第9話
私は一ヶ月前、その「バケモノ」と遭遇した。
正確には、そのバケモノが巣食うテリトリーに侵入してしまった。
わからなかったんだ。
まさか自分の街に、黒の一帯が及んでいるっていうことが。
学校が終わった帰り道、交差点の先にある古びた電話ボックスから、黒い煙が上がっているのが見えた。
——それが、すべての始まりだった。
「おい、聞いてるのか?」
「…ああ、ごめん」
私たち4人は、『トランスポッド』という時空移動装置から並行世界に飛び、この世界に来ている。
“事件があったとされる2029年、7月”。
この年に、熱海市はある災害に見舞われた。
A級妖魔である「ユラマキキ」が、街の人々の脳を乗っ取り、街全体が暴徒化=一時的に封鎖されるという事態に見舞われたのだ。
私たちが通っている緑間高校の“ある女子生徒”を、発端として。
私が遭遇したのは、その「ユラマキキ」という怪物だった。
2026年のことだった。
1学年上の後藤由紀という先輩が、緑間高校の屋上である日突然飛び降りた。
私はその「現実」を目の当たりにした。
実は、その「日」が来るまで何度も夢を見ていたんだ。
彼女が飛び降りるということ。
その「光景」を、何度も。
まさかと思って、急いで階段を登ったんだ。
…でも、間に合わなかった。
フェンスの向こうで血まみれになっている彼女がいた。
学校中が騒然となっていた。
屋上で飛び降りるような人じゃなかった。
すごく明るくて、いい子だった。
部活ではリーダーを任されるような子だった。
それなのに…
なんで、あんなことが起こったんだろう
そう思いながら、しばらくあの「事件」のことを考え続けていた。
その、矢先だった。
黒い瘴気が立ち上がっている、あの電話ボックスを見つけたのは。
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