第128話 不運は突然に
魔法石の仕分けは屋根のある掘っ立て小屋で、囲いのついた板に土を乗せ、広げて探し当てるようだ。
端の席を借りて、体験をさせてもらう。
水を流したりして、汚れを取りながら調べている。寒い中の作業で、辛いだろうに黙々と働いている。
水で洗えるならと、ずるをして水魔法で土を綺麗にしたら、予想以上に水が出て慌てて消す。それを見ていた横で作業をしていたご夫人に叱られた。
「あんたっ。魔法なんて使っちゃったら魔法石がだめになんでしょ!」
貴族相手に咄嗟に口走ってしまい、周りもだが本人も慌てて頭を下げだした。
「頭を上げてください、ずるをしようとしたのは事実です。でも魔法を使えば簡単では?」
土の中から、四つほど宝石が出た。
「あら……珍しい石が二つも出たんですねぇ」
頭を上げたご夫人が薄い水色の石を摘まんだ。見覚えがある。
「あの、こちらには黒い石は?」
セラフィナも察したようで、そっとご夫人に耳打ちした。それを聞き、表情を歪ませると、顎で小屋の隅をさして、作業に戻ってしまった。
「リラ様、実は、私も色が変えられるようにはなってきたのです」
こそっと言うと、セラフィナがそちらへ向かった。小さな灰色の石を持ってくると、一度私に見せた後、ぎゅっと握り込んだ。目を瞑り集中しているのが分かる。
「………」
黙って少し待つと、ふぅと息を吐いてセラフィナが手を開いた。
黒くくすんでいた石の色が、まだくすんではいるものの随分と明るくなっている。
「……あんた」
作業していたご夫人が立ち上がった拍子に椅子が倒れた。そして、膝をついて頭を垂れ始めた。
「石を浄化できる方があらわれるなんてっ!」
叫ぶようなその声にざわめきが起こる。口々に、これで誰も事故死しないんじゃないかと言う声や、病気の父ちゃんが良くなるという言葉を言っていた。
「あ、いえ、わたくしは」
崇められて動揺するセラフィナに、これで本当に王妃に一歩近づいたのではと感心してしまう。
セラフィナ信仰に巻き込まれないようにザクロと一緒にそっと小屋を出た。
「まだレオン様は戻られないでしょうか」
「なんだかんだで、リラ様はレオン様といるのが当たり前になられましたね」
ザクロが淡々とした口調で茶化す。
「……別に」
そんなことはないと言い返そうとした時、地面の揺れを感じた。直後、坑道から砂煙が噴き出した。
「………え」
砂煙の中、人がアリの巣をつついたようにあふれ出す。
その中にこの国の王がいて、ほっとした。近くにレオンの姿を探し、そちらへ駆け寄る。
「リラ様、あまり近くには……」
ザクロが止めるが、聞き入れない。
「陛下。レオン様は!?」
駆け寄り、薄茶色の土煙で汚れた王に問う。驚いたような顔の後、息を飲むのが分かった。
「違う。謀ったわけではない。あいつはまだ説明を聞きたいというから、先に帰ってきただけで」
本当に慌てた顔をしている。演技ならば役者になった方がいい。
坑道の中に入ろうとしたが、ザクロに止められた。同時に、また地面がわずかに揺れ、入口までが塞がった。
「嘘……」
私が婚約した相手には、何かしらの幸運が訪れていた。
それを見ながら、不要になったからとその家から去るのだ。
レオンとの婚約破棄も、何かの結果、そうなるのだろうと思っていた。
今回は、ソレイユ家に幸運があるのならば、喜ばしいと……だから婚約破棄をしたかった。あの場所は、私の居場所ではないのだから、慣れる前に立ち去りたかった。
「なんで……レオン」
魔力の制御ができなくなるのを感じた。
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