第126話 常識の違い
急だが、基本的な準備はルビアナ国がしてくれたため、数日の荷物をまとめるだけで済んだ。
私の元婚約者の内二人が新しい鉱脈を見つけている。私は同行しなかったが、帰った時の楽しそうと言うか、嬉しそうな顔は覚えている。実際は金の成る木が見つかったことへの下卑た笑いだが、鉱山と聞くと、楽しそうだと思ってしまうのだ。
ただ、道中はあまり楽しくなかった。
二泊かけて向かう道中、馬車は基本この国の王と一緒で、外聞を気にすると言ったらセラフィナとザクロが同乗した。別にレオンと離れて寂しいわけではない。ただこの国の王を相手するのが煩わしいと思ってしまっていた。
「何が不満なんだ。公爵夫人にどれだけの価値がある」
三日目にしてもこんな調子だ。
王城での作業のための際は触らないと書かれていたが、今は適応外だと肩を抱いてくるなどは当たり前にしてくる。
レオンが癒して欲しいと強請ってきたのは、まあ迷惑をかけたしそれくらいはと抱きしめ返したが、特に嫌悪は起きなかった。だが、今は寒気がする。
「俺ならば、どこまでもお前の望むものを与えられる」
「わたくしには王妃など務まりません」
「だが、元々は王太子と婚約していたのだろう」
「手違いがあっただけのことです」
他国でおいそれという訳にはいかないが、私が元は王太子の婚約者だったことは隠しきれない。審問会での一件の有名になったのが主な原因だが……。
「公の場に出る以外の仕事はセラフィナに任せればいい。リラはただ楽しく生活し、浄化の作業をたまにするだけでいい」
セラフィナは優秀だったらしく、今は国王補佐見習いとして遇されている。王妃が案外と忙しいことは知っている。それらの仕事は全部彼女や他に丸投げしろというのは、甘言の中でも最低なものだ。確かに仕事がなければ楽かもしれないが、必要な事を何も知らされないのと同意だ。
飼われるにしても種類がある。提示されるそれらは、金細工の鳥かごに押し込めるものだ。外に出ることも許されず、ただ与えられた食事をするだけだ。最低でも飼い猫くらいの扱いにしてもらいたいものだ。
「ここは俺の国だ。何なら未練を消すこともできるんだぞ」
耳元で囁かれた言葉に、魔法を発動させる。
「む」
口を覆うようにまとわりつく魔法に、国王が驚いた顔をする。鼻を塞がないのは殺人未遂になりたくないからだ。
「陛下。お戯れも過ぎますとこちらも相応の対応をしなければならなくなりますわ」
水を取ろうともがくが、無駄だ。
離れた位置に座りなおすと、すぐ横にザクロが腰かけて隣に誰も座れないようにしてくれた。それから指を鳴らして魔法を切る。
「こんな高度に魔法まで使えるのか」
不敬だと罵られるかと思ったが、目を輝かせている。逆効果だった。前は水をばしゃっとしたが、大した違いではないというのに。
「リラ様は、随分と魔法を使うのがお上手なのですね」
王のいる前では、基本こちらに話しかけることのないセラフィナが驚いたように声をかけた。
「……これくらい、普通では?」
「え?」
セラフィナと一緒に首を傾げる。反対に傾げるとセラフィナも反対に首を傾げた。
「わたくしも、水属性ですが……。このように水球は作れますが、あんな細かい水滴を全て制御はできませんわ」
作り上げた水球を自分の手でぱっと叩くように飛ばすと、ドアにかかって消えた。
「リラ様は、ジェイド様によって弾かれた水を全てジェイド様の口周りに戻しておられました。水滴の全てを別々にコントロールされていたのですか?」
問われて、そんな操作だったろうかと考える。
「あまり深く考えていませんでした」
水属性の人と、その使い方について話す機会は多くなかった。
「魔法と言っても、家によって教え方が変わります。その結果かと」
「そう……ですか」
納得がいかないような顔だが、残された手作りの本と独学で学んだものだ。
「リラは魔法の扱いに関してもずば抜けているということか……」
「うっかり息の根を止めてしまわないよう、陛下も行動はご注意ください。うっかり手元が狂うこともありますから」
うんざりしていると、馬車が止まった。
出るときには必ずと言っていいほどレオンが待っていて降りるエスコートをしてくれる。
手を取っておりるとほっとしている自分がいた。
「一先ず宿についたようです。少ししてから視察に行くことになっています」
そうレオンがいう。
こっちの馬車では、そういう予定をあまり教えてくれないのでとても助かる。
「では陛下、失礼いたします」
移動は国王と同じ馬車になったが、宿泊の部屋は無論別だ。最初はレオンだけ冷遇された対応だったので、私の部屋にどうぞと言ったら続き部屋に変更された。
見せつけるために密着気味にエスコートを受ける。
いつからだろうか、こうやってエスコートを受けるのが当たり前になって、レオンに触れていても変に緊張しなくなったのは。
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