第145話 海軍の処理
ぽかんとする職員たちを見ながら苦笑いが漏れる。
こちらが船に勧告すると、船員たちが船から突き落とした人たちを回収し始めた。
シーガザヌス新国王からの勅令で攻めてきたルビアナ国へ対抗するために出向させられていたという。
そこに、アクアリオスを先頭に蜂起が始まったことを伝えただけでは相手はこちらを敵と見なしていただろう。
シーガザヌスからの勅令は他にも出ていた。船員は命令に従い、王族が囲っていたハーレムの女性たちを海に突き落とさなければならなかったのだ。
実際に、それを実行したのは、彼らも同じ目には遭いたくないからだ。
上官からの命令に背いただけでも処罰される。それが王からの命令であれば、断ることは反逆罪と見なされても不思議はない。
だが、もしもこのまま国王が変わればどうか……。
「他にはもういないので進んでいいですよ」
リラが最後の一人が引き上げられたという。
こちらからの救護船の投下はせずに済んだ。この位置からでは、風に流されてしまう可能性が高い。それならばまだいいが、救護対象に直撃したら目も当てられない。
飛行船が推進を始めると、船が一列の船体を組んで進み始めた。
ルビアナ国から離した位置まで連れていく計画だ。何日もリラに魔法を行使させることは現実的ではないが、どの程度この戦いが続くかはわからない。早期解決の可能性が高いとは聞いているが、戦争は一つの戦略で大きく変わる。実際、ルビアナ国がアクアリオスを全面的に支援すると表明し圧倒的不利が覆った。
「レオン様、軍船からですが、王の勅令は三つでもう一つはブルームバレー国へ向かうように言われていたようです」
「我々の国に?」
「詳細はこちらの船隊には知らされていないとのことでした。援軍の要請ではないかとのことです」
こちらの国にはミモザがいる。それを考えると、支援を求める可能性は確かにあるが、その夫であるアクアリオスを陥れる計画を立てていたのだ、考えにくい。
「嫌な予感がするな」
飛行船だけならば、追い付くことは容易だ。推進速度が違う。だが、今は下に並ぶ船と同じ速度を保っている。
「まだ速度に余裕がありますから、速くしますか?」
リラの申し出に頷く。それに対して聞いていた船員が口には出さないが驚いている。
どう船を操っているのか、この場では聞かないことにする。
飛行船で働くものは、運航を専属で行うものと研究職を兼ねているものがいる。どちらもソレイユ家とは機密保持契約をしたうえで雇用している。リラの魔法を他で話すことはないだろうが、研究所内では話す可能性がある。どこからか漏れたとして、細かいことまでは避けたい。
リラは別の場所から水魔法で船を操作してもらおうと思ったが、緊急事態でこちらに呼んでしまった。あれは失態だった。
いつもの半分ほどの速度で進み、日が暮れる前に肉眼でもわかる場所まで船に追いついた。
リラが二隻の船の方向を変え、こちらへ呼び寄せる。
船には船用の通信機がある。それに対応したものは飛行船に積んでいるため、そちらを使って、下手に動けば沈める旨を伝えてある。
「リラ殿、こちらは一先ず大丈夫です。急に呼び出した上に長くすみませんでした」
「そうですね。流石にお腹も空きましたから、お暇します。何かあれば教えてください」
リラが機関室から出て、廊下を歩いて立ち去る時間を、職員たちがぐっと待たれているのを感じる。誰かが質問をする前に、言っておく。
「リラ殿の魔法については口外をしないように。俺にとってリラ殿は父にとってのビオラ母上と同じような存在だと言うことは、肝に銘じるように」
小さな炎を手に持ちながら伝えておく。
公爵である父は、成果を上げれば寛大だが、母上に対して態度が悪いだけでも制裁を加える人だ。その前にいつもそばにいる母さんが切れるが、第二夫人の立場では対応できない場合は容赦なく父にチクり、消し炭にさせる。
「つまり……ご結婚後は研究所に来られるということですか」
研究員としては頭がおかしい部類の一人がはっとしたように呟いた。
大半には、脅しができたが、別の意味で理解した者もいた。
「それは、リラ殿がどう考えるかによる」
リラのあの魔力量、規格外の魔法、そして、淀みと言われた黒い石を浄化する能力。それらを調べることで今後の魔法の常識が変わる可能性もある。だが、リラの価値を高めることに不安もあった。
男としての小さなプライドも全くないわけではない。それ以上に、リラが狙われる可能性が恐ろしい。
俺と正式に婚姻関係になっても、まだ俺が公爵の爵位を継いでいない。爵位を早く継ぎたいと思ったことはなかったというのに、初めて早く公爵になりたいと思ってしまった。
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