第2話



 「彼女」が死ぬとわかった時、その結末を見届けることが怖くて足がすくむ。


 目を閉じた瞼の下で、暗闇が訪れる。


 次いで聞こえてきた、誰かの悲鳴声。



 耳を塞ぐ。


 フェンスから遠ざかる。


 心の中で、何度も叫んでいた。



 ダメだダメだダメだダメだ


 ……絶対に、ダメ…!



 迫り来る未来。


 最悪のビジョン。


 変えられたはずの未来の結果を、変えられなかったという思い。


 救うことができたはずの命を、助けられなかったという絶望。


 その「全て」を、否定したいと思った。


 …全部、やり直したいと思った。



 速度を増す重力加速度。



 後藤さんの体にのしかかる約400Nの力が、未来を変えたいと願う私の思考回路と、凄まじい速度で交差する「現在」。


 お互いが、まだ生きていられる時間。


 そして、——距離。



 後藤さんが落下するまでの時間は、何秒もないだろう。


 運命という名の歯車に乗り、世界がひとつの結果と、コンマ1の速度に向かって落下していく。


 この「瞬間」、——私が、目を閉じた瞬間、後藤さんはまだ「空中」にいた。


 恐るべき速度の現在の中に。


 未来へと遠ざかる「1.74秒」。


 彼女の心臓はまだ、動いている。


 空気抵抗を受けながら、


 落下速度 16.117661599342 m/s


 という最中に、浮遊していた。


 「過去」と「未来」の、その両方に触れられる、中間に。

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