第146話 我が聖女の言葉


 ルビアナ国が、アクアリオスの領地に攻め入った。その報告があった翌朝、アクアリオスとルビアナ国の連合軍が王都へ進行しているという情報が飛び込んできた。


「あの男は、ルビアナ国と通じていたというのか!」


 そんな情報はなかった。


「それが……、連合軍の中には、ウォータリス家のセラフィナ様がおられ、彼女が手引きをしたという情報が」


「なんだと」


 婚約者としての義務も果たさず、気位ばかりが高い上、私のレレンへの度重なる嫌がらせと殺害未遂までした女だ。


「ウォータリス家の者を連れてこい。当主の首を切り、あの小娘に送り届けてやれ!」


 命じると、別の者が慌てて部屋に入ってくる。


 これではゆっくりと朝食も取れないではないか。


「うぉ……ウォータリス家が、アクアリオス様の軍に合流、軍への命令を全て……全て停止し、無益な争いを行う必要はないと……各方面に、命じたとのことです」


「な……に」


 ただの貴族の分際で。


「命令を撤回し、王の勅令を出せ! 戦わぬものは全員首を切ってやれ! そうだ……海軍に連絡を取れ、ルビアナ国ではなく後方から回り込み、攻撃をさせるのだ!」


 ルビアナ国を利用した挟み撃ちを予定していた。だが、こちらがルビアナ国もろとも挟みこめばいい。


 兵法を学んだ私にはわかる。その布陣さえ整えば勝ちだ!


「それが……海軍より、謎の海流に巻き込まれ……海洋を彷徨っているとの報告が」


「何を馬鹿な事を!」


 あの船には、最新の推進装置が積まれているのだ。海流程度で流されるわけがない。


「神への捧げものをしなかったのですか?」


 レレンが不安そうに言う。


「そ……それについては確認が取れていません」


 もし、国王や叔父上のハーレムの女性が妊娠していれば、私の治世に問題が出る。そして、最近の不幸は海の神がお怒りだから、捧げものが必要だとレレンが提案した。古い神事にまで詳しい賢いレレンの意見を聞き入れ、ハーレムの女たちは海に捧げることにしたのだ。そんな簡単な事すらできていないのか。


「進めずとも供物は捧げられるだろう! 直ぐに命じろ。くそっ……アクアリオスめ」


 レレンの言う通りやつらはずっとおじい様の崩御を待っていたのだ。


「陛下。ご安心ください。明日には、きっとよい報告が届きます」


「聖女たる其方がいうのならば安心だ。可哀想に怖い思いをしたな」


「いいえ」


 立ち上がると後ろから頭を抱えるように抱き着いてくる。


「目的はきっと果たされますわ。私は、その日が来るのが待ち遠しいですのっ」


 セラフィナにはない包容力と柔らかな胸の感触。


 孤独だった私を唯一理解し寄り添ってくれる少女がいることが、せめてもの慰めだ。


 いずれ、神罰が下るものたちに不安を抱く必要などない。


「明日にはここへアクアリオス達の首を持ってくるのだ! どのような手を使ってもいい! 持ってこれぬというのならば、軍の責任者の首を代わりにもってこい!」


 無能でも、人一人の首を持ってくる程度はできるだろう。


「アクアリオス様は、言い伝えに逆らって炎属性の妻を迎えた方です。この国の王にはなれませんわっ」


「ああ、聖女であるレレンが私と結婚するのだ。王座が私の物であるのは必然だ」



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