第148話 王が選んだ本物
海上に留まったのは四日だった。
戦争と言うのがこんなにも早く終わったことに、驚いてしまう。
私がしたのは初日だけで、その後は特に何も仕事はなかった。船は大人しく沖に停泊していたそうだ。
海ならば水があるので、私も怖くないので長期滞在でも問題はない。
無論、食料には限りがあるのであまり長期戦では困る。念のため食事はみんな最低限だった。
「この後は、戻るのですか?」
飛行船にはレオンの甥っ子も乗っている。何度か一緒に様子を見に行った。母親と離れてぐずることはあったが、慣れた乳母が一緒なので困りきることはない。
子供を母親の許へ送り届けて、その後どうするのだろうか。
「それですが、このまま我々は国に帰ります」
「……子供はどうされるのですか」
「ミモザからは、一年ほど母達に任せたいと事前に話がありました。確認しましたが、現状で国に留めることは危険だと判断し、こちらで守って欲しいとのことです」
「そう……ですか」
貴族は特に乳母に任せることが多い。だが、彼女は子供をとても可愛がっていたように見えた。
私が、何の気なしに言ってしまった言葉の結果、人生が大きく変わってしまった。
「政権交代をしたときが、一番荒れる可能性が高くなります。ミモザは自分の身は守れるでしょうが、子供の身の安全となればより難しくなります。それに、どうしても子供の世話に時間を取られますから……。幸い、飛行船があれば数日で往復ができますから、落ち着けば時間を作って会いに来ることは可能でしょう」
合理性と安全性を考えると、一番なのだろう。それに、レオンの母親が二人もいて、立派に子供を育てた実績があるのだ。
「乳母は既に覚悟をして準備をしていたようですから。こちらから、母達にも連絡は済ませています」
国にも連絡は済まされていて、今回の事態の情報は行っている。
ある程度の事後処理の連絡を取り合った後、飛行船が国に戻るための進路を取った。
もちろん、私は陸の上ではガクブルになった。
王など、守るものと祭るものがいなければただの人なのだ。
城にまで到達した連合軍は、戦うことなく城を占拠しました。
最後に、アクアリオスを殺す罠を張ったが、ぎりぎりで看破されてしまった。残念で仕方ない。もう少しで、マービュリアの王族を根絶やしにできたのに。
「なぜだ。なぜ……」
王座の間で、シーガザヌスが呟いた。
何故か、理由は簡単でしょう。
復讐をされるようなことをしたのが悪い。
胸の間から、魔力を遮る布で作った包みを取り出します。
中には、黒く濁った石が入っています。
「陛下、こちらを」
直接触れないように注意して、彼に渡す。
「これは……」
「最後の神託です。これがあなたに力を与えるでしょう」
言うとドアが開いた。兵士たちが入ってくる。
計画はちっともうまく行かなかった。あれだけ汚いものが流れていくルビアナ国が戦争ではなくアクアリオスと共闘するなど思わなかったのです。ゴミ溜めのような場所で、国王が賢明な判断をできた事、それが一番の想定外でした。
他は諦めましょう。けれど、この城で、この場で、権力を利用して私の人生をめちゃくちゃにした人たちはちゃんとぐちゃぐちゃにしないと気が済まない。
「シーガザヌス様、それにレレン、お久しぶりですね」
入ってきたのは彼の元婚約者だ。なぜかこの石の影響が出ない人です。彼女が城に宿泊した際、魔法陣で鑑定をした結果は白とも黒とも言えない判定でした。念のために、計画の邪魔になる前に退場してもらったはずだというのに、なぜ戻れたのでしょう。
そういえば、曽おばあ様に少し似ていたブルームバレーからきた女は魔法陣に気づかれて検査ができなかったのを思い出した。まさか、偶然来るはずもないと無理に引き留めなかった相手です。
ふと、あの女性と二人で話せていたら、何か分かったのかもしれないと思ってしまった。あり得ない希望を考えていると、もう王とも呼べなくなった人が横で声を荒げた。
「貴様がこの主動を行ったのか! そうまでして私の寵愛を取り戻したかったのか!?」
侮蔑の表情を返すセラフィナがあきれ果てて言い返すこともなく、捕らえるように命令する。
だが、兵士の一人が命令に反して、腕を捕まえられた国王だった男の胸に剣を突き立てた。
「………何を」
頽れる男を横で見降ろす。セラフィナが殺してはなりませんと叫ぶ声がした。けれど、王族を殺したいと思うものが私だけだったら、こんな結末にできなかったろう。
腕を捕まえていた兵士が驚いて手を離すと倒れ込んだそれが手を伸ばした。そこから黒い石粒が落ちて乾いた音を響かせた。
「れ……レレン」
「馬鹿な人」
落ちた石を拾い上げる。
黒い石が、揺らぐ。
「レレンを、レレンを殺しなさい! 危険物を持っています!」
セラフィナの命令で誰かが剣を振り下ろした。
最後に、死ぬことは決まっていた。
ハーレムへ母が連れていかれ疫病に殺された。王たちの私欲のために私の人生がぐちゃぐちゃになったのだから、私が同じことをする権利があるはずでしょう。
でも、それをしたからには私が殺されることも決まっていたこと。
手から、薄く澄んだ緑色に変わった石が零れ落ちる。
私にもあった影響がすっと薄れていくのを感じた。
ああ……最後くらい、お前の所為だと罵ってくれれば、すっきりした気持ちで死ねたのに。
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