第96話 カクテル伯爵との関係
全てが完璧に見えたレオン達家族も、やはり問題を抱えていた。
ここで一発解決すれば、晴れて婚約破棄となるかもしれない。
だが、規模が大きすぎて流石にどんな幸運があっても無理な気がしてきた。
「家のごたごたを見せてしまい申し訳ありません」
レオンが謝罪するが、前は我が家のどろどろした争いに手を貸してくれたのだ。それくらいは構わない。
「いえ、妹君の心配をされるのはわかります」
私の兄だった人が、ほんの少しでもレオンのようだったら、今頃結果は違ったのだろう。
三人目からは兄が探した婚約者と婚約することが多かったが、決して妹を想って探したとは思えない相手だった。嫁ぎ先で結婚までしていたとしても、支援はもちろん、危機が迫っても放置、水不足の時だけ呼び出されていたとしても不思議がない。
「……アルフレッド・ライラックのことが、まだ気にかかりますか?」
隣に腰掛けているレオンがそっと手を取る。一瞬誰だったかと思ってしまった。
「兄だった相手がどうこうというよりも、レオン様のような兄がいるのが羨ましいと思いました」
「……俺は、リラが妹では求婚できなかったので、妹でなくてよかったです」
世の中には妹を孕ませていいと思う鬼畜もいるが、レオンはそうはなれないだろう。
「五番目の婚約者からは、紹介状を書いてもらいましたけど……。そんなに有名な方になっていたんですね」
話題を変えたくて、別の話をする。
王妃様経由で今回ルビアナに行くから相手国の王様の心証を良くする手紙を書いてくれと言う依頼をした。元婚約者に推薦状を書かされるのも可愛そうだが王宮からの命令ならば嫌とも言えないだろう。
急ぎだったのもあって、返事はとても速かった。ルビアナ国へも直接手紙を送ってくれるとのことだった。
「ゲルフォルト伯爵とは、それほど親しい関係では?」
「……十八歳くらいの時の、四・五年前の婚約者です。あのころからですかね、幸運が得られるという触れ込みがつくようになったのは」
ひとり目と二人目は普通に結婚前の婚約期間に別に女ができた。
三人目と四人目は跡取りを産める若くて健康で魔法が使える貴族令嬢を求めての婚約だった。
五人目の婚約者、ゲルフォルト・カクテルは病床で子作りどころではなかった。元婚約者から話を聞いたのか兄が話を持ち込んだのかは知らないが、幸運があるのではと家門のものが病床の当主と私の婚約を推し進めた。
「通っていた女医とは少し親しくなりましたが、カクテル伯爵とは二人きりでいることもほとんどなかったですね。覚えているのは、死の淵から救われたからには何か意味があるという信奉に駆られるようになってしまったことでしょうか」
「……リラを無碍に扱った相手ではないのですね?」
「蛙ほどひどい婚約者は……いた気もしますがカクテル伯爵は比較的いい家でした」
カクテル伯爵の屋敷では、ごはんはちゃんと出たし、襲われかけたこともない。
「リラに対して無礼だったものの手を借りるのは、あまり気が進みませんので、過去を詮索するのは器量が狭いとはわかっています」
どうせ、遅かれ早かれ婚約破棄をするのだから、私の経歴を知ったところで意味がないだろう。使えるものは使えばいい。
「今は、魔法石の確保とルビアナとの国交に集中しますが……無事に目的が達成されても、少しややこしい事になりそうです。最悪、ミモザたちは無理にでも国に連れて帰ります」
「……ご心配は理解できます。これについては、レオン様の思うようにされるといいかと」
私は家族ではない。他家のことに口は出せない。
「リラ様、レオン様、こちらの地酒を分けていただいたのですが、いかがですか?」
ザクロがつまみとボトルをもってやってくる。
「寝酒は、あまり体にいいものではありませんから。少しだけ頂きます」
昨日供されたお酒は度数が結構高かったので令嬢には向かないものだが、風味がとてもよくて、出された海鮮ととてもあっていた。この国の王族はちょっと気持ち悪いと思ったが、料理人の腕は確かだ。
「そういえば、王城で出されたお酒もおいしそうに飲まれていましたね」
「……」
見られていたこともだが、気に入っていると気づかれたことがなんとなく癪だ。
「私も、そう感じましたので、アクアリオス様一押しの蔵元のお酒を分けていただきました」
「レオン様に加担して私を陥れたことは大目に見ましょう」
よく冷やされた辛口のお酒が小さなグラスに注がれる。強い酒気に混ざって、ふわりと新緑のような風味が鼻に抜ける。
つまみは燻製肉と燻製された海鮮だ。独特な香辛料が使われていて、出されたお酒ととても合う。地酒と地の食べ物は不思議と相性がいい。
「レオン様、リラ様の過去の男を気にするより、目の前の美酒に嫉妬される方が建設的でございますよ」
「この場合は、有能なメイドに嫉妬した方がいい気もするが……」
レオンがこちらを見ていた。その目が、レオンの妹が赤子に向ける視線とどこか似ていた。食べ物で喜んでいるので、子供っぽいと思っているのか……。
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