第132話 現実
これまでにない集中が求められている中、ぎゃーぎゃーと騒がれて集中が切れかけた。
助けられる者ならば、全員を助けたい。だけど、すでに息のないものがあまりにも多い。
せめて、亡骸だけでもと言うのは理解できる。だが、死んだ者は生き返らない。そう……死んでしまったら生き返らないのだ。だから、生きている間に助けたいだけなのに。
こちらの通路、そして、レオンがいる空間も、できる限り潰れないように支えている。断絶された空間だ。空気が足らなくならないように、僅かだが空気が入るように細い道も保持しなくてはならない。捜索に使った細かい水球はもう消した。もうそちらに回す魔力もないのだ。
どれだけ時間が経っただろう。一時間か、二時間か……。もう、時間の感覚がマヒしている。
わかるのは、あと少しだということだ。
「……っ」
めまいがして、壁にもたれかかる前にザクロに支えられた。
「リラ様……」
大丈夫と聞くことも、無理をするなとも言えず、ザクロが辛そうな顔を見せた。
私に助けを求める図々しいと思った女性は、何の努力もせずに傍観していたわけではない。少なくとも、可能性があると私に縋る努力をした。レオンを助ける代わりにと最初から申し出手入れば、私は手を貸していたかもしれない。けれど、いまの魔力の消費を考えると、他に全く新しい道を掘り進めていたら、既に倒れていただろう。
私は聖人ではない。余裕があれば他者を助けることは厭わない。だが、優先事項を変えてまで、人助けをできる人間でもなければ、万能なわけでもない。
「もう少し………」
胸が苦しい。
そう思っていた時、いきなり、向こう側から手が生えた。目を見開くと、手が引かれ、穴を広げていく。
「た、助かった! 助かりましたよ!」
歓声が上がる。けれど、姿が見えない。それはレオンの声ではない。
出来た穴に駆け寄る。見えたのは男が二人、どちらも国から連れてきた警護で見覚えがある。
「……レオンは?」
声が震えた。
もう、維持するためだけに魔力を使っている。だから、レオンの状態を確認できていなかった。
体の芯が冷え切る感覚がした。
「リラ……」
男の一人が一歩下がると、もう一人姿が見えた。こちらよりも細い穴の先に、確かにもう一人いた。薄汚れた髪でいつもの金髪ではないけれど、その姿はレオンだった。
「ぁ……」
誰かが声を上げて泣いている。それが自分だと気づくのに時間がかかった。
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