第133話 警護の病室
何があったのか、レオン様の警護をしている自分は一回目の崩落までは記憶があった。二回目の崩落で、天井を支えていた角材の柱が崩れた時、咄嗟にレオン様を突き飛ばした。そして下敷きになったのだ。
幽霊にでもなった気分だが、ベッドで足を吊られ、首を固定され、あらゆる場所に包帯を巻かれた男が横たわっている。
「何で、生きてんだ」
ぼそりと漏れた言葉はなんだか変な響きだった。
同時に、一生このままではないかという恐怖が浮かぶ。
「ほんと、何で生きてんだろうな」
聞こえたのは隣のベッドだ。声で、一緒にあの事故に遭った同僚だとわかる。
「れ、レオン様は無事か!?」
「俺の心配はないのかよ」
反対から別の声もする。
その調子から、レオン様もご無事だと判断ができた。
一生寝たきりは嫌だが、守るべき主君が死んだ上で生き残ったという二重の地獄だけは免れた。
「はぁー。お前らの状況は?」
「両足骨折、肋骨三本……失恋」
「左手指骨折。眼底骨折。後、痔」
「俺は……この調子だと首が折れたのか」
ふざけているのか本気かわからないので置いておく。
「左のあごの骨だっけ? 後、足? とか色々」
「さあ、レオン様よりはましだって聞いたぞ」
「レオン様はどうなったんだ」
冗談半分で流されたが、改めて聞く。
「レオン様はまだ意識が戻られていない。詳しくは聞かされていないが、右腕の複雑骨折をしていた」
「……そんな」
「応急処置が良かったらしい。切断にはなっていないそうだ。その後はまだ何も聞いていない。少なくとも安定はしているらしい」
骨が突き出た骨折は、体内での骨折よりもたちが悪い。外の汚れが体内に入って、腕が腐る前に切り落とすこともよくあることだ。
「そんな状況だってのに、なんでお前らはそんな暢気なんだ」
安定していると言っても、ここは他国だ。どの程度医療が整っているかもわからない。何よりも、この国の国王はあからさまに婚約者のリラ様を奪う画策をしていた。怪我が原因で死んだことにされても不思議がない。
「くっ……そりゃあ、レオン様にもようやく春が来たから」
「は?」
「普段強気塩対応のリラ様が、あんなにもレオン様のことを想われていたとは……。正直、レオン様も金で花嫁を買ったのかと心配していたけれど、これで公爵家も安泰だな」
「は?」
二人の言葉に頭が追い付かない。後なぜか一人は全く嬉しくなさそうだ。
とりあえず、俺は見た目よりは軽傷らしい。いや大怪我ではあるのだろうが。
「ああ、助け出された時にリラ様がいたのか」
気を失っていたが、救助された後、駆け寄ってきたのか。
「いや、リラ様が助けに来た」
「あの方の魔法は、もう魔法と呼んでいいのかわからん。あんな短時間で、あの距離を採掘したとは、末恐ろしい方だ……」
「魔法ですべてを解決できないってのがソレイユ家の方針だっていうのに、リラ様の魔法があれば、何でも解決できそうだもんな」
「いや、待て、俺は今、起きたばかりで、何か、喋ってたら、顎が、すっげーいだくなってきた。つっこませるな」
お前の顎折れてるぜと言われたのを思い出し、何か急にしゃべるのが怖くなってきた。
二人がちゃんと順を追って話をしてくれた結果、余計によくわからなくなる。
案内の男は死んでいたらしい。そして、レオン様含め俺たちは何とか生き残った。二度目の崩落で三人は半身が生き埋めになり、レオン様は重傷の中俺たちを掘り起こしてくれた。土魔法で周辺を固めたので、全員圧死しなくて済んだようだ。
それに関しては、土魔法を使える同僚をとにかく褒めたたえておいた。とっさの判断がなければ、もしもそれがなければ、確実に死んでいただろう。
その後、レオン様がいう方向へ靴や短剣を使いながら掘り進めていくと、リラ様が引きつれた救援隊と合流できたという。
なんでも、掘る方向の土だけやたらと柔らかく、おかげで爪がはがれることはなかったという。リラ様の水魔法で、土に水分を含ませて柔らかくしていたのだという。意味が分からない。
土砂を押し流すために水魔法を使うことはあるが、量がいるし、かなり魔力を使うので、そんなことは滅多にしない。
そして、水で俺たちの位置を把握して、最短距離で掘り進めてきたらしい。
「あのリラ様が大泣きしてレオン様の無事を喜んでたんだ。目が覚めたら怪我のことなんてそっちのけでレオン様はにやにやするだろう」
「だから俺たちは今暢気にしているんだ」
カーテン越しに二人がいう。
やはり、夢なのだろうか。本当は、みんな死んでいるからカーテンが閉じられたままなのだ。そう思いながら、また眠りに落ちた。
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