にかき消されそうになりながらもお互い耳元で囁きあう


お互いの汗ばんだ手のひらを・・・絡めあう指を通じて思いが通じ合う


そんな男性が私の恋人

それが運悪くたまたま私の『弟』だっただけ


もう、そのこともどうでも良くなった


私の気持ちに迷いはない

周平も同じ気持ちだと思う


美しく花開く大輪の花火が・・・それに照らし出される周平が・・・

その思いを強く再認識させてくれる


私にはもう周平以外考えられない


そんなことを考えて花火を見ていると気がつけば最後の花火が上がって消えていた


周平が握りしめていた手を離し、私を抱き寄せながら聞いてくる

「そろそろ帰ろうか?」


「うん・・・大好き・・・」


「へっ?」


「あっ・・・ごめん・・・・ずっと周平のこと考えてて・・・」


「ほえあっ?」


「いや・・・だから・・・私のヒーローって・・・」


「・・・」


「花火に照らされてる周平を見てそう思ってて・・・だから・・・!」

「大好きなの!!」


私からきつく周平に抱きつく

胸に顔を埋めて頭をグリグリする

周平が優しく抱きしめなおしてくれる


「サチ・・・僕もずっと大好きだよ」

やっぱり私のヒーロー・・・







帰路の列車を二回乗り換えて自宅最寄り駅に向かう


列車内は結構空いていて私たちはイスに並んで座っている

隣の周平は何かもぞもぞとしている


「どうしたの?」

「なにか探し物?」

と聞いてみると


何かを手に隠した周平がばつの悪そうな表情でこっちを見てる

「サチに感づかれない様にしたかったけど・・・」

そう言うと周平は少しこちらに身体を向けて

「サチ・・・お誕生日おめでとう」


そう言うと小さな、掌よりも小さな小箱を差し出してくる


「うれしい!ありがとう周平」

小箱を受け取ると

「開けていい?」


周平は黙ってうなづく

ラッピングを取って中の小箱を取り出し、ふたを開ける


ハート型のペリドットがかわいい指輪が入っている


しかもペリドットの両脇には透明の石がはめ込まれている

周平の顔を見てみる


「その両脇の石はダイヤモンドって聞いてる」


「えっ?ダイヤ・・・うそ・・・」

「すごくうれしい!すごくうれしいよ!!周平!!!」

「ありがとう!」


そう言うと列車内なのも忘れて周平に抱きつく


まわりのほかの乗客の視線が刺さる


でもそんなのどうでもいい

私は目いっぱい周平にうれしさを伝えたい

だから抱きついた


そして、しばらくそうした後周平から身体を離す


周平は私の手の中の小箱から指輪を取り出すと私の左手をもう片手でとる


ごくりと息をのむ音が聞こえる

私もドキドキする


周平は指輪を薬指に近づけてくる

私も薬指を指輪がつけやすいように少し上げる


ドキドキドキドキ・・・

新しい指輪が左手薬指に着けられる

ドキドキドキドキドキドキ・・・

周平の手が離れる


「周平?これって・・・」


「サチ、今はまだ・・・だけど・・・将来結婚してほしい・・・ダメかなあ・・・」

「いやっ・・・結婚って本当は出来ないのは知っているけど・・・その・・・気分だけでもって意味で・・・」


私はうれしさのあまり周平の胸に飛び込む


「周平・・・周平の妻にして下さい・・・よろしくお願いします・・・」


こうして私たちは私たちだけでの婚約を行い、誰にも言えないけど婚約者となった・・・


~~~~~~~~~

次回は「短大」です

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