第4話
目を開けると、そこは「別世界」だった。
コンクリートも、フェンスも、屋上から見える街の景色も、…後藤さんも、もうそこにはいなかった。
…いや、「いない」という表現は、もしかしたら正しくはないのかもしれない。
しかし、そう形容してしまうほどに忽然と、今の今まで目撃していたものが、——この「目」に映っていたものが、丸ごと姿を消した。
目を開けた瞬間には、「全て」のものが視界からいなくなった。
なにもかも。
色も、匂いも、空気の温度さえも。
…視界からなにかが消えるとか、物が移動するとか、そういうレベルの話じゃない。
目を開けると、私はソファに座っていた。
いつもの定位置に。
お気に入りのビーズクッションを抱きかかえたまま。
あり得ないように聞こえるかもしれないが、屋上のあのフェンスぎわで、目を開けた次の瞬間に起きた現実が、これだ。
…え?
最初、信じられなかった。
無理もない。
突然目の前の景色が変わったのだ。
いつも座っている窓際の席。
カチャカチャと音を立てて、珍しく食器やフライパンを洗っているお父さん。
香代は漫画を読みながら、1人爆笑している。
見慣れた日常の景色の中に帰ってきているということ。
それが「いつ」か、正確に測ることはできないが、少なくともその「時間」や「場所」が、私が今いるべき空間じゃないことは明白だった。
後ろを振り返っても、後藤さんはいない。
騒がしかった学校全体の慌ただしさが面影もなく消えて、穏やかな時間が流れている。
ありふれた日常と、風景。
それが、目の前に溢れて。
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