スカートの丈を短くするのは、【1巻】

平木明日香

プロローグ

第1話




 屋上にいたはずの時間。それから、距離。


 ひと繋ぎの時空の真ん中に立ちながら、私は手を伸ばしていた。


 まだ、助けられる距離にいた。


 そう思う心と、合致しない現実。



 後藤さんは、すでに自由落下の渦中にいた。


 ボタンを押し、スタートを切ったストップウォッチ。


 その先端のコンマ1の麓に立って、体を地面へと傾けている。



 もう、間に合わない…!



 そう直感したのは、フェンスの向こう側へとダイブする彼女の姿が、突き進む時の針の向こう側へと消えていこうとしていたからだ。


 必死に追いかけたが、すでに届かない場所にいた。


 前方に倒れていく彼女の体の後ろで叫んだのは、もう、彼女のいる「距離」に届くものが、「声」しかないと思ったからだ。



 音の速度。


 1秒に340m進む速さと一緒に、足を前に出す。


 できるだけ前に前に。


 彼女に「近い」ところに。



 でももう、わかっていた。


 「時間」が巻き戻せない位置にあることを。


 現在と未来の中間で、絶対に届かない距離があることを、コンクリートの床の上で感じていた。



 タッタッタッタッタ!!



 フェンスまでたどりつき、走った勢いのままガシャン!!!と、フェンスの金網にぶつかる。



 網を掴んだ両手。


 屋上から落ちた彼女の行方を追う視線の先で、空中に飛び出したその姿を追いかけた。



 生から死へ。



 「現在」から「未来」へと移り変わるいちばん早い時の流れを、止めることもできないまま。

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